卒業生の声

全ての道はローマに通ず

2003年度学部卒業生 川畑伊知郎(東北大学大学院・薬学研究科・助教)
ウラディーミル・アシュケナージと

ウラディーミル・アシュケナージと

全ての道はローマに通ず。ローマ帝国全盛の時代、世界各地からの道がローマに通じていたことから、人々はローマについてそう語ります。僕は史学科で西洋古代史を選択し、豊田浩志先生のもとで当時の楽譜史料や壁画・モザイク画・アンフォラ装飾、そして現代に制作されたローマ映画を検証し、シンセイサイザーを使ってローマ帝国時代の音楽を復元して実際に演奏する卒論を提出しました。

豊田先生をはじめ、史学科の先生方は気さくな先生ばかりで、豊田先生の研究室に遊びに行くとお隣の大澤正昭先生(東洋史)や向かいの山内弘一先生(東洋史)、はたまた井上茂子先生(西洋史)が研究室から出ていらして、事務の林道子さん(当時)も交え、史学の話もそこそこに雑談にも花が咲きました。そんな豊田先生は、厳しい授業の中で古代ローマの魅力を余すところなく教えて下さり、歴史書はもちろん、ときにはCDやDVDも貸して下さいました。僕はこのような先生も学生もわけ隔てのない史学科の雰囲気がとても好きでした。

子供のころから自然が好き、世界情勢や歴史が好き、そして音楽が好きだった僕は、理系か文系か、それとも音楽の道に進むべきなのか、高校時代にとても悩みました。海外を中心にピアノのコンサート活動を行っていた僕に、小さいころからの友人で世界的なピアニスト・指揮者でもあるウラディーミル・アシュケナージ氏は、音楽を理解し音楽性を深めるためにはまず人としての原点である歴史を学ぶべきであると教えてくれ、僕の迷いを吹き飛ばしてくれました。

大学時代に祖父を薬の副作用によりパーキンソン病症候群で亡くしたことをきっかけに、僕は史学科を卒業後、脳神経科学の道に進路を変えましたが、文系・理系・芸術を問わず、真理を解き明かし自分の言葉や感性でまとめ上げ、それをアウトプットするというプロセスはどの分野でも共通であり、史学科で培った新たな史実を解き明かす力は、初めはリンクするのに苦難はあっても、他の分野や社会でも通用すると確信しています。また古代ローマ音楽の再現にあたり、史料を集め文献を読む作業、さらに現代に制作された映画に登場するそれらしい楽器や旋律と史実との相違検証などは、そのまま脳科学分野における実験計画の設計や実験データの解釈などに生かされています。

僕は東京工業大学大学院修了後、現在東北大学の教員としてパーキンソン病などの運動障害やアルツハイマー病をはじめとする記憶認知障害がなぜ起こり、またどのようにしたら根本的に治療することができるのかをテーマに脳神経科学の分野で研究を行っています。
科学研究は世界規模で過当競争が激しく、国や企業からもらった助成金を使って研究を推進し、研究結果の報告義務と社会還元の義務があります。これは考古学研究でも同じことであり、発見者や特許などのプライオリティーはとても大事なことです。教科書に縛られない史学科で学んだ多くの事は、科学や音楽、そして社会での生き方において、僕の中で大切にそして大きく育っていると思います。

日々紡がれる壮大な歴史、ギリシアから引き継がれ発展した芸術、強力な軍隊と広大な領土を支えるための科学力。王政、そして共和政を経て繁栄した古代ローマは、歴史、芸術、科学のすべてがそろった強大な帝国でした。そんな壮大なローマ帝国に思いをはせ、歴史と音楽を愛する心を忘れることなく、今後も科学の発展に力を注いでまいります。

蛍光顕微鏡を使った実験風景

蛍光顕微鏡を使った実験風景

培養ドーパミン作動性神経

培養ドーパミン作動性神経

東北大学にて学生と花見

東北大学にて学生と花見

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