卒業生の声

近況報告

1998年度卒業生 石川陽子(木版画工房摺師)
楊洛書先生と(2011 年)

楊洛書先生と(2011 年)

私の専門は中国の古くからの民衆版画「年画」というものです。

年画

年画

年画

年画

1996年に33歳で上智大学史学科に編入学し、1999年に卒業後、実践女子大学大学院美術史学科で中国年画について研究しました。その後は中国史・中国美術史とは関係のない仕事についていました。それでも、年画を自分でも制作できるのではないかと、浮世絵の木版画彫師の第一人者である朝香元晴先生の元で日本の伝統木版画技術を習い始めていました。

2010年に、「年画」を今でも制作している、明代から続く工房のマイスター楊洛書先生に年画を教えて欲しい、と手紙を書いたところOKがでましたので2011年に中国山東省.坊市楊家埠の工房に3ヶ月弱通いました。

彫師 朝香元晴先生

彫師
朝香元晴先生

帰国後は朝香先生のお友達である、カナダ人木版画家デービッド・ブル(DavidBull)さんの工房「木版館」で摺師として働いて現在に至っています。

ブルさんの工房は緑豊かな青梅にあり、2時間半かけて通勤しています。
私が働き始めた頃は、浮世絵や江戸から明治時代の作品をブルさんが彫ったものを私たち摺師が摺っていましたが、2年前にアメリカ人のイラストレーター、JedHenryさんが描いたゲームのキャラクターを制作し始めてから海外のマスメディアに取り上げられることも多くなりすごく売れるようになりました。今年はUkiyoeHeroes’Portraits’という連作を摺っていますが、海外で評判です。

Ukiyoe Heroes ’Portraits’ シリーズより

Ukiyoe
Heroes ’Portraits’シリーズより

Ukiyoe Heroes ’Portraits’ シリーズより

Ukiyoe
Heroes ’Portraits’シリーズより

この成功もあって、今年の秋には、青梅の他に浅草に工房兼店を出すことになり、そこで摺師を兼ねてマネージャーとして働きます。ボスであるブルさんを助けながら、スタッフ皆が気持ちよく仕事ができるように力を尽くしたいと思っています。

現在、日本では浮世絵等の伝統木版画の技術は風前の灯です。浮世絵は海外では評価が高くても、日本ではその価値が認められにくくなっています。朝香先生ほどの技術の持ち主ももう数少なく、後継者も育っていません。そんな日本伝統木版画界の瀕死の危機に、日本の伝統木版画が好きで好きでしょうがなくてカナダから移住してきた外人であるブルさんが、今、日本の伝統木版画界を支えている一人になっています。そんなブルさんの元で働けることにとても幸せを感じています。上智での生活が第二の青春なら、今が第三の青春であると実感しています。

これからは朝香先生の元で彫りの技術を向上させながら、浅草の店で木版画作品を通じて、世界の色々な人々に日本を理解してもらい、日本ファンを増やして友好の懸け橋の一端を担えたらいいなと思っています。私の年画への追求が、微力ながら今、伝統木版画という形で世界とつながりかけています。

上へ戻る