卒業生の声

史学科への進学に迷いがありますか?

2000年度卒業生 石川雄一(メーカー勤務)
写真【1】現在の私

写真【1】現在の私

 この写真で写っている本はふたつとも、ローマ皇帝のユリアヌス(在位361-363年)を題材にした小説です。文庫の方は辻邦生の『背教者ユリアヌス』で、この本をきっかけとして、私は史学科への進学を決めました。もう一方はGore Vidal著の『Julian』。今年の春に読み終わり、学生時代を思い出していたところに恩師の豊田先生からご連絡があり、このコラムへ寄稿することになりました。私が卒業してからかなり経っていますが、受験生の皆さんに少しでも有益な話になれば嬉しいです。
※できれば最後まで読んで下さい。途中で止めると印象が変わるので

お伝えしたいことは 4点あります。
(1) 自分が希望する分野を学べるとは限りません(受験前に調べて下さい)。
(2) 研究者への道は険しいです。
(3) 志望業界によっては、就職活動が順調にいかないこともあります。
(4) では、史学科に進学することは間違いか? そんなことはありません。

(1) もし皆さんの学びたい時代・国・人物等が既に決まっていても、その分野を研究している教授の在籍状況や、各教授の研究内容、文献の有無などにより、自分が望むテーマを学べないかもしれません。皆さんは上智以外の大学も受験するでしょうから、皆さんの高校の先生やOB・OGと話し、各大学で学べる内容を事前に調べることをお勧めします。
 私の場合は、高校の世界史の先生に紹介してもらったローマ史研究中の大学院生の方から、豊田教授の話を聞いて上智を受験しました。当時は二次試験の面接があり、「豊田ゼミで西洋古代史を学びたい」と答えたら面接官が豊田先生ご本人だった、という思い出があります。

(2) 皆さんの中には、将来は大学に残って研究を続けたいという志を持っている人もいるでしょう。私も高校生の頃はそう考えていたし、皆さんには是非頑張ってもらいたいです。ただ、事実として、大学院の修士課程に進む学生は毎年少なく、その先の博士課程を目指し、博士号取得後も大学で研究を続ける人はさらに限られる、という点は理解してほしい。加えて、今の日本の出生率では学生数がこれからますます減少し、大学も淘汰されていく中、仮に研究実績があったとしても、教授になることがどれだけ難しいか想像できますね? 個人的には、日本でダメなら海外で研究する、という気概を持ってほしいですが・・・。

(3) 前述の通り、卒業生の多くは大学院に進まず就職することになります。皆さんはまだ大学卒業後のことまで考えられないと思いますが、史学科はいわゆる「潰しが利く」ところではなく、出版業界や教職志望ならともかく、メーカーに就職して海外で勝負したいと考えていた私は、正直にいって相当苦戦しました(企業の採用動向は年によって変わりますし、私の同級生ですぐに内定をもらえた人はいるので、これは意見のひとつと捉えてください)。

写真【2】イタリア・アオスタ州Donnasにあるローマ道の跡(2000年撮影)

写真【2】イタリア・アオスタ州Donnasにあるローマ道の跡(2000年撮影)

(4) ここまでの話で、史学科専攻に不安を感じさせてしまったかもしれませんね。でも心配いりません。私は今、企業の経営企画部で海外事業の企画・管理を行っていますが、帰国子女でもなく留学経験もない私でも、外国企業相手に問題なく仕事していますので、皆さんがもし史学科に進学し、大学卒業後に普通に就職したとしても、立派にやっていけますよ。私の業務では、大学で学んだことが直接活きることはありませんが、外国人相手に仕事をする際、その国の歴史・文化・民族性を理解していることは、コミュニケーションを円滑に進める上で非常に役立っています。上の写真はローマ時代の道路(私の卒論テーマ)で、イタリア北部、トリノよりさらに北の山奥で撮ったものです。買収したトリノの企業に出張した際、現地の社員にこの話をしたら、「そんな辺鄙なところに行ったことがあるのか?」と驚かれ、すぐに打ち解けることができました。

写真【3】ヨーロッパ出張(F1で有名な企業とのミーティング後)

写真【3】ヨーロッパ出張(F1で有名な企業とのミーティング後)

 最後に、上智大学で学ぶことについて。私は優秀な学生ではなかったので、講義の質や内容について語ることはできません。ゼミの後に部屋に居座り、先生の海外調査のお土産(ワイン)を他の学生と一緒に飲んだ、という様な記憶しか無いのです。
 校風としての上智は、適度な距離感でクラスメイトや先輩・後輩と仲良くできるところだと思います。大学への帰属意識が強く、卒業後も年度や出身学部に縛られることもなければ、同じ大学出身でも「関係ない」とドライに割り切ることもありません。以前、アメリカのソフィア会(卒業生の集まり)に参加したとき、会場の和食レストランのオーナーから「上智の人たちは品がいいですね」と言われました。そういう雰囲気が好きな人にはいいところだと思います。

ここまで読んだ上で、なお上智の史学科に入学したいと思ってもらえたら光栄です。皆さんの進路、及び入学後の生活が有意義なものになることを祈ります。頑張って下さい。

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