社会人入学体験記
私は、社会人入試で史学科に編入し、2015年3月に64歳で卒業しました。楽しくも苦しかった思い出の2年間でした。以下は私の経験を踏まえての史学科の紹介と歴史学についてのコメントです。史学科を目指す皆さんの参考になれば幸いです。
私は1969年春に上智大学外国語学部ポルトガル語科に入学し、卒業後は合繊メーカーに39年間勤め2013年3月に退職しました。会社では輸出営業と海外事業を中心に担当し、多くの海外出張と米国勤務の機会に恵まれました。かねてより歴史には興味を持っていましたが、折に触れ素養のなさを感じていたので、退職を機に基礎から勉強しようと思い社会人入学(学士入学)しました。とは言え、当時は期末試験やレポートのことなど念頭になく、いわゆる受験勉強も一切していませんでしたので、入学後は大変苦労しました。
さて、史学科では1年次で歴史学の入門や概論を学び、2年次ではプレゼミが加わり、3年次以降では主に特講を履修しながら日本史、東洋史、西洋史の専攻別にゼミ、卒論指導を受けます。3年次扱いとなった私が最短で卒業するには2年間で史学科の必修科目単位数と卒論を履修する必要があり、すぐに専攻コースを決めねばなりませんでした。結局私は西洋近世史(大航海時代、ルネサンス、宗教改革の時代)を選びました。近代社会の成り立ちを理解するには中世からの転換期の理解が必要と考えたからです。
授業はいずれも面白く、また勝手に想像していたイメージとも異なっており、私には新鮮な驚きの連続でした。歴史学の流れとしては、社会史(含む女性史、民衆史など)の興隆や一国史を超えた地域史・グローバルヒストリーへの広がり、ヨーロッパ中心史観からの脱却などが大きな変化と言えます。更に、周辺諸科学(考古学、社会学、心理学、人類学など)の成果の取込みや学際的アプローチなども挙げられます。授業では史料の現物やPCでの映像や音楽の活用など昔の授業にはなかった工夫がされていました。
4年生の春学期には卒業単位数の目途がたち、秋学期は興味のある選択科目の受講(朝鮮史、アイルランド研究、東南アジア現代史)と卒論に集中しました。私はイスラム、ユダヤ、キリスト教の3文化が交錯していた近世のイベリアに関心があったので、卒論のテーマは「ポルトガルの異端審問制度」にしました。文献講読と執筆に苦労しただけに卒論を書き終えた安堵感はひとしおで、提出日に家族と祝杯を挙げたのを覚えています。
さて、以下はこれから史学科を目指す皆さんへの私からのアドバイスです。
1. 歴史学は面白い
歴史学は役に立たないと思われがちですが、誤解があるようです。史実を丹念に実証的、多角的に解明してゆく思考プロセスは実社会においても非常に有用です。歴史史料は単なる記録に止まらず、それを通じて当時の人びとの考えや社会構造を解読し再構築することができます。それが歴史学の面白さ、醍醐味です。
2. 外国語を学ぼう
英語とできればもう一つ外国語を学びましょう。程度の差こそあれ、これはどのコースを専攻しても言えることです。通常外国人との交渉では英語が用いられますが、もう1ケ国語あればさらに世界は広がります。が、コミュニケーションの鍵は実は日本語力にあります。外国語のスキルもさることながら、いかに考えや思いを伝えるかが決め手でしょう。
3.大学を活用しよう
上智大学には立派な図書館と多くの研究機関があり、学生も利用できます。たいていの地域の歴史、言語、文化については専門の先生がおり、他学部のカリキュラムも選択できます。勿論、課外活動も多岐にわたっています。ぜひ利用して学生生活を充実させて下さい。
2016年2月私は65歳になります。春からは大学院のグローバル・スタディーズ研究科に進学し、戦後アジアの国際関係について勉強する予定です。史学科を第一幕とすれば、より身近な地域、時代を対象にした今回の進学はその第二幕ということになります。どこまで授業についてゆけるか不安は尽きませんが、勇気を奮ってチャレンジしてみようと思います。では未来のソフィアンの皆さん、キャンパスでお会いしましょう!