何処にいても必要なことを史学科で学んだ
1.史学科では予定どおり、やりたい勉強ができた
私は元々、卒業後の汎用性の観点から経済学部志望をしていましたが、歴史好きの人間で終わらず、「太平洋戦争の原因を自分なりに理解しておきたい」という欲求から、史学科に志望を変えました。多くの大学に史学科はありましたが、2年次からゼミ形式で勉強できる上智の史学科は大変魅力的でした。
ゼミは、英語文献を読み続ける2年次のゼミから始まり、3年次からは自分自身が追及したい内容を他のゼミ生に発表しながら卒論の構成をまとめていくエキサイティングな段階に入りました。最終的には、卒論「在米日本大使館と日米開戦」の執筆をもって、入学当初の欲求は概ね満たすことができました。太平洋戦争の原因という漠然とした知識欲を上手く消化できず悩んでいた4年次の夏、「在米大使館に焦点を当てて書いてみては」とさらっとアドバイスを下さった長田先生には非常に感謝しています。原稿用紙180枚程の卒論は、社会人としての日々の活動にも大きな武器となっています。史学科で得た知識を使っていないにも拘わらず、です。
2.歴史から離れる
卒業後は、自治省(現:総務省)に入省しました。史学科での勉学に一定の満足を得た後、紆余曲折を経て、現在は歴史から離れた世界に身を置いています。この進路を選択したのは、自治省という役所が、中央政府と地方自治体との調整役を担っており、在学中に努めたソフィア祭実行委員会の副委員長の役割と似ているところがあったからです。政治資金制度を担当する部署で公務員人生をスタートし、その後も、地方財政、国会担当などに携わっていきましたが、自分のキャリアが歴史とクロスすることはありませんでした。
3.それでも、史学科時代の経験は活きる
役所生活も6年程経過したある日、何気ない会話の中、上司が私の仕事ぶりをロジックや根拠で結論をガチガチに固めることが多いと評しました。柔軟性に欠けるという短所もありますが、私はこれをポジティブに受け取りました。分野を問わず、根拠は必要です。特に私のいる役所は、サービスを提供する相手、クライアントが1億3千万の国民です。最大限の納得を得るには、根拠とロジックは拘っても拘りすぎることはありません。
根拠への拘り、これは史学科で、特に卒論を通じて学びました。卒論は、先生方の論文に比べれば内容は浅いですが、この世にないオリジナルです。そのオリジナリティをしっかりと確立させるのは、史料をいくつも当たって築く根拠の繰り返しである点は変わりありません。史学科で得た知識を直接使った仕事ではなくとも、4年間の勉学で得たスタイルは、自分にとって大変重要な役割を果たしています。「結構、使えるな、あのときの経験」。これが今、感じる率直な気持ちです。
4.「歴史、やっていてよかった」と、日本を離れても思った
昨年まで、仕事の関係でスコットランドに居住していました。日本人があまりいない地域であるが故に、家族皆、当初は苦労もしたのですが、一方、新鮮な出会いが多かったことも確かです。知り合っていく人々との会話では、歴史を勉強していたということで、話が弾むこともありました。卒論の概要を丁寧に聞いてくれた人もいました。外国でのコミュニケーションでは言語が大きなハードルですが、興味をもたれる話題さえ見つければ、何とかなります。その点、歴史はネタとして使えました。
史学科で得たもの。それは決して失われない、愛おしい「財産」です。