上智大学 大学院 グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻

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大学院生へのフィールド調査サポート

調査地
パナマ
調査時期
2010年9月
調査者
博士前期課程
調査課題
パナマにおけるプロテスタント、ペンテコステ派の現状と改宗者の日常生活における機能に関する調査
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調査の目的と概要

近年、発展途上地域の中でもラテンアメリカやアフリカで新しいタイプのプロテスタント(ペンテコステ派、pentecostals)が急増し、世界の宗教地図を塗り替える勢いである。カトリックの牙城といわれるラテンアメリカでもカトリック教会の勢力は衰退し、活性化しているのはペンテコステ的カトリックであるとされている。米国起源の保守的でエモ―ショナルなペンテコステはこれら地域の貧しい民衆の中に浸透し、社会の安定化と冷戦後の米国主導の国際秩序を底辺から支える役割を果たしている(乗、2005:9)。El Panama America紙の調査では、パナマでは30万人(人口の約10%)がペンテコステ派信徒とされている。本調査は、ペンテコステが格差の大きいパナマ社会においてどのように浸透してきたのか、またパナマ社会においてどのような役割を担っているのかを明らかにすることを目的として実施された。
 調査は、同宗派の拡大の過程と現状、および信徒の日常生活について、ペンテコステ派の主要教会における資料収集と聞き取り調査を軸に行われた。具体的には@パナマ市内の主要ペンテコステ派教会:「クアドラングラール福音派教会」(Igresia del Evangelio Cuadrangular)および「アッセンブリー・オブ・ゴッド(Aseemblies of God)」における牧師または教会関係者への聞き取りと資料収集、A貧困地域『24 de Diciembre』 においてペンテコステ派信徒へのインタビュー調査およびアンケート調査、Bパナマ大学をはじめとする同テーマの専門家との面談、C研究機関、主要図書館における文献収集、である。

調査成果

1.パナマ国内のペンテコステ派教会では最大規模の「クアドラングラール福音派教(Igresia del Evangelio Cuadrangular;ForthSquer教会の)」と「アッセンブリー・オブ・ゴッド(Assemblies of God)」を訪問し、創立の歴史と信徒数の推移、現在の活動内容について聞き取りおよび資料収集。

「クアドラングラール福音派教会(Igresia del Evangelio Cuadrangular)」では、 創立の歴史に関する資料収集やこの教会の歴史に詳しい牧師、宣教師にインタビューし、現在に至るまでの課程を明らかにすることができた。また、信徒(医者、元軍人)に、教会の役割をインタビューした。また、ミサに参加し、どのような層の人々が参加しているかの参与観察と、活動内容などの情報収集を行った。さらに、信徒数の推移に関する資料収集を行った。この調査により、この教会の全体的な概要を把握することができた。

「アッセンブリー・オブ・ゴッド教会(Las Asambleas de dios)」では、同様に、創立の歴史に関する資料収集と、牧師(女性)に創立から現在に至るまでの課程等のインタビューを行った。現在パナマ市で一番大きいとされるペンテコステ派(福音派)の教会は、アッセンブリー・オブ・ゴッド教会の支部である「オサナ(Hosanna)教会」である。1980年に、パナマ市のカリドニア(Calidonia)に創立されたが、後にパナマ市中心街のビア・エスパーニャ(via Espana)へ場所を移動した。当初は、50人の信徒数であったのが、現在では17,000人に増加している。この教会の牧師(女性)へのインタビューからは、「アッセンブリー・オブ・ゴッド教会(Las Asambleas de dios)」は創立された1957年当初は、下層階級の人々を対象に布教されたが、現在では、大学の教授、アーティストなどの様々な職種・階級の人々が信徒となっていること、これらの人々が同じ場所で交流する場所や機会を与えていることがわかった。また、ミサに参加し、どのような層の人々が参加しているかの参与観察を行った。しかし、教会自体がかなり大きく、今回の少ない調査日程の中では、ある特定の信者へのインタビューは実施することができなかった。

2.パナマ市の貧困地域「24 de Diciembre」においてペンテコステ派宗徒に、改宗後の生活の変化について、社会的、経済的側面を中心とするアンケート。

「24 de Diciembre」は、パナマ市の中でも、貧困地域として知られ、犯罪、恐喝、盗難が多発する地域などで知られる危険地域でもある。この地域の長年の住民であるインフォーマントによると、最近この地域での金銭に関連する暴力(violencia)が増えているという。もともと、この地域は『Realengo』と呼ばれていたが、Pacoraの境界線に位置する場所として、1978年に『24 de Diciembre』と改名された。この場所には、パナマ国内部(Los Suntos,Cocle,Herrera,Chiriqui,Veragas.)のような地域から、仕事を得るため、またよりよい将来を描いてこの地域へ移り住んできた人々が多い。
 この地域にある、ペンテコステ派の教会『Eden Celeslial 24 Diciembre 』に、2010年8月31日(火)の夜7時からのミサに参加し、信徒66人(聞き取りによると約数百人の信徒数が いる)を対象に、改宗後の生活の変化、経済的変化、ネットワークなどについての質問項目(計15)を含むアンケートを実施した。報告者は、2008年にこの教会に通う一部の信徒のオーラル・ストリーをとっており、また他のラテンアメリカのペンテコステ派研究の文献、パナマで得られた情報を考慮した上で、質問作成に努めた。アンケート回答者のうち、31人が男性、35人が女性であった(子どもを含む)。回答者の多くが、この教会の週4回のミサに参加している。これらのアンケートによって、全体の54%の人々が、改宗以前の抱えていた問題(家族問題、麻薬依存症の問題、失業問題、精神的鬱病、刑務所での服役経験があった等)が改宗後に改善したということ、精神的・経済的に良くなったなど、改宗後の生活の変化が見られた。改宗後の新しいネットワークの有無に関しては、全体の約77%の人々が得られたと回答し、男女ともに信頼できる友達の繋がりという回答が目立った。また、仕事のネットワーク、社会的な繋がりと回答する人もいた。この回答をもとに、他地域から、移住してきた人々が多いということ、また暴力が最近増加しているという地域的背景から、教会では新しい、信頼できる友情のネットワークを得る場所として機能していると言えるであろう。
 しかし、改宗と経済的変化の関連性に関しては、女性の大多数が無職であったこと等で、相関関係が見られなかった。しかし、中には、改宗したことにより就労態度が改善され、そのことが経済的収入の増加につながったなどの回答も見受けられた。
 今回のアンケート調査では、質問項目に対して選択で回答してもらう様式よりも記述式の回答欄を多く設けてしまったために、回答が、報告者の意図した質問に呼応する回答ではないものも見受けられた。パナマは、世界銀行の「人間開発報告」によると、識字率が95%と他の発展途上国に比べるとよい値を出しているが、実際にアンケートをしてみると、字が書けない人がいたり、回答の多くがパナマ独自のスペイン語やスラングを個性の強い筆記体で書かれていたために、解読するのに苦難した。その点を、今回の調査の反省としたい。

3.パナマ大学のパナマ歴史専門家であるFrancisco Herrera 教授に、パナマにおける現代の貧困層におけるカトリックとプロテスタントの社会的役割についてインタビュー。

 2010年8月24日にパナマ大学のパナマ歴史専門家であるFrancisco Herrera 教授にパナマ社会の歴史や、貧困層におけるカトリックとプロテスタントの社会的役割に関するインタビューを実施した。Herrera 教授に行ったインタビューからロテスタント教会が「階層の垣根を越えた繋がりを得るための場所を提供していること」という情報を得ることができた。

4.パナマ大学、スミソニアン研究所、パナマ国立図書館、クリスチャン専門の本屋などで、ペンテコスタリズムに関する文献は限られていたが、収集。  

パナマ社会と関係、またはパナマのプロテスタンティズムを記述している主な文献は下記の通りである。
Butler, Charles Owen.(1964)Protestant growth and a changing Panama : a study of Foursquare Gospel and Methodist patterns  Dallas, TX : Southern Methodist University Moreno, V.H. (1983) ‘El Protestantismo en Panama’, La Antigua 22: 73-120
 以上、現在は、これら文献の他に収集してきた文献を読み込んでいる最中で、今回の調査をもとに修士論文を執筆したい。
最後に、今回の調査は、文部科学省研究拠点形成費等補助金による大学院教育改革支援プログラム「現地拠点活用による協働型地域研究者養成」の一環の支援を受け、実施することができた。
 パナマ調査準備にあたって四苦八苦していた報告者に対し、温かく指導・協力をしてくださった指導教官である幡谷則子先生、現地で多大な協力をしてくださったパナマ大学のFrancisco Herrera 教授をはじめ、アンケートに回答してくださった人々、調査に協力してくださった全ての人々にこの場をお借りして、深く御礼を申しあげます。

■ 2011年度 フィールドワーク・サポート(大学予算による)

■ 2010年度調査第2回

■ 2010年度調査第1回

■ 2010年度 フィールド調査サポートによらない学生の調査(フィールドワーク科目による単位認定)

■ 2009年度調査第2回

■ 2009年度調査第1回

■ 2008年度調査

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