卒業生の声

史学科を卒業して教員になること

1999年度卒業生 石上健士郎(駒場東邦中学校・高等学校社会科教諭)

現在中高一貫校で働いています。この職業に就いてから、早くも10年が経過しました。
とはいっても、もともと教員志望ではありませんでした。教員免許を取得するきっかけは大学の恩師からの、「研究者を少しでも目指そうと思うなら、もしもの時のために、中高の教員免許は取っておいた方が良い」という一言でした。教員免許取得の動機は不純なものでした。

そんな私が教職に就くことを決意したのは、博士後期課程に進学してからです。某高校の非常勤講師として高校1年生の世界史を担当することになりました。もちろん、最初はアルバイト感覚でした。ただ、自分なりに全力を傾注している歴史学を学ぶことの面白さや意義のようなものが伝わるように、授業の準備には力を入れました。歴史を学ぶことが単なる事項の暗記にすぎないと思われるのは嫌だったのです。教科書の文章の行間に潜むものに力点を置いた説明をしたい、などと最初の授業の際に口にしたことを覚えています。

当時のことを振り返ると、伝えたいことをうまく伝え得ない自分の歯がゆさに苛立たしさを感じていたことが思い起こされて、本当に恥ずかしくなります。しかし、当時の生徒の皆さんは、若い私が、懸命に話をしていることが面白かったのでしょう、真剣に聞いてくれました。やがて授業の内容についての質問からはじまって、進路のことやその他のことを相談しに来てくれる生徒が出てきました。いつの間にか、私は、今まで学んできたことが、柔軟な知性と感性を備えた高校生の知的好奇心を少しでも喚起しえたことに、やりがいを見いだすようになっていました。私は初めて中学・高校の教職に就くことを真剣に考えるようになりました。

もともと教員志望でない私がいうのもおこがましいのですが、中学・高校の歴史(中学社会や高校の地理歴史)の教員を目指すために史学科で学ぶということはとてもまっとうな選択だと思います。理由は二つ。まず、歴史を専門的に学ぶことで、様々な史料や文献をどう読むのかといった歴史を学ぶにあたって必要な基礎的な力を養うことができます。
この力がないと、例えば、教員として、授業の準備をするために必要な、信頼できる文献を選ぶこともできません。また、史料や文献を読む際に、独りよがりな偏った読み方しかできないために、授業内容が正確さを欠く粗雑なものになってしまいます。きちんと教材研究を行うことができる能力を身につけることは、歴史の恣意的な解釈が蔓延している今だからこそ、なおさら重要なことだと思います。

史学科で学ぶメリットの二つ目です。社会の教員として長きにわたり、生き生きと働くために一番欠かせない要素は、教員自身が、自分が教えることになる教科を学ぶことが好きかどうかです。面白い授業をするためには、まず教員自身が、自ら主体的に学び、その学びの中からこれはどうしても伝えたいと思えるようなことを、見つけ出さなければなりません。多忙な日々の業務のなかで、学び続ける原動力は、やはり歴史が好きであるということにしか求められないのではないかと思います。史学科で、様々な時代と地域の歴史、歴史学における多様なアプローチを深く学んでください。知れば、知らない領域はますます広がり、知りたいことがますます増えてくるはずです。大学時代、集中的に歴史を学ぶことで、歴史の楽しさや奥深さを体感してください。そうした経験が、小手先の教育技術よりも圧倒的に重要だと思います。

2004年3月修学旅行でアンコールワットにて

2004年3月修学旅行でアンコールワットにて

2004年3月修学旅行でアンコールワットにて

2004年3月修学旅行でアンコールワットにて

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