上智大学 大学院 グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻

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大学院生へのフィールド調査サポート

調査地
モロッコ ラバト市
調査時期
2009年3月
調査者
博士前期課程
調査課題
モロッコにおける穏健派イスラーム主義政党「公正開発党」―その支持基盤の実態調査
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調査の目的と概要

本調査は、モロッコの合法イスラーム政党「公正開発党」を調査するものである。20世紀後半から、イスラーム世界の各地でイスラーム復興が従来の政治体制に挑戦してきたが、イスラーム復興は単に世俗的で民主的な政治空間を完全に否定したわけではなかった。そのような流れの中、イスラームに立脚するイデオロギーをもった政党(イスラーム政党)が登場し、民主的な選挙制度を通じてその主張を展開し始めたのである。政教分離が唱えられているトルコでは、イスラーム政党である「公正発展党」が政権を担っているなど、穏健派イスラーム政党の活動が関心を集めている。モロッコの公正開発党も、アラブ諸国の中での実験例として注目されている。

そこで本調査では、モロッコにおいてはじめて合法化された公正開発党の党員や幹部にインタビューを行い、政党という立場からイスラームの原則の主張を行うという新たな政治的可能性、またイスラームの原則に立脚することで背負う問題や限界というものを考察する。イスラームの原則に立脚しながら、政党という形で政治に参加する道を選んだ契機や要因、またイスラームの原則の尊重を第一に据えるイスラーム政党が抱える問題(特に女性・家族問題)を分析するため、本調査を行う。イスラーム政党が政治を担当できるかどうか、モロッコの例は、アラブ・イスラーム諸国の事例として注目すべきものである。

本調査により、上記したようなイスラーム世界での一潮流であるイスラーム政党の登場・増加を、モロッコを事例に検証し、これからイスラーム政党が担っていくであろう、イスラーム世界での民主化への新たなアプローチを分析する。それによって、@モロッコにおける政治・政党制勢力図を再構成し、またAイスラーム主義が議会制民主主義制度にどのように取り込まれ、または取り込まれていないかを考察することができる。

調査成果

本調査では、公正開発党の幹部や党員、そして党の重要な支持基盤であるユース支部のメンバーへのインタビュー調査を行った。聞き取り調査を行うことができた党員は、国会議員、地方議員、次の選挙での候補者、そして学生が中心となって運営しているユース支部のメンバーと多岐にわたる。

インタビューは、公正開発党の基礎情報(党員の人数・構成の割合、支持基盤)や、党の起源からイスラーム政党が認められない時代を経て、合法化となるまでの過程をまとめ直すところから始めた。その後、一般的に「イスラーム政党」と呼ばれているこの党が、自分たち自身をどのように認識しているのかを検証した。イスラームの教えに立脚している政党をイスラーム政党と呼ぶが、彼らの考えでは、国教でもあるイスラームは、国民の生活そのものであり、党のマニフェストやアジェンダにイスラームの教えを主張することは当然のことである。他の政党も同じようにイスラームの教えを強調していくべきだとし、党が発行している新聞やマス・メディアを利用し、西欧化が進むモロッコ社会への批判を繰り返してきたという。

しかし、世界的に急進的イスラーム主義の動向が注目され、モロッコでも2003年にイスラーム主義系の地下組織によるテロが起こったことを受け、公正開発党は2002年の国会議員選挙と2003年の地方議会選挙では、イスラームを強調したそれ以前のようなマニフェストを抑えた選挙活動を行った。一方で、このような状況を考慮し、党が急激に権力を拡大し、モロッコの政治状況を大きく変えることは、社会に動揺や混乱が生じるのではという懸念から、候補者数を制限、または候補者を限った地区にのみ立てるなどして、自重策をとってきた。2007年の国会議員選挙では、このような自重は行なわなかったが、現在の活動でもイスラームの教えは重視するものの、それ以外のアクターとのバランスが重要であるとし、今年の6 月に控えている地方選挙に対してはイスラーム色を控えた選挙活動を行っているとのことだ。

また、支持者の中心が教師などインテリであることから、都市部に支持層が集中しているこの党は、地方への勢力拡大を目指し、去年から新たなプログラムを開始し、地方での支持者獲得に力を入れているという。地方では、その土地に関係を持つ候補者に票を入れることから、都市部に比べ圧倒的に投票率は高い。これから与党入りを目指す公正開発党は、このような地方での支持獲得に注目している。

そして、以前から疑問に思っていた、イスラーム政党としての公正開発党の将来的目標について聞くことができた。イスラーム主義組織は一般的に、最終的な目標として世俗法に代わるイスラーム法(シャリーア)による統治を目指すことが多い。しかし、公正開発党の党綱領にはイスラーム法という言葉は存在しない。最初の目標としては、もちろんのこと第一党で与党入りを目指す。だが、体制により選挙結果が操作されることの多いモロッコでは、純粋な得票率によって議席が配分されるわけではなく、これからの体制の対応に左右される可能性が高いと述べた。また、与党入りするという目標に対しても、党内で考えが分かれているという。現在のモロッコでの最大野党という立場から、国民の声がなかなか反映されない政治への国民の不満を吸収することで支持層を拡大しているこの党は、将来的に与党を担うことによって体制寄りにならざるをえなくなり、その結果支持基盤が揺らぐのではないかとの懸念の声がある。1997年の選挙で、それまで最大の野党として反体制の姿勢を貫いてきた「人民社会主義同盟」が国民の圧倒的支持を集め、第一党になった。しかし、与党を担っていくにつれ、徐々に体制よりに傾き、汚職が頻発したという過去も、懸念の一要因となっている。公正開発党は、社会の様子を慎重にうかがいながら、徐々に勢力を拡大していくことが、当面の目標になるであろう。

また、最終的な目標と成りえるイスラーム法による統治は、インタビュアーによって意見が分かれた。イスラーム法はどの時代・どの地域にも適応するものであり、イスラーム法による統治はムスリム全体の目標であるという見解と、現代の政治体制の中でイスラーム法による統治を持ち出すことは非現実的であり、より現実的な目標(政権を担っていく、新しい政策を打ち出していく、など)を視野に入れているという声があった。

イスラーム政党の民主的な限界として、女性問題や家族問題についても聞き取りを行う予定であったが、インタビュアーによっては答えることに不愉快を示したり、答えてくれたとしても概要だけで詳細については聞くことができなかった。この問題については、今後の調査の課題となるだろう。

公正開発党の党員や支持者に聞き取り調査を行うと同時に、この党に反対する人たちにもインタビューを行うことができた。公正開発党はモロッコで最多の女性議員を輩出している政党である一方、この党に反対する人の中には女性が多く見られる。その理由として、これまで長い時間をかけて獲得してきた女性の地位や権利を、原理主義的なイスラームを主張することによって失うことになるとの意見が多い。女性の権利だけでなく、近代化を歩んできたモロッコの社会全体が後退するとの厳しい意見もあった。また、モロッコの政治をイスラーム政党が担うということは、国際的に、特にモロッコが意識し続けてきたヨーロッパ諸国との関係が悪化することが予測でき、モロッコが孤立するのではないかという懸念の声も多く聞かれた。

直接の聞き取り調査と並行して、公正開発党に関連する記述のある文献を中心に、モロッコの政治体制や選挙制度について書かれている文献・新聞記事などを収集した。これらの資料収集は、ラバト市にあるジャック・ベルグ人文社会科学研究センターを中心に、ラバト総合図書資料館、ラ・スルス図書館で行った。

公正開発党の実態を調査していくにつれ、今も王制を存続し、国王が政治に対する多大な影響力を持つモロッコの政治体制をもう一度慎重に調べ直す必要があることを感じた。体制の選挙への介入が頻繁に行われ、選挙結果に修正を加えることが多く、国民の声や要望が直接政治に反映されないとして、モロッコでは今深刻な政治離れが進んでいる。このような事態に対して、体制側も危機感を感じ、選挙のたびに選挙制度を調整・修正している。このような変化を繰り返す政治体制自体にも焦点を当て、イスラーム政党がこれから担っていくであろうモロッコの民主化の一つの可能性を、この調査で得た情報をもとに分析していきたい。

■ 2011年度 フィールドワーク・サポート(大学予算による)

■ 2010年度調査第2回

■ 2010年度調査第1回

■ 2010年度 フィールド調査サポートによらない学生の調査(フィールドワーク科目による単位認定)

■ 2009年度調査第2回

■ 2009年度調査第1回

■ 2008年度調査

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