史学科卒の銀行員より受験生の皆様へ
豊田ゼミ卒業生の田嶋孝啓と申します。2004年に上智大学史学科を卒業し、地元静岡県の金融機関に就職をしました。現在は、渉外担当として中小企業向け融資を主に担っています。大学入学当初は、私自身金融機関で働くことなど全く考えていませんでしたが、縁あって銀行に就職することとなりました。おそらく史学科に興味のある方は研究者を志し入学される方が多いのではないかと思いますが、ここでは一企業へ就職をしたサラリーマンとしての立場から、史学科で学ぶことについて触れたいと思います。
学生時代は、環境史に興味を持ち、古代ローマ帝国におけるローマ人の寿命と気候との関係について卒論を書きました。今思えば大それた考えかもしれませんが、環境史を研究することがきっと今現在自分自身が生きている世界に影響を与え、役に立つのではないかとの思いから、このテーマを選びました。私の場合、最終的には研究者ではなく、企業で働くという道を選択しましたが、学生時代に卒論制作という一つのことに真剣に打ち込んだことは、今の業務にも活きているのではないかと思っています。
私が現在従事している業務は、企業の決算書を読むための財務や税務に関する知識など、大学時代の研究では関わることがなかったことが大半ですが、あえて比較するならば融資実行のために銀行員が作成する『稟議書』と仮説を証明するため様々な分野の参考文献にあたり作成する『論文』には共通する部分が多くあるのではないでしょうか。
様々な業種の企業を担当し、お客さまから信頼を得て仕事をもらえるようになるためには、広範囲に亘る専門的な知識が必要となってきます。経営者から直接話を聞いたりすることも沢山ありますが、自分自身で各業界に関する専門書を読んだり、調査をすることも多くあります。限られた情報の中から企業の強みを発見したり、時には破綻の兆候をつかんだりと、決算書の数字には表れてこない事象をいかに把握できるかが、担当者の腕の見せ所ともいえるかもしれません(論文も膨大な参考文献にあたり、仮説を検証するという地道な作業が求められる点では同じではないでしょうか)。担当者が企業を判断するためにいかに多くの情報を集めることができるかで企業の将来が決まってしまうとしたら、一見地味とも思われる作業も、とても責任の重いことであるといえます。そういう意味では歴史学という学問に触れた経験が、今の私を支える力となっているのではないかと感じています。
受験生の中には歴史が好きなのにこの分野を学んでも就職や仕事には直結しないと思い、史学科で学ぶことを諦めようとしている方がいるかもしれません。しかし史学科で学んだことが卒業後もきっと活きてくることでしょう。私自身、これからも歴史学を研究したことを誇りとして様々なことに挑戦してきたいと考えています。少しでも歴史に興味がある方は、ぜひ史学科の門を叩いてみてください。