展覧会の図録づくり
私は2007年3月に上智大学文学部史学科を卒業し、今は出版社で編集者として働いています。卒業して数年は、書籍の仕事をしていましたが、転職してからはもっぱら、展覧会の図録(カタログ)をつくっています。
展覧会の図録というと、馴染みのある方と無い方に分かれてしまうかもしれません。美術館や博物館のミュージアム・ショップで買うことができる、展示作品の写真と解説が全部載っているあの本です。私は本づくりに興味があって編集者を志しましたが、もともと美術館や博物館が大好きで、大学でも美術史を専攻できる西洋中世史の児嶋由枝先生のゼミに所属していましたし、博物館の学芸員課程も履修していましたから、今の仕事はとても楽しく、自分でも天職じゃないかと思っています。
さて、展覧会というものは、主催する美術館や博物館の学芸員の方々や、新聞社やテレビ局の文化関連事業部の方々が、何年もかけて準備をし、段取りに段取りを重ねてようやく実現するものです。展覧会は、会期が終われば無くなってしまいますが、図録は残ります。記録として形に残るのは図録だけと言っても過言ではありません。
もちろん、展覧会の醍醐味は実物(本物)をその目で見ることにありますし、印刷で本物の色や質感を再現するには限界があります。それでも、展覧会の総合的な記録として、また、展覧会場での感動を追体験するツールとして、図録は最も有用で、大切なものだと考えています。私が所属している部署では、図録だけでなく、展覧会のポスターやチラシ、チケットや交通広告もつくっていますが、私にとってはやはり、図録づくりが一番特別で、やり甲斐のある仕事です。
多くの人たちが何年もかけて準備してきた企画を一冊の本の形にまとめるためには、構成案やデザイン・コンセプトから始まって、関係者で集まって何度も何度も話し合う必要があります。また、主催や関係者の方々だけでなく、一般の読者(=来場者)の方々にもご満足頂かなくてはいけませんし、その前にまずお買い上げ頂かなくてはなりません。そのために、付録の地図をつけたり、人物相関図を入れたり、カバーをリヴァーシブル仕様にしてみたりと、展覧会の趣旨に合わせていろいろなアイデアをご提案しています。
古今東西、さまざまなジャンルの展覧会の仕事に対応しなくてはいけないので、大学で、専攻の西洋史だけでなく、日本史や東洋史の講義も受けていて本当に良かったと思います。それは、授業で得た知識が役に立っているからという直接的な理由だけではなく、もっと広い意味で、どの時代のどの分野にも、興味関心を持って接することができるようになったからです。何にも知らないと、興味の沸きようがありません。大学で受けた数々の講義は、どの時代のどの分野にも、面白そうな研究テーマがごろごろしていて、それぞれに先人の研究の蓄積があり、今も議論され続けているということを、私に教えてくれました。このことを知っているのと知らないのとでは、今の仕事に対する姿勢が全く違っていただろうと思います。