上智大学 大学院 グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻

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大学院生へのフィールド調査サポート

調査地
カンボジア
調査時期
2010年9月
調査者
博士前期課程
調査課題
ポル・ポト時代の国民和解に取り組むNGO団体への聞取り調査および資料収集
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調査の目的と概要

本調査の目的は、国際社会が注目する元クメール・ルージュ(以下、KRとする)幹部を裁くカンボジア特別法廷(以下、ECCCとする)が開廷しているなか、カンボジア現地NGO団体の活動にあえて焦点をあてることで、同国の国民和解を考えるにあたり、現地NGO活動の重要性を考察し、またカンボジア特別法廷の役割を再度整理することを目指すものである。調査地は首都プノンペンとシェムリ・アップで行われた。調査対象としたNGOは以下2団体である。
・カンボジア史料センター(Documentation Center of Cambodia:DC-Cam)
・社会開発センター パブリックフォーラムユニット
(Center for Social Development:CSD Public Forum Unit)
以上2団体の活動内容について聞取り調査、活動報告書の収集を行った。また、プノンペンにあ るトゥール・スレン(ジェノサイド・ミュージアム:S-21)やキリング・フィールドのひとつである、チュン・エク村(現、CHOEUN EK GENOCIDAL CENTER)では、展示内容からカンボジアの人々がどのようにポル・ポト時代を考え、伝えようとしているのかを把握するために、施設内を数回にわたり見学した。さらに、敷地内に入ることはできなかったものの、プノンペン郊外に位置するカンボジア特別法廷の裁判所を外側から見学した。
シェムリ・アップでは、ツアーに参加し、ポル・ポト時代の貯水池やポル・ポトの火葬場を訪れ ることで、当時、および現在の現状についての情報・資料収集も今回の調査で行った。
報告者は、約3週間の現地調査において、資金提供団体にのみ提出されたNGOの貴重な活動報告書を入手することができた。また、次回現地調査に向けて人脈をつくることができた。

調査成果

 現在、カンボジアでは、1975年4月から1979年1月までのKR政権時代におこなわれた虐殺、拷問などの重大な人権侵害について、その幹部及び最も責任のある者を裁くことを目的に、カンボジア特別法廷が設置されている。同法廷は、カンボジア人と外国人の検事、判事によって構成された「ハイブリッド(混成)」法廷である。2006年から正式にカンボジア国内で開廷し、国際社会の注目を集めている。
 本調査では、国際社会が関与しているカンボジア特別法廷に注目してしまいがちな視点を、現地NGOの活動にあえて焦点をあてる。草の根レベルで「クメール・ルージュと国民和解」を考える現地NGOの活動内容を分析することで、カンボジアの人々にとっての国民和解における役割を考察する。2団体の活動内容は下記の通りである。

■カンボジア史料センター(Documentation Center of Cambodia:DC-Cam)
 首都プノンペン、独立記念塔近くに事務所を構えている。カンボジア史料センター(以下、DC−Camとする)は1995年1月にCambodia Genocide Programによって設立され、97年1月1日に正式に独立したカンボジア調査会、NGOである。この頃から、DC−CamはKRに関する広範囲にわたる調査と文書活動を続けてきた。また、歴史や事実に対して公平な調査・研究をおこなうとともにKR時代における情報を普及させることに努めている。
 事務所内は、DC-Camが現在までに出版してきた書籍、またはKR時代に関する書籍を自由に閲覧することができ、また購入することができる。
 聞き取り調査では、DC-Cam:Victim Participation Projectのチームリーダーの方にインタビューすることができた。
 インタビューは、同団体の活動内容の把握から始め、カンボジア特別法廷との関係性、そして国民和解に対する見解について検証した。DC-Camは、KRに関する記録や資料を地方へ収集に行き、ファイリングする作業をおこなっている。その資料は、必要に応じてECCCへ申請を行う。同団体の活動で特筆すべき点は、Civil Party、犠牲者のために支援するセクションである。犠牲者のなかには字を読むことができない、被害内容を報告したくてもアクセスする状況があまり良くない環境にいる人々がいる。その場合に、DC-Camはこのような人々を対象に地方へ聞取り調査をおこない、犠牲者に関するファイルを作成していく。このことから、DC-amの活動には、犠牲者をサポートしていく役目があると述べた。
 同団体の活動理念として、“記憶と正義”という言葉を繰り返し使用していた。KR時代に起きた悲惨な出来事を忘れてはいけない、未来の世代に伝えることの必要性を説き、高校生と教員を対象にKR時代に関する歴史教科書を初めて作成した。この歴史教科書は、カンボジアの人々自身が、自らの歴史を語ることができるようにしたいという目的から作られ、今後、教育現場で使用される方向にある。現在、KR時代に関する教育が重要になってきている印象を受けた。同時に、KR時代に何が起きたのかを話し、伝えること、そして理解することの重要性を述べていた。過去にとどまっていたことを、ECCCの存在やDC-Camの活動をきっかけに未来へ動きだそうとすることが、国民和解につながると述べた。
 本調査で入手した文献は以下のごとくである。

・Documentation Center of Cambodia、2007、“A HISTORY OF DEMOCRATIC KAMPUCHEA(1975 -1979)” Documentation Center of Cambodia (歴史教科書)
・Documentation Center of Cambodia and the Ministry of Education, Youth and Sport、2009、”TEACHER’S GUIDEBOOK THE TEACHING OF “A HISTORY OF DEMOCRATIC KAMPUCHEA(1975-1979)”” Documentation Center of Cambodia and the Ministry of Education, Youth and Sport
・Huy Vannak、2010、”BOU MENG A SURVIVOR FROM KHMER ROUGE PRISON S-21 JUSTICE FOR THE FUTURE NOT JUST FOR THE VICTIMS” Documentation Center of Cambodia
・Jaya Ramji-Nogales、Anne Heindel、2010、”GENOCIDE Who Are the Senior Khmer Rouge Leaders to Be Jugged?:The Importance of Case 002” Documentaion Center of Cambodia
・John D. Ciorciari、2006、”THE KHMER ROUGE TRIBUNAL” Documentation Center of Cambodia
・John D. Ciorciari、Anne Heindel、2009、“ON TRIAL:THE KHMER ROUGE ACCOUNTABILITY PROCESS” Documentation Center of Cambodia
・Meng-Try Ea、Sorya Sim、2001、”Victims and Perpetrators? Testimony of Young Khmer Rouge Comrades” Documentation Center of Cambodia
・Meng-Try Ea、2005、”THE CHAIN OF TERROR:The Khmer Rouge Southwest Zone Security System” Documentation Center of Cambodia
・Suzannah Linton、2004、“Reconciliation in Cambodia” Documentation Center of Cambodia

■社会開発センター(Center for Social Development:CSD)
 社会開発センター(以下、CSDとする)は、1995年6月に非営利団体として設立された。人権の尊重、法の支配の向上や発展などを目的に、国内事情における関心や問題意識を高める取り組みを行っている。CSDはさらに5つのユニットに分かれ、各事業を実施している。
 本調査では、1996年に設立したKRと国民和解について取り組んでいる、パブリック・フォーラムユニットを対象に聞き取り調査を行った。同ユニットは、当日に訪問するまで連絡が取れず、多少の不安もあったが、住所をもとに直接訪問することを試みた。
 3人のスタッフの方が迎えてくれ、パブリック・フォーラムユニットの活動について聞くことができた。同団体では、主に活動内容を中心に、フォーラム開催時の写真を見ながら説明をしていただくこととなった。
 パブリック・フォーラムユニットでは、カンボジア特別法廷が開廷する以前の2000年に最初のシリーズである“正義と国民和解”をテーマにバッタンバン、プノンペン、シハヌークビルの3か所でフォーラムを開催した。このフォーラムには元KR兵士、KR時代を経験した一般市民、学生などが参加し、当時の出来事について“話す場”というのを設けているということだ。2000年の活動報告書は、CSDのホームページから入手可能であるが、現地事務所を訪問した際に、製本された報告書を入手することができた。また、2000年以降の活動が不明であったために、2000年以降の活動内容について聞いてみると、第2回は2006年に開催され、以降、毎年カンボジア各地でフォーラムが開催されていたとのことだ。カンボジア特別法廷関係者も招待され、当時の様子、カンボジア特別法廷への見解や国民和解実現について話す場の提供を行っていた。しかし、2009年の活動では、計画していた3つの地域のうち、2つは開催することができず、また、2010年の活動に関しては、資金不足のためフォーラムは開催できないとのことだった。
 また、フォーラムを開催することの難しさの一方、パブリック・フォーラムユニットによるこの活動は、カンボジア特別法廷のスタッフや元KR兵士たち、一般市民などにとって、それぞれが情報交換や収集する場に役立っていると述べた。
 本調査では、急に訪問するかたちになってしまったが、快く話を聞いてくださり、資金提供団体向けにしか提出していない貴重な活動報告書、およびフォーラムに関する写真を入手することができた。
本調査で入手した文献、活動報告書は以下のごとくである。
・Center for Social Development、KIOS、the Finnish NGO Foundation for Human Rights、2002、“THE KHMER ROUGE AND NATIONAL RECONCILIATION-OPINIONS FROM THE CAMBODIANS” Center for Social Development
・Center for Social Development、diakonia、Deutscher Entwicklungsdienst、2007、”BOOKLET PUBLIC FORUM ON JUSTICE & NATIONAL RECONCILIATION” Center for Social Development
・2008、Annual Report of CSD Public Forum Unit
・2009、Annual Report of CSD Public Forum Unit
・フォーラム開催時の写真(計47枚)

■その他の調査
 本調査では、NGO団体への聞き取り調査のほかに、トゥール・スレンやキリング・フィールドへ見学を行った。この調査は、展示内容からカンボジアの人々がどのようにポル・ポト時代を考え、伝えようとしているのかを把握することを目的とした。
 ジェノサイド・ミュージアムでは、トゥール・スレン強制収容所の生き残りのひとりであるチュム・メイさんにお会いすることができた。2009年から語り部ボランティアとしてほぼ毎日トゥール・スレンを訪れ、当時の様子について語っている。施設内を周りながら自身の体験を語って下さり、当時の様子について貴重なお話を聞くことができた。また、展示室に関しては、以前にはなかったカンボジア特別法廷に関する展示室が新たに設けられていることに気付いた。
 施設内は、多くの個所で整備中であったため、今後さらに展示室の整備が進んでいく印象を受けた。

総括
 本調査は、対象とするNGO団体の活動内容の把握、およびトゥール・スレンやキリング・フィールドなどを訪れることで、当時・現在の状況を把握することを主な目的とした。
 対象としたNGO団体から、貴重な活動報告書を入手できたものの、聞き取り調査に関しては、まだ不十分な点もあった。その他調査における施設等の見学は、時間をかけて行うことができ、施設内、当時や現在の様子を把握することができた。今後の課題は、本調査で入手した資料を整理し、国民和解に向けて各団体がどのような取り組みを行っているのかを具体的に分析することである。

■ 2011年度 フィールドワーク・サポート(大学予算による)

■ 2010年度調査第2回

■ 2010年度調査第1回

■ 2010年度 フィールド調査サポートによらない学生の調査(フィールドワーク科目による単位認定)

■ 2009年度調査第2回

■ 2009年度調査第1回

■ 2008年度調査

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