卒業生の声

史学科での貴重な学び

2008年度卒業 梅本郁乃(都内公立小学校教諭)
教室にて:1日の見通しを持たせるため、ホワイトボードに予定を書いています。 写真は講師を招いてのパン作りが行われた日に、子どもに撮ってもらいました。

教室にて:1日の見通しを持たせるため、ホワイトボードに予定を書いています。
写真は講師を招いてのパン作りが行われた日に、子どもに撮ってもらいました。

2005年、「いつか先生になりたい」という漠然とした思いと、「美術史を学びたい」という希望を胸に、私は上智大学文学部史学科に入学しました。

 古代日本の美術を学びたかった私は、当時大学にいらしたばかりの北條先生のゼミに入りました。今はわかりませんが、当時「北條ゼミは厳しい」というもっぱらの評判でした。理由は所属する学生が輪番でプレゼンを行うことになっていたからです。
プレゼミでは研究を進めていく上で目を通しておきたい書物についてまとめ、ゼミでは古代の日本の様子や思想が著されているとされる史料(私の時は『日本霊異記』)の該当箇所について、先行研究を読み、史料について調べました。
期日ギリギリまで行動を開始しない私は、プレゼンの日が近付くと図書館に缶詰めになり、泣きそうな心持で文献を読み漁るという作業を繰り返していました。でもそんな私の拙い報告や卒論でも、優しい北條先生やゼミの先輩後輩、友人達は温かく受け入れて下さり、とても居心地がよかったことを覚えています。

 私は大学在学中に中学校社会科と高校地理歴史科の教員免許、学芸員資格を取得しました。大学卒業後、学内の教職課程の掲示板でたまたま知った、都内公立小学校の学習支援ボランティアに採用して頂き、同じ小学校に3年間勤務しました。その時「小学校の先生」という職業に魅力を感じ、小学校免許取得と採用試験受験を決意しました。ボランティアの傍ら、他大学の通信課程で小学校免許を取得、2012年から都内の公立小学校で特別支援学級の担任をしています。元気な子ども達や素晴らしい先生方に囲まれて、毎日忙しいながらも充実した日々を送っています。

 私が普段相手にしている特別支援学級に在籍する子ども達は、近年映画監督のスピルバーグ氏のニュースなどで有名になった「発達障がい」というものを抱えて生活しています。
自閉症やAD/HDなど、障がい名は多岐にわたるのですが、概ね共通する障がい特性の一つに「目に見えないものを想像することが苦手」ということが挙げられます。過去や未来、また今までに経験したことがない未知のものなど、見通しが持てないものに強い不安を持ったりすることがあります。また会話や表情などから人の気持ちが読み取ることが難しく、対人関係上のトラブルを招きやすい、という特徴があります。

発達障がいを抱えたお子さんは「今」「現在」の学校生活、社会を生きる術を身につけるのが先決。そのため、通常学級では6年生の社会科で歴史的分野についての学習が始まりますが、私の学校の特別支援学級では歴史の授業を行っていません。私は一見歴史学とは対極の仕事をしているのですが、普段の授業や学校生活の中で「目に見えるものを手がかりに、見えないものについて考える」ことを教えている点で、歴史学と無関係ではないと思っています。昔の道具に実際に触らせて昭和の時代について少しだけ考えさせてみたり、「ごんぎつね」を読んで、主人公ごんの行動からその時の気持ちを考えさせてみたり。
他にも調べ学習ではサイトの記事や本を丸写しにするのではなく、複数のソースを使い、多角的に物事を考えさせるなど、日頃の授業に史学科で得たものを盛り込んでいこうと奮闘しています。
私自身についても、子どもへの様々な支援方法を複数の文献から考えたり、子ども達にわかりやすい授業を提供するために問題意識を持って生活したりと、史学科で学んだ姿勢が今の生活に役立っていると感じています。

一見歴史学と関係ない職業に就いても、史学科で学んだことは必ずどこかで役立ちます。4年間でたくさんのことを学ぶことができた史学科に感謝するとともに、今後史学科で学ぶ皆さんが、学生生活の中で将来に役立つものを得られるよう、お祈りしています。

大学3年生時のゼミ旅行。えさし藤原の郷にて。中央が筆者、右端が北條先生です。

大学3年生時のゼミ旅行。えさし藤原の郷にて。中央が筆者、右端が北條先生です。

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