上智大学 大学院 グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻

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大学院生へのフィールド調査サポート

調査地
ペルー
調査時期
2010年9月
調査者
博士前期課程
調査課題
ペルーの農村地域における持続可能な経済発展メカニズムに関する研究−アルトパロマルコーヒー豆協同組合のモデルケース分析を中心に
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調査の目的と概要

今回実施した調査の説明をするにあたり、始めに研究テーマに関して説明する。
 研究テーマは、「ペルーの農村地域における持続可能な経済発展メカニズムに関する研究−アルトパロマルコーヒー豆協同組合のモデルケース分析を中心に」である。本研究の目的は3つある。1つ目はアルトパロマル協同組合が地域開発のモデルケースと成り得た要因について分析すること。2つ目は同組合の経済面および環境面の両側面において持続可能であるかどうかについて分析すること。そして、3つ目は以上の2点を踏まえ、同組合の日本への有機栽培コーヒー豆の輸出可能性を中心に、販路の拡大可能性について検討することである。
 第1回目にあたる今回の調査の目的はアルトパロマル協同組合のモデルケースについて次の3点を中心に調査することであった。同組合の取り組み、事業内容そしてメカニズムを調査すること、コーヒー豆の栽培加工方法を知り、コーヒー豆の販売ルートや輸出方法を調査することであった。研究テーマにおける本調査の位置づけは、1つ目の目的であるアルトパロマル協同組合が地域開発のモデルケースと成り得た要因を分析することであった。
 本調査は、2010年8月下旬から9月下旬、場所は首都リマから350km東方に位置し、標高1500mのフニン県チャンチャマヨ郡にあるアルトパロマル協同組合で行った。主な調査内容は次の3つである。1つ目は、アルトパロマル協同組合の代表者および組合員への聞き取り調査。2つ目はコーヒー豆農園の見学、3つ目はコーヒー豆加工工場の見学である。中でも、特に注力したのは、1つ目の代表者および組合員への聞き取り調査である。具体的な調査の内容および結果は次のとおりである。

調査成果


2.調査概要および結果

 同組合の代表者および組合員へ聞き取り調査を行った結果、次の3つの事柄が明らかとなった。第1に、同組合が行っている主な取り組み、第2に同組合の抱える課題とその解決策、第3に同組合の今後の活動や展望である。

【同組合が行っている主な取り組み】
 まず、同組合の主な取り組みについては次の5つが挙げられる。
1つ目は、同組合が組合員の子供に教育の機会を平等に提供していることである。具体的には、同組合はこの地域の住民が教育が充実していないことを理由に他地域へ流出することを防ぐために、子どもたちが不自由なく学校へ通えるよう、現在1つしかない学校を増設したり、教師の増員を行うなどして教育施設への多大な投資を行っている。
 2つ目は、組合員に対するコーヒー豆栽培の技術指導である。この地域では、有機栽培に特化し、均一な質のコーヒー豆栽培をめざしている。この目標を100名存在する組合員の一人ひとりが共有し、達成に向けて励むよう農業技術者が綿密な指導を行っている。聞き取り調査では農業技術者の一人と話すことができ、指導は定期的あるいは必要に応じて一人ひとりの組合員に行っており、指導をする前と後とでは栽培方法に大きな違いが見られたと言う。具体的な違いは、コーヒー豆の品質の向上やこれまで有機栽培の方法を知らなかった農民が有機栽培の方法を身に付けたことであった。
 3つ目は、同組合が独自に貸付けサービスの提供を行っていることである。具体的には、組合員が同組合に対し借金をする場合、多くはコーヒー豆栽培に必要な道具や材料を入手するためである。これを踏まえ、同組合は組合員に対し、借金するのではなく、組合員が実際に必要としている物品を提供した方がよいのではないかと考えたのである。このように、組合員は物品の提供をしてもらい、返済はお金ではなく、納品の際に各自が栽培したコーヒー豆で返済する形式を採用している。聞き取り調査によれば、この方式は近年採用したばかりで、現在のところ上手くいっているとのことであった。なお、このような仕組みは、返済の際の農民への負担を軽減すばかりでなく、資金を貸した場合の使い道が明確ではないために、コーヒー豆の栽培ではなく他の用途に転用するのを防ぐ役割も担っているため、画期的な方法であると考えられている。  4つ目は、組織力強化のための取り組みである。この取り組みを行うにあたり、同組合は3年ごとに組織力強化のための戦略プロジェクトを策定している。明確な目標や具体的な実践方法を考え、組合員全員と情報を共有するものである。2009年には1つのプロジェクトが終了し、現在はその反省ならびに評価を行い、次期のプロジェクトに反映されるよう活動を行っている。
 5つ目は、販売促進の取り組みである。2001年に同組合が組立されて以来、販路の拡大に注力しており、当初ペルー国内限定で流通していたアルトパロマル・コーヒー豆が、現在は欧米で流通されるに至った。これは、同組合の地道な努力と外国からの支援によるものだと組合員は考えている。

【同組合の抱える課題とその解決策】
 他方では、同組合の抱える課題は少なくない。主なものとして、環境保全、価格保証、コーヒー豆の品質の向上、次世代育成の4つが挙げられる。
 1つ目の環境保全に関しては、この地域は昔からコーヒー豆栽培を行っており、その当時に環境への負荷をほとんど考慮せず、コーヒー豆を栽培していたつけが、昨今気候変動や土壌の問題として浮かび上がっている。このような現状を踏まえ、同組合は環境への負荷を軽減するために全てのコーヒー豆の栽培を有機栽培に限定している。生産量は農薬を使用していた時に比べだいぶ減少しているため、短期的には経済面で農民に対し影響があるが、長期的には持続可能なコーヒー豆の栽培ができるというメリットを考えるとデメリットは打ち消されると考えられている。
 2つ目の価格保証の課題は、先述の貸付けサービスを行うことにより対応するほか、コーヒー豆価格が国際的に変動した際に各組合員に対し最低価格を保証する方式を採用している。そうすることにより、組合員の家計への衝撃を緩衝することができ、コーヒー豆の栽培を安心して継続できるのである。
 3つ目のコーヒー豆の品質向上の課題に関しては、販路拡大に直接影響する問題でもある。現在同組合で栽培されるコーヒー豆は国内および欧米の国々に輸出されている。販路は同組合の組立当時と比較し、大きく拡大したと言える。しかしながら、例えば日本のように品質基準の高い国に対しては、その基準に到達していないために輸出ができないというのが現状である。この問題の背景には、大規模な組合であるということが関係している。100名存在する組合員のコーヒー豆を均質化するのは至難の業であり、技術指導を行ってもなお現在のところ達成できていない。技術指導以外にも、定期的な勉強会や講演会の実施、首都リマへの出張、研修などの取り組みは行っているものの、根本的な問題解決には至っていない。この問題が解決なされない限り販路は限定的になってしまうという事態は避けられない。そのため、残された課題と捉え、課題解決に向けて今後も活動を行っていく方針であると同組合の代表者は語っていた。
 最後の次世代育成の課題に関しても同様に深刻であると言える。この地域において学校は小中学校が合わさった1つの学校しか存在しない。そのため、指導教員の数も限定的であり、教師の質も高いとは言えないことから、より質の高い教育を求めて他の地域に住民が流出してしまう問題がある。そうなれば、将来的に同組合を担う世代は徐々に減少していき、組合そのものの存続が困難となる。その問題を回避するために、教育設備への投資や教師の増員、教師に対する訓練や指導を行っている。今回の聞き取り調査では教育問題を扱っている担当者にインタビューすることができ、その取り組みや進展などをきくことができた。その結果、今のところ着手したばかりの段階であり、短期的にすぐ効果が表れるものではないために、どれだけ改善が見られるかは未知であるが、今後も教育問題を優先課題と捉え、課題解決に向けたさらなる取り組みと投資を行う予定であると語っていた。

【同協同組合の今後の活動】
 以上のとおり、同組合の取り組みや抱える課題とその解決策について調査することができたが、今後の取り組みに関して質問をしたところ、大きく5つの点を挙げてくれた。
 1つ目は、将来の展望を見据え、持続可能な協同組合を維持することであり、これまで行ってきている経済面ならびに環境面に配慮したコーヒー豆の栽培を継続することが不可欠であるという認識を持っている。2つ目は、組織力の強化であり、現在100名存在する組合員の意識や協同組合に対する共通の理念の構築ならびに維持、目標など同組合組織力の根幹を担う共通の認識を一人ひとりの組合員がもつことが大切であるため、それを共有し、理解のある組合員の育成にも力を注いでいかなければならない。
 3つ目は、前述の教育へのさらなる設備投資、4つ目は高い品質を要求する諸外国に向けたコーヒー豆の輸出である。このためには、まずコーヒー豆の品質を均一化させ、向上させることが必要不可欠となる。最後は、政府から支援を受けられるよう働きかけを行うことである。現在のところ主な支援は外国のNGO団体によるものであり、ペルー政府からの支援はほとんど受けていない。外国からの支援は受けているものの、例えばアルトパロマル協同組合から都市部へコーヒー豆を運送するためのインフラ整備や教育設備の拡大などといった大規模な投資に関しては、政府からの支援に依存せざるを得ない。そのため、今後も政府支援の申請を継続的に行っていく予定である。

3.調査を終えて
 本調査を終えて、3つの点を特筆しておきたい。
 まず、同組合の立地に関してである。首都リマから山岳地帯を越え、森林地帯に到着し、更に舗装されていない道路を2時間、出発から10時間後にようやくアルトパロマル協同組合に到着することができた。舗装されていない道路へは一般の乗用車で通ることができないために相乗りのタクシーを利用したが、相乗りであるために予定よりも到着時間が遅くなってしまった。このように、遠方である上に、交通の便が発達していないということが研究の妨げになっている。
 次に、同組合での聞き取り調査に関して、代表者や組合員の対応に関しては非常に好意的で、これまでにNGO団体の調査員や研究者等が既に訪れていることもあり、対応には慣れている様子であった。そのため、聞き取り調査はスムーズに行えたと考える。同組合の立地が都市部や町から離れたところにあるため、次回の調査からは同組合の訪問者専用の宿泊施設を利用したり、組合員のご家庭に泊らせていただくことを考えている。この経験を通じ、現地の状況や生活環境の把握にもつながると考える。
 最後に、目的達成度に関しては、当初の調査目的であった同組合が地域開発のモデルケースと成り得た要因を分析することは達成できたように思う。ただし、今回の調査では幅広く、多様な情報を得ることができたが、今後は焦点を絞り調査を行う必要性を感じたため、調査前の事前準備等を綿密に行う必要があると考える。

4.今後の課題
 第1回目の調査を終え、以下の3点を今後の課題として挙げる。
 まず、フニン県チャンチャマヨ郡サンルイス・デ・シュアロ村が自身の出身地の近隣であることから、必要以上に感情移入をしてしまい、客観的な視点で分析できないことが懸念される。そのため、本研究を続けていくにあたり、外部のより新鮮な視点から同組合を分析する必要があると身に染みて感じた。
 次に、前項にも関連していることであるが、客観的な視点で研究を進めるためには、常に地域研究の枠組みで研究を進めなくてはならないことを改めて認識した。そのため、先行研究として他の地域の地域開発と協同組合の関係を調べることが必要不可欠だと考える。そして、その上でアルトパロマル協同組合の分析を行う。また、同組合に着目し過ぎないという点を大前提に、地域全体との関連性やこの地域の歴史的概要を把握した上で研究を進めることが大切であると考える。
 最後に、以上の2点を踏まえ、まずラテンアメリカやペルーに限定せず、世界における地域開発と協同組合の関係を把握することを先行課題とし、来る3月に実施予定の調査に臨むこととする。

■ 2011年度 フィールドワーク・サポート(大学予算による)

■ 2010年度調査第2回

■ 2010年度調査第1回

■ 2010年度 フィールド調査サポートによらない学生の調査(フィールドワーク科目による単位認定)

■ 2009年度調査第2回

■ 2009年度調査第1回

■ 2008年度調査

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