上智大学 大学院 グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻

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大学院生へのフィールド調査サポート

調査地
アルジェリア
調査時期
2009年3月
調査者
博士前期課程
調査課題
アルジェリアにおける女性の経済的自立と連帯―トゥグルトの刺繍と地元団体に関する調査
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調査の目的と概要

本調査は、アルジェリアにおける女性たちのインフォーマルの仕事と、地元の人びとによって組織されているアソシエーション団体や協同組合がどのように組織運営を行っているのか、また孤立しやすい「家のなかで働く女性」が地元の団体を通して互いの連帯を築き、相互発展のための働きかけを行っているのか明らかにするために行われた。

調査地としてはA県のB村(県、村名非公開)、ウアルグラ県に属する街トゥグルトを中心に行なった。K地方に位置するB村およびサハラのトゥグルトでは、インフォーマルで働く女性の現場と、その女性たちによって組織される地元の協同組合やアソシエーション団体、国立職業訓練センターへの訪問を行った。また首都アルジェ県には長く滞在しなかったが、女性と子どもの権利に関する情報資料提供センター(CiDDEF)およびアルジェリアで唯一女性に対し経済支援に特化した活動を行っている地元のアソシエーション団体Touizaにて、主に資料収集を中心に行った。

調査成果

<トゥグルト>

トゥグルトでは、地元の女性たちの伝統的な仕事として、機織りや刺繍が親から子へ、世代ごとに受け継がれてきた。そうした機織りや刺繍は当初、家族内での利用に限られていたが、フランス植民地期の間に現地のフランス人シスターによって新たな絵柄や色彩が加えられ、地元女性の自立を促す主要な商業活動の一つとして扱われるようになり、初等教育を終えていない女性や既婚者、あるいは離婚経験者の女性たちにとっての貴重な収入源へと変化していった。現在、トゥグルトの特に初等教育を終えられなかった若い女性たちの多くはこの刺繍業に従事しており、刺繍や裁縫を無料で習得することができる国立の職業訓練センターで技術を習得した後、街で唯一の協同組合か、10ほど存在するアソシエーション団体に属するといった流れが一般的となっている。国立職業訓練センター、協同組合、アソシエーション団体の各組織の特色は下記の通りである。

○国立職業訓練センター

トゥグルトには国立職業訓練センターが計3ヵ所あり、そのうち最も古いものが刺繍や裁縫を教えている職業訓練センターである。現在、国立の職業訓練センターとして利用されている建物は、もともとフランスの被植民地下にあった1940年にフランス人シスターによって建設されたもので、当初はフランス政府が地域の女性によって受け継がれていた刺繍を取り入れた、地域女性の自立を目的として設立した職業訓練所であった。アルジェリアの独立以降は、一時期、私立職業訓練センターとなったが、後にアルジェリア政府の管轄となりアルジェリア国立職業訓練センターとして再発足した。現在は街の女性145人がこの職業訓練所に通っており、20代の若い女性を中心に、30代、40代の女性も見られた(2009年3月の調査時点)。授業は無料で提供され、原則として週2日制、授業のない日はそれぞれが自宅で家事や育児の片手間に刺繍の課題をこなすのが日課となっている。

国立職業訓練センターでは、学歴が求められず、読み書きのできない女性でも通うことができる。出席率の度合いによって修了までにかかる年月はまちまちだが、たいていは2〜3年で卒業し、その後は街の組合かアソシエーションに属する。国立職業訓練センターは、女性の自立を目的として設立された訓練所ではあるが、修了生に対し職の提供など修了後のケアは行っておらず、あくまで技術の提供を理念の中心に掲げている。

○協同組合

刺繍を行う女性たちによって組織されたこの組合は、トゥグルトで唯一の協同組合として知られている。代表のアルバウィ氏は、フランス植民地期からフランス人シスターと共に国立職業訓練センターの設立、運営に関わっていた女性で、アルジェリア独立以降の私立職業訓練センターの時代では、センターの代表も務めていた。その後、1971年にアルジェリア政府が職業訓練センターを国有化すると同時に、アルバウィ氏はその隣の土地を利用してフランス人シスターと共に刺繍に特化した職業訓練センターを立ち上げた。

協同組合として組織されるようになったのは1990年で、それ以前はフランス語やアラビア語、音楽の授業などを行っていたが、組合となった以降は刺繍の授業のみ行っているということだった。刺繍を施す織物も地域の女性たちによって織られた布を使用しており、買い付けはほとんどアルバウィ氏が行っている。トゥグルトから車で15分ほど行ったところにベルベル系の人びとが暮らすテマシンという村があり、その村の年配の女性たちによって織られている織物に刺繍を施しているものが多く見られた。組合は、国立職業訓練センターと同じく学歴は問われず無料で技術を習得することが出来るが、職業訓練センターで学ぶ女性は修了するまで自らの作品を売る権利がないのに対し、組合で授業を受ける女性はある程度のレベルに達すると自身の作品によって少なからず現金を得ていた。しかし他のアソシエーションに比べ、協同組合での販売価格は高く設定されていたが、その割には働く女性たちの収入はわずかなものであった。トゥグルトは小さな街で、この組合は街でもよく知られていたが、要求が多く待遇も良くないという理由でアソシエーションに移る人もいるなど、組織運営のあり方に疑問を感じる声を耳にすることもあった。

○アソシエーション

トゥグルトでは現在、刺繍に関するアソシエーション団体が10前後活動しているといわれているが、その正確な数は定かではない。看板には「職人工房―障害者のためのアソシエーション」と描かれていても、実際中に入れば私立の託児所になっていたこともあり、一つの団体が設立してはまた別の団体が消えていくということはよくあるため、全体の数を把握することは難しかった。運営の仕方は協同組合と変わらず、材料を購入できない女性の代わりに織物や糸を購入し、それを提供することで仕事を依頼する。アソシエーション「アナメル」の代表を務めるナジェット・サウリ氏によると、刺繍の仕事は室内あるいは中庭で行われるが、トゥグルトは砂漠に囲まれ夏場は猛暑に見舞われるため、夏は仕事にならないという。またナツメヤシの収穫期にはその方がお金になるため、アソシエーションに仕事を求めに来る人は少ないとのことだった。

またこれまで調査を行ってきた他の地域のアソシエーションと異なるのは、トゥグルトのアソシエーションはその代表およびスタッフが自身の活動を通して現金収入を得ているという点である。調査を続けている別の村のアソシエーションは、家のなかで機織りをしている村の女性たちに対し無給で支援を行っているが、トゥグルトでは納品された刺繍を組合ほどではなかったが高めの価格設定で販売し、その幾割かを自分たちの給料に充てていた。

以上、トゥグルトでは国立職業訓練センター、協同組合、アソシエーションがそれぞれ技術を提供し、組合とアソシエーションは商品の販売を行うことで女性に現金収入の機会を与えている。刺繍が施されたナプキンやスカーフ、衣類は、アルジェのみやげ物屋で販売されることもあるが、たいていは展示会や見本市にアソシエーションのスタッフが赴いて直接出品している。職人証明書を持たない限り販売する資格は認められず見本市や展示会に参加することは出来ないため(証明書を保持するには年間8千円程度の税金を納めることが義務)、アソシエーションの代表が職人証明書を持ち、自ら展示会や見本市に赴いているとのことだった。私がトゥグルトのアソシエーション「アナメル」と初めて知り合ったのも、国際女性デーを機にアルジェの文化センターで行われた見本市においてであった。今回の調査を通して、トゥグルトのアソシエーションおよび組合は、教育を受けていない街の若い女性に対し現金収入獲得の機会を与えており活動理念に女性の支援を掲げてはいるものの、現在の活動は営利目的が先行している印象を受けた。しかし作品を事務所に届けることを理由にすれば自由に外出も許され、働くことでより自由になれたと話す女性もおり、また職人証明書を持たなければ販売の資格も有さないため、アソシエーションは街の女性たちにとってある程度の役割を担っていることも事実である。アルジェリアでインフォーマルとして働く女性たちは一般に「家のなかでの仕事」に限られ、仕立て屋や菓子製造、美容師など人によって仕事の種類は多様だが、そうした仕事に関する公式な統計や調査は行われておらず、実態が見えづらいというのが現状である。本調査では、とりわけ初等教育も終えていない女性と多く接触することが出来、また様々な人の助けがあって、刺繍以外の仕事を家で行って生計を立てている女性たちとも話をする機会が得られた。今後は、さらに離婚女性やシングルマザーといった女性に焦点を当て、そうした女性が自立に向けてどのような活動を行っているのか、また地元団体と相互にどう関わり合いながら生活しているのかという点に着目し、団体の立場からではなく女性自身の視点から調査、分析を行っていきたい。

■ 2011年度 フィールドワーク・サポート(大学予算による)

■ 2010年度調査第2回

■ 2010年度調査第1回

■ 2010年度 フィールド調査サポートによらない学生の調査(フィールドワーク科目による単位認定)

■ 2009年度調査第2回

■ 2009年度調査第1回

■ 2008年度調査

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