本調査は、20世紀前半のメキシコ市における外食の場に関する諸資料の調査および収集を通じて、20世紀前半のメキシコ市における外食の様相を明らかにすることを目的とする。
報告者は、「(国民料理としての)メキシコ料理」の形成と変容の過程をメキシコ市の社会生活史の文脈において分析、説明することを修士論文の目標としている。今回の現地調査は、そのための基礎調査と位置づけられる。現地でのみ収集しうる資料の入手および研究テーマを念頭に置いたうえでの現状把握につとめた。研究の基礎となるデータの所在、先行研究等の状況を知るためである。
上記調査主題は、以下の3つの理由によって決定された。
@ 人間の食文化は、料理をとりまくさまざまな物事をすべて含めて構成される事象である。石毛は、人類の食の特徴として「人間は料理をする動物である」「人間は共食をする動物である」という2点を指摘し1 、食卓を食文化の研究対象とした。この観点から見れば、「メキシコ料理」の形成過程を論じるにおいても、料理とともに、共食の場(つまり外食の場はその一つの形態である)についての検討が不可欠である。
しかしながら、事前に日本で入手できた「メキシコ料理」の概念に関する諸資料を分析したところ、論考のほとんどは、料理そのものに視点が定められていた。つまり国民料理という概念の形成は、レシピ本やメニュー、料理雑誌、食を扱った文学などを素材とし、食物(材料)あるいは調理法といった、いわば料理そのものに国民性やナショナリズム的な意味を見出すことを通じて説明されてきたのである。
「国民料理」もその一部である国民文化の存在が指摘されるようになるのは近代以降であるが、メキシコも含め、近代国家での都市社会生活においては、レストランやカフェなどの外食施設が、共食の場の選択肢として大きな部分を占めるようになる。にもかかわらず、国民料理の形成と変容に関する先行研究において、「共食の場」という論点は、十分 に検討されてきたとはいえない。それが「メキシコ料理」の形成と変容に関する先行研究の空白でもある。
A メキシコの食文化、社会生活において、外食の場は大きな部分を占める。よって、メキシコ社会を知るためのアプローチとして、外食の場に着目することが有効である。
B 事前の研究を通じ、今日の社会で見られる「メキシコ料理」の萌芽は20世紀前半のメキシコ市にあると仮定された。よって、本調査では、当該時期のメキシコ市の外食の場に関する状況把握を目標とする。
2. 調査概要および調査期間・場所
調査は、メキシコ合衆国メキシコ市で行い、期間は、2010年9月8日〜2010年9月29日の計22日間である。調査内容は、文献・資料収集、面談、参与観察の3つに大別され、主な訪問先は下記のとおりである。
@ 図書館、資料館および書店における文献収集
メキシコ国立図書館 Biblioteca Nacional de México
メキシコ国立新聞雑誌資料館 Hemeroteca Nacional de México
エルデス財団図書館 Biblioteca de Fundación Herdez
ソル・フアナ修道院大学図書館 Biblioteca de Universidad del claustro de Sor Juana
ガンジー(書店) Gandhi
フォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ(書店)Fondo de Cultura Economica
エル・ソタノ(書店)El Sótano
A 見学、面談によるメキシコ料理、食文化全般に関する歴史的概観の理解
国立人類学博物館 Museo de Antropología
エルデス財団講演会 Ciclo de conferencias con degustación
“Las salsas, moles y pipianes” en Fundación Herdez
メキシコ国立自治大学文献学研究所Instituto de Investigaciones Filológicas
(Univesidad Autónoma de México)
B レストラン、カフェ、フォンダ等の外食の場における現状把握を目的とした参与観察
(メニュー、価格、利用者、利用形態)
レストラン・サンボーンズRestaurante Sanborns
カフェ・ラ・ブランカCafé La Branca
フォンダ・エル・レフヒオFonda el Refugio
屋台他puestos etc
また、日程ごとの調査内容は、下記の通りである。
9月8日(水) | :成田出発、メキシコ市到着 |
9日(木) | :メキシコ料理レストラン・Sanborns( pelisur)訪問 メキシコ国立自治大学文献学研究所Maria Erena Guerrero 教授と面談 |
10日(金) | :メキシコ国立図書館にて資料・文献収集 |
11日(土) | :Alfonso Garduño Arzave博士と面談 |
12日(日) | :書店にて 参考書籍購入(“Libros de la cocina mexicana”等) |
13日(月) | :メキシコ国立図書館にて資料・文献収集 メキシコ料理大衆食堂・Cafe la Branca 訪問 |
14日(火) | :ソル・フアナ修道院大学図書館にて資料・文献収集 |
15日(水) | :メトロポリタン自治大学社会学科教授Juan José Santibañez教授と面談 |
16日(木) | :独立記念日(屋台・露店による食物販売等の参与観察など) |
17日(金) | :メキシコ料理レストラン・Sanborns(Casa de los Azulejos)訪問 メキシコ料理大衆食堂・Cafe la Branca 訪問 |
18日(土)〜19日(日) | :資料整理日 |
20日(月)〜21日(火) | :メキシコ国立新聞雑誌資料館及びメキシコ国立図書館にて資料・文献収集 |
22日(水) | :メキシコ国立新聞雑誌資料館及びメキシコ国立図書館にて資料・文献収集 メキシコ料理高級レストランFonda el Refugio訪問 |
23日(木)〜24日(金) | :メキシコ国立新聞雑誌資料館及びメキシコ国立図書館にて資料・文献収集 |
25日(土) | :Fundación Herdezにてメキシコの食文化をテーマとする講演会を聴講 La Jornada紙コラムニストCristina Barros氏、Marco Buenrostro氏と面談 |
26日(日) | :国立人類学博物館Museo de Antropologia 見学、参考書籍購入 |
27日(月) | :国立人類学博物館Museo de Antropologiaブックフェアにて書籍購入 メキシコ市出発 |
29日(水) | :成田到着 |
石毛直道 | |
2005 | 『食卓文明論 : チャブ台はどこへ消えた? 』中央公論新社。 |
スパング、レベッカ・L. (小林正巳訳) | |
2001 | 『レストランの誕生 : パリと現代グルメ文化』青土社。 |
King, Tania Carreño | |
1997 | El pan de cada día ,México,Clío. |
Novo, Salvador | |
1967 | Cocina mexicana o historia gastoronomica de la Ciudad de México, México,Editorial Porrúa. |
Ortega, Enrique Asecio | |
1997 | Alta cocina-La Cocina Mexicana a través de los Siglos Fascíclo X, México,Clío. |
■ 2011年度 フィールドワーク・サポート(大学予算による)
■ 2010年度調査第2回
■ 2010年度調査第1回
■ 2010年度 フィールド調査サポートによらない学生の調査(フィールドワーク科目による単位認定)
■ 2009年度調査第2回
■ 2009年度調査第1回
■ 2008年度調査