上智大学 大学院 グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻

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大学院生へのフィールド調査サポート

調査地
スーダン
調査時期
2010年2月
調査者
博士後期課程
調査課題
スーダン共和国における国内避難民のネットワークの形成とその社会的機能:聖公会を介して
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調査の目的と概要

本調査の目的は、スーダン共和国おいて内戦により出身地を離れ首都ハルツームに移り住んだ国内避難民の、教会を利用したネットワーク形成の過程と現状を見ることを通して、国内避難民にとっての宗教の社会的機能の一面を明らかにすることにある。そして同時にこれまで内戦の対ムスリム感情と教育や医療の近代化との関わりから語られることが多かったスーダンにおけるキリスト教のあり方を、戦士として戦闘への参加でもなく、戦闘に巻き込まれる経験でもないが、ある意味内戦の経験いえる「避難」という視点から見ていきたいと考えている。調査手法は参与観察、インタビュー、及び文献調査である。調査地はハルツームおよび南部スーダンの中心都市ジュバであり、直接の調査対象者はスーダン‐ウガンダ国境のカジョケジ郡を出身地とし、植民地化以降熱心な聖公会信徒となったクク人である。クク人はハルツームに置いて自ら教会を設立、運営している。
調査は2つの過程を経て遂行される。

第1に教会とククの人々との関係に関する参与観察である。申請者がこれまで調査を行ってきたハルツーム郊外の避難民集住地区ソーバにおいてククの人々が自主運営する教会を調査拠点とし、教会活動への参与観察によって人々の教会を通じたクク・コミュニティ内、及び他地域や他エスニック・グループといったコミュニティの外とのネットワーク形成過程、及びそのネットワークが避難生活において果たす機能を明らかにする。第2に聖公会の地域、教会間ネットワークに関する調査である。ソーバ、ハルツーム市内、ジュバの教会運営者に対するインタビュー、スーダン共和国国立公文書館における教会関係の1990年代以降の歴史的資料の収集、読み込みによって明らかにし、参与観察データを読み解く背景とする。

調査成果

1、カイロにおけるビザ取得とカイロ市内の聖公会訪問
 2010年1月21日カイロ着。スーダン入国ビザの取得手続きを進めると同時に、ザマーレクにある聖公会の教区教会オール・セイント・カテドラル訪問。アラビア語によるミサを見学し、ミサの参加者に話を聞いた。エジプトに逃れたスーダン難民もかなり帰還していること、帰還に際して教会の支援は特にないことなどを聞く。ハルツームの避難民との状況の相違を見ることが出来た。
2、ハルツームにおける聖公会ネットワークとクク人との関わり
 2010年1月27日カイロ発、スーダン着。31日に報告者のフィールドである国内避難民地区ソーバを訪問。その後毎木曜に避難民地区を訪問し、日曜まで避難民宅に滞在しながら参与観察を行った。また聖公会ハルツーム教区の教区教会であるオール・セイント・カテドラルの司祭に教区運営について、ソーバの教会の司祭に教会運営に関するインタビューも行った。3月9日から15日までジュバにおいて、クク人が集まる教会の主日礼拝に参加し、教会関係者及び帰還民から話を聞いた。これらの調査によって明らかになったことは大きく分けて2つある。
第一にハルツームにおいてクク人が作り出した聖公会ネットワークの存在とその機能である。聖公会スーダン管区には24の教区がありそれぞれ独自に運営されている。ハルツームにはクク人が中心となって運営する聖公会教会が報告者が確認できただけで5つあり、すべてハルツーム教区に所属している。これらの教会はハルツームのクク人が外部からの援助を募りつつ、自らもお金を出しあって建てたものである。この教会設立の際、さらに設立後の運営に関してもハルツームのクク人は協力し合っている。それを可能にするのがハルツームにおけるカジョケジ教区(クク人の祖先の地)支部の存在である。カジョケジ教区は1986年に設立されたが翌1987年、カジョケジ郡が政府軍とスーダン人民解放軍(SPLA)との間の激戦地になり行政機能を停止したことによって運営が不可能となった。そのためカジョケジからハルツームに逃れたクク人たちがカジョケジ教区の運営を担ってきた。2005年の包括的和平協定締結後、カジョケジにおける教区の運営は再会されているが、ハルツーム支部も活動を継続している。この支部は1988年に3人のクク人によって始められ、次第にハルツーム中のクク人たちの間に広がることになった。支部ではハルツームのクク人からのカジョケジ教区への献金を集めて送っており、さらに一ヶ月に一度ハルツーム中のクク人を集め教区集会を行う。この教区集会には聖公会信徒以外のクク人もクク・コミュニティ運営の必要上参加していた。またジュバの教会においてもカジョケジへの献金は求められており、カジョケジ、ハルツーム、ジュバの地域間聖公会ネットワークもあることがわかった。

この聖公会ネットワークの社会的機能をよく示すのが、報告者のハルツーム滞在中にクク・コミュニティと聖公会コミュニティが率先して行った先代のカジョケジ首長の改葬に関する取り組みであろう。希代の雨乞いの祈祷師であった先代首長が避難先のジュバで死去し、そのままジュバに埋葬された。この首長の葬儀の後、カジョケジの天候が悪化したため、カジョケジの首長たちが先代首長のジュバからカジョケジへの改葬を決定し、各地に離散したクク人たちに支援をも求めてきた。ハルツームのクク・コミュニティはこの改葬の支援を決定し、ハルツーム在住のクク人たちに協力を求めた。この際教区コミュニティは大きな役割を果たした。まず、この改葬への支援依頼自体がカジョケジ在住の司祭からハルツームにある教会の運営の中心人物であり、

クク・コミュニティの長でもあるA氏を通して行われている。A氏はコミュニティの支援を受けてカジョケジ及び南部の中心都市ジュバにおいて改葬に関する調査を行い、ハルツームに戻った後、教区集会においてその様子を報告している。また、この改葬に関する情報は教会の主日礼拝
、葬儀、教区集会といった聖公会と関わりの深い場所でも行われていた。
雨乞いの祈祷師というキリスト教的要素とは異なる存在の改葬が、教会関係者を通して行われていたということになる。だがハルツームのクク人の間では少なくとも表面上は雨乞いの効果を信じる声はほとんどなく、A氏もこの改葬への支援は「クク・コミュニティをまとめるため」と説明していた。このことから教区集会や教区コミュニティが、ハルツームのクク人の信仰生活だけに関わるのではなく、彼らをまとめ、故郷カジョケジとのつながりを保つ役割を担ってきていることがわかった。
このように聖公会を通じたコミュニティを築いてきているクク人であるが、他エスニック・グループとの関わりを持たないのかといえばそうではない。クク人は自分たちが通う教会を「私たちの教会」とみなすが、同時に宣教への意識も持っており、教会が開かれた場所であることを認めている。教会には他のエスニック・グループの人も訪れているし、聖公会系の神学院からクク人以外の研修生も受け入れている。だが他の教派、宗派との関わりに関しては見えてこなかった。
第2に、クク人の教会及び教区コミュニティへの多様な関わり方が明らかになった。クク人は熱心な聖公会信徒として南部で知られており、報告者の前回調査時も多くのクク人が教会活動に参加し、それを通じて情報交換などを行っていた。また食事、就寝前の祈りがどの年代層においても習慣となっている。だが今回、前回調査時(2007年-2008年)に比べ、ソーバにある教会の主日礼拝への参加者が少なくなっていた。これは多くの人が南部スーダンへ帰還したためでもあるが、南部に帰る意思がなくても教会に来なくなった人もいた。教会に来なくなる理由は、教会関係者によると内戦終結によって生活に安心感が出てきたことにあるという。また報告者が出会ったケースでは、信仰教派が異なるエスニック・グループ間の結婚によって、聖公会教会に行きづらくなったというケースがあった。
さらに10代後半から20代前半の若年層の間ではソーバにある教会ではなく、ハルツームの中心にある教区教会オール・セイント・カテドラルに通う人も増えている。彼らはハルツームの公休日である金、土曜が休みになる市内の高校や大学に通っているため、日曜日に授業があり、日曜の午前中に始まるソーバの礼拝に通うことが出来ない。そのため日曜の夕方に行われるオール・セイント・カテドラルの礼拝に通うという。だが学校の授業がない日もオール・セイント・カテドラルに通うことが多い。また教区コミュニティへの関わりもあまり積極的ではない。しかし葬儀などの義務となっている場所にはクク・コミュニティの一員として参加する。彼らが教区コミュニティやクク・コミュニティに関してどのような意識を持っているかまではわからなかった。これに関しては今後の課題としたい。
3、文献調査

 避難民地区における調査の合間をぬって、ハルツーム聖公会とクク人との関わりに関する歴史的資料探索のため、ハルツームの国立公文書館を訪れた。ここでは植民地期のカジョケジの教育状況や南部スーダンにおける教育政策に関する資料から、聖公会とカジョケジの関係を示す資料を見つけることが出来、2009年10月から11月にかけて行った英国における資料調査の補足をすることが出来た。

■ 2011年度 フィールドワーク・サポート(大学予算による)

■ 2010年度調査第2回

■ 2010年度調査第1回

■ 2010年度 フィールド調査サポートによらない学生の調査(フィールドワーク科目による単位認定)

■ 2009年度調査第2回

■ 2009年度調査第1回

■ 2008年度調査

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