上智大学 大学院 グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻

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大学院生へのフィールド調査サポート

調査地
タイ・カンボジア
調査時期
2011年3月
調査者
博士前期課程
調査課題
プミポン国王とその一家による声明文、及び国内行幸啓に関する資料の収集
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調査の目的と概要

 本助成金を受けて2010年8月19日~9月14日に「タイ・イサーン地方の地域史資料の収集、及びプレア・ヴィヒア遺跡の周辺環境の調査」を行った。調査では主にプレア・ヴィヒア遺跡問題に関する学術研究書や、タイ国内の新聞において「カンボジア」もしくは「クメール」を取り扱った1992年以降の記事を収集した。収集した資料を分析した結果、問題の根底にはタイ国民が持つアイデンティティは、カンボジアに対抗するように形成されていることが判明した。しかし、アイデンティティの形成に関しては教育の観点からの研究に終始しており、現在の社会動向の影響に関しては分析されていない。
 そこで、本研究では現在のタイ王国において絶大な影響力を持つとされる現国王ラーマ9世(プミポン・アドゥンヤデート陛下(在位1946年~))が行ったタイ国内行幸に焦点をあて、行幸と国民アイデンティティの形成との相互関係について分析することとした。
 本調査は、それらの基礎となる史資料を収集することを目的として行われた。具体的には、
 1)プミポン国王一家による公務記録、及びこれまでの公式声明の収集
 2)行幸関連書籍の収集 
 3)ラーマ9世資料館における所蔵資料内容
 の調査を行った。大まかな調査施設は以下の通りである。
 ①プミポン国王一家による公務記録・公式声明の収集 ―――於:王室庁・内務省・国立公文書館
 ②プミポン国王一家に関するメディア報道の収集 ―――――於:各新聞・TVショップ・国立図書館
 ③スリン県における調査対象村に居住する教授との調査交渉―於:チェンマイ大学教育学部

調査成果

*調査日程 及び 調査地
  • 全日程   2月27日~3月19日(21日間)
  • 調査地
    2月27日~3月8日  タイ・バンコク
    3月9日~3月14日  タイ・チェンマイ
    3月15日~3月19日  タイ・バンコク
*調査成果一覧
目標
評価
調査内容(反省点)
行幸の記録収集
国王公務記録1971年~2003年分
“พระราชกรณียกิจของพระบาทสมเด็จพระเจ้าอยู่หัว”
シリントン王女公務記録 1992~1997年分(全5冊)
“ประพระราชกรณียกิจสมเด็จพระเทพรัตนราชสุดาๆสยามบรมราชกุมารี”
シリキット王妃公務記録 1993年~2003年(全10冊)
“ประพระราชกรณียกิจสมเด็จพระนางเจ้าสิริกิติ์
พระบรมราชินีนาถ”
声明文の収集
国王のお言葉集の存在が明らかに。
“ประมวลพระราชดำรัส และพระบรมราโชวาท ที่
พระราชทานในโอกาสต่างๆ”
⇒国王の声明には、種類があることが明らかに。
国王の用語辞典
未購入 5月に入手可能
ラーマ9世資料館“หอจดมายเหตุแห่งชาติเฉลิมพระ
เกียรติพระบาทสมเด็จพระเจ้าอยู่หัวภูมิพลอดุลยเดช
สำนักหอจดหมายเหดุแห่งชาติ”訪問
利用方法、所蔵資料が判明
⇒映像資料が豊富、国王に関する新聞の切り抜きを
 一覧化している途中
ゴールド教授との面談
×
不在
書籍購入
行幸関係、お言葉、伝記を中心に購入
論文収集
チュラロンコン大学の修士・博士論文を中心に収集
①行幸に関する記録の収集
 資料収集は主にバンコクの国立図書館、チュラロンコーン大学図書館、チェンマイ大学図書館で行った。収集した資料、及び内容は以下の通りである。
  • 国王公務記録
     王室秘書局が編集し、芸術局が発行している国王の年間公務に関する本の収集を行った。この公務記録は1968~2003年のものである。
     プミポン国王の在位は1946年からであるが、積極的に行幸を行うようになったのは1955年以降である。1955年に初めて行った国内行幸は東北地方へのものであり、その後行われた1958年北部、1959年南部への行幸と合わせて、三大行幸と呼ばれている。この行幸に関する本だけでも、10冊以上の書物が出版されている。この後国王は海外へ多く行幸し、国内行幸はあまり積極的に行っていない。国内行幸を再開したのは1965年前後と言われているが、具体的な資料は無い。また、本資料は1971年以降のものであり、それ以前の公務記録については刊行されておらず、今回は収集することができなかった。
     本資料を分析すると、1992年以降国王の公務全体数は激減しており、この頃からシリントン王女の全国行幸が目立って多くなっている。国王自身が最も国内行幸を多く行っているのは1980年代であるが、後半になると行幸は形骸化する。訪問場所、ルート、日程などが毎年ほとんど変わらなくなるのである。この理由については今後考察することとするが、興味深いデータではある。また、行幸を行った先での国王の行動について見てみると、各地方によって重要視していたものが異なることがわかる。北部では山岳民族への衣服等生活物資の支給、東北部では教育施設の訪問及び学習内容の確認、子ども達の出し物の見学が行われている。南部では治水施設の訪問が中心で、それ以外の施設への訪問は少ない。こういった行幸内容の地域別特徴をさらに詳しく分析し、それらがメディアを通じてどのように報道されたかを見ていくこととする。
  • シリキット王妃、シリントン王女公務記録
     国王の公務記録の他、王妃と王女の公務記録も存在することがわかった。ただ、刊行されている年数は短く、内容も国王公務記録に比べて詳しくないことから、今回は資料を持ち帰ることはしなかった。ただし、シリントン王女は東北タイに関する論文も書いていることなどから、今後資料分析の必要性が出てくるかもしれない。
  • 書籍
     国王の行幸に関する書籍は、毎年かなりの数が出版されているが、今回は王室秘書局以外が編集したものに限って収集を行った。例えば、国王に直接声をかけられた人々が、国王への印象を語ったインタビュー集や、行幸の護衛を行っていた警察官の回想録などがある。
②国王の声明文の収集
  • 国王声明文集
     王室秘書局が編集・発行を行っている国王の声明文集を収集した。1968年から現在まで、毎年刊行されている。
     プミポン国王は、毎年自分の誕生日には国民へ向けたスピーチを行う。その他、国王は多くの場所でスピーチを行っているが、その数は公式のものだけでも毎年20回以上に及ぶ。また、今回この資料を読んでわかったことであるが、国王の言葉には7種類の分類があり、聴衆が誰であるかによって重要度を分けている。ただし、一般の国民に向けて語られるのは「พระราชดำรัส(Phra Racha Dam Rat:お言葉)」と呼ばれるスピーチであるため、今回はこのスピーチの収集を行った。
  • 書籍
     国王の言葉は、「คำสอนพ่อ(Kham Shon Pho:父の教え)」と呼ばれ、スピーチから抜き出された書籍が多く出版されている。有名な「足るを知る経済」などの言葉は、その代表である。そこで、国民への宣伝として使われる言葉は、どういった部分が一般的に使用されているのかを知るため、それらの書籍を数冊購入した。
③関連書籍の収集
  • 書籍
     関連書籍としては、2010年に発行された「ラーマ9世伝記」の他、国王と政治との関わりや現王朝であるバンコク(チャクリー)朝の歴代国王に関する解説本、王室プロジェクトの解説本などを収集した。また、即位60周年(2007年)に発行された記念冊子から、記念式典のために行われた全国各地の準備内容、設置されたパネルの数、記念書籍などに関する情報も収集した。ただし、今回手に入らなかったものとしては、国王関連用語辞典がある。国王に関連して使用される語句は、その語源をクメール語に持つものが多く、一般のタイ語からは大きく乖離している。そのため、タイ人向けに「王室用語―タイ語」の辞典が出版されている。こちらは現在注文中であり、5月に入手可能であることがわかっている。
  • 論文
     論文の収集は、主にチュラロンコン大学で行った。国王や王妃の誕生日スピーチを分析したものや、タイにおける「カンボジア」表象を新聞から分析したものなどを持ち帰った。やはり現国王について分析した論文は少なく、それらのほとんどが無批判に国王の業績を称えるものとなっている。国王を批判すると不敬罪として逮捕されるという背景もあるものと考えられるが、タイ語でこれらの研究を書く事の困難さを改めて認識した。
④関連施設・教授の訪問
  • ラーマ9世資料館
     バンコク郊外、ランシット方面に立地する。バンコク中心からバス・タクシーを乗り継いで2時間弱で到着した。この施設は最近開館された、現国王ラーマ9世に関する資料を集めた資料館で、国立公文書館の分館としての役割も果たしている。建物は大きく3つに分かれており、中央部が資料館、左右が国王に関する博物館となっている。
     閲覧する資料はすべてコンピュータによって管理されており、図書館のように自ら探すことはできない。会員登録後、係員の監視のもとで資料検索を行い、資料No.を手渡すと希望の資料を閲覧することができる。所蔵資料は、国王に関する全書籍の他、国王に関する新聞記事、映像資料などがある。新聞記事は国王の広告なども含まれており、将来的に国王のメディア戦略に関する分析を行う際には大きく役立つと考えられる。ただし、現在は数年分のみの収集か完了しているだけであり、全資料を閲覧することはできない。また、映像資料に関してはコピーが難しいことがわかった。外国人が閲覧するためには、資料申請を行った後、国王の許可(おそらく王室秘書局の許可)が必要で、許可をもらうには1ヶ月程度の時間を要するという。今回は、所蔵してある書籍が図書館のものとほぼ同じであったことや、映像資料閲覧が滞在期間中には難しいことなどから、特に収集した資料はない。
     併設されている博物館は、「ラーマ9世の誕生から現在」「ラーマ9世の業績」という2つのテーマで展示を行っている。ほとんどが写真資料であるが、国王直筆の手紙や即位式での署名なども展示されている。また、王室プロジェクトに関しても多くの展示があり、プロジェクトによって生産された商品の展示などを見ることができた。
  • Gold教授の訪問
     将来的な調査地を決定するため、クメール・スリンであるゴールド教授に面会する予定であった。しかし、チェンマイに行って訪問すると、教授はすでに帰省して不在であった。事前にアポイントメントを取ってはいたものの、今回の面談はうまくはいかず、調査地を決定してくることはできなかった。
   以上の他、タイにおいて現国王の行幸に関する研究を唯一行っているランシット大学准教授であるPrakan先生との面談や、「在バンコク日本人タイ研究者研究会(通称タイスクサー)」への参加、現在タイにおいて最も勢力があり、国王も訪問したとされる仏教宗派タンマカーイの総本山の見学なども行った。

*今後の課題
 今後は、収集した資料を分析することはもちろんのこと、ラーマ9世の行幸をメディアがいかに扱い、またそれを国民がどう受容しているのかについても調査する必要がある。そのためには、ラーマ9世の公務を扱った新聞記事の他、全テレビ局が毎日放映している「今日の国王一家」という番組に関する情報を収集する必要がある。
 アイデンティティの形成や、イデオロギーの受容といった、いわゆるエリート層ではない部分に焦点を当てた研究は少なく、また調査方法も大変難しいとされている。しかし、カンボジアとの国境問題を始め、タイが抱える諸問題を解決するためには大変重要な位置を占める研究であると確信する。各地方の住民たちは自らの国民アイデンティティをどう認識し、それを形成するきっかけとなったものが何だったのかについて分析することを、今後の大きな課題としたい。

■ 2011年度 フィールドワーク・サポート(大学予算による)

■ 2010年度調査第2回

■ 2010年度調査第1回

■ 2010年度 フィールド調査サポートによらない学生の調査(フィールドワーク科目による単位認定)

■ 2009年度調査第2回

■ 2009年度調査第1回

■ 2008年度調査

注意:このページ以下に掲載された調査報告の著作権は執筆者にあり、無断の引用を禁じます。また、記述の内容は必ずしも地域研究専攻の学術上の姿勢と同一ではありません。

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