卒業生の声

歴史を学ぶことで得た最高の財産

2008年度卒業生 永長祥典(金融機関勤務)
九州旅行にて

九州旅行にて

永長祥典と申します。私は2009年に史学科を卒業後しましたが、現在は歴史学と直接関係のある仕事ではなく金融機関で勤務しています。

上智大学文学部史学科に興味を持っていらっしゃる方は在校生、卒業生、入学を検討されている方様々だと思います。さらには史学科とかかわりのある方となると一層多くなると思います。

私の大学時代のエピソードを中心に史学科で学んだこと、現在につながっていることを中心に書いてみたいと思います。大学時代私は日本古代史ゼミに入り、日本古代の環境思想を中心に研究してきました。具体的には日本古代の災害時の朝廷の政策を資料などから読み解き、中国漢代に最も隆盛を見た災異説の影響、日本在来の思想の影響などがどのように影響を与えていたのかを知るというものでした。上智大学で優秀な教授・学生に触れた4年間は大変貴重な時間であったと思います。

災害は人間生活に混乱をもたらし、被害にあった人の人生を大きく変えうるものですが、同時にその克服の過程では多くの政策がとられて、国家レベルや在地レベルでの対策が取られます。救恤と呼ばれた支配者の恩恵としての食糧・資材援助だけでなく、多くの場合原因の分からない・人間の力では防ぐことのできない災害に理由付けを行い、それによって動揺を最小限に抑え、人心の荒廃を防ぐという目的がありました。

古代の人たちが残した文字史料、工芸品、出土資料等様々なものを見ていくと、解決が困難な問題に打ち当たった時に、自分達なりに問題の発生原因を分析し、対処をしようとしていたことがはっきりと読み取れます。災害を君主の不徳であり天譴とみる見方は、科学技術が大いに進歩し、多くの災害の原因がかなり判明するようになり、犠牲者を減らせるようになった現代から見たら非合理的です。ですが、災害が時の政権に求心力向上や人心掌握に利用され、同時に政権批判や、政策の見直しの道具になったのは昔も現代もまた状況は違っても同じといえるのではないでしょうか。

さて、私が史学科時代の勉強を通じて学んだことは、史料を読み解くことで学んだ多様な考え方の理解、史料批判を通じて学んだ発言や文章の表層だけではなく、その本質に踏み込んで理解しようとする力です。書かれたものが本当に正しいのか、またどのような意図で書かれたのかを知るということは非常に新鮮で刺激的でした。社会人になり経験を多く積むことで物事の本質をとらえて問題点をはっきり理解することの重要性だけではなく、本質を知った上でも問題を解決しないこともそれが望まれている場合には時には必要と理解できるようになりました。接客や組織内外での折衝などの経験を少しずつ積む中で、人の心を動かす要素には不安もあるにせよ、先のビジョンを見せることができること、とりわけプラスになるものを相手に提示し魅せることが如何に大切かを知るようになりました。
その基盤を作ったのが史学科で学んだ4年間にあったと思います。

史学科の最大の面白さは、力をつけることで古い時代の生の史料を読み、そこから直接知見を得られることだと思います。いろいろな時代の様々な史料を通じて感じることは、人間はその時代時代に合わせた問題に悩み、そして解決しようと努力してきたということです。

私たちの生きる社会は長期的な人口減少という、近代以降経験のない、江戸時代中期以降の停滞期にもない、縄文後期以来の有史以降で初めての状況に直面しています。そして国際競争力の低下という問題は現在避けて通れないものになっています。私は経済に興味を持っているのでこの問題を挙げましたが、興味や関心は様々だと思います。古を知り、今の時代を考え、生かすこと、自分自身に生かすこと。これが歴史学を学ぶことで得られる最高の財産であると思います。

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