英語学科で主に応用言語学系の科目を担当している和泉です。今日(11月23日)は勤労感謝の日であるにも関わらず上智大学では授業実施日となっており、普段通りのスケジュールで授業を行いました。休日出勤でいいのは通勤電車が空いているということですが、大学に着くまでは「今日は本当に大学の授業はあるのかな」と少し変な感じを持ちながら出勤しました。でも、大学に着くと、いつも通りのにぎわいで何かホッとしています。 さて、つい先程、応用言語学のゼミの授業を終えて研究室に帰ってきたところです。このゼミでは、学生の興味やニーズに合った形で様々な応用言語学トピックについての論文を読み、それを学生主体で発表してもらい、意見交換をしながら話を深めていくというスタイルを取っています。今日の主題は、「留学の効果とその違いはどこから来るのか」でした。 とかく留学と言うと、多くの人は過大な期待を持っていることが多いようです。例えば、「留学すれば、必ず英語がペラペラになる」だとか、「ネイティブのような発音や表現が身につく」、はたまた「金髪で青い目の彼女・彼氏ができる」等々。彼女・彼氏の話は別として、英語能力の進展に関しては、実際は必ずしも思ったような成果が得られない場合が少なくないようです。「ペラペラ」とは何を差して言っているのかが不明確な場合も多いです。日常生活に不自由しないというレベルから、大学の授業でディスカッションやディベートが行われる際、現地の学生に引けを取らないくらい議論に参加できるというレベルまであるでしょう。日常生活に不自由しないと言っても、どれくらい複雑な内容が扱えるのかといったら、それも随分差が出てきます。例えば、普通に買い物ができるといったレベルから、釣り銭をごまかされそうになった時に抗議できる、交渉できるといったレベルまで様々です。いずれにしても、そのようなレベルでも留学の成果としての個人差はそれなりに出てきます。学問的な分野での高度な英語能力の獲得では、それはなおさらです。 さて、それでは留学の成果の違いはどこから来るのでしょうか。今日のテーマの元となった論文の著者であるRobert DeKeyserは“Study abroad as foreign language practice”という論文の中で、次のように言っています。すなわち、留学の成果の違いは、留学した最初の時点でその人がどこまでの英語運用能力を獲得しているかということが一番大きな原因になっている。もし初心者の学習者が留学するとどういった状況に陥りやすいかと言うと、こうなります。他の人の言っている英語が聞き取れない、自分の言いたいことが何も言えない、じっと黙って我慢していることが多くなる。友達がなかなかできない。精神的に追いつめられる。日本人、日本語が恋しくなる。結果、外国にいても日本語で暮らせる環境を求めてしまい、日本人同士でつるんでしまう。自分の回りにLittle Japanをどうにかして築き上げてしまう(外国にいても、実はこれって思ったより簡単にできてしまったりするんですよね)。 英語を使う状況に遭遇した場合は、どうしてもコミュニケーションのプレッシャー(時間的制約、状況的制約等)が強くなりやすいため、決まり文句(例えば、I see. Could you ~? What’s that?等のチャンクで使える言葉)を多用することが多くなる。なかなかこれまで習ったはずの高度な英文法などを駆使して話すチャンスが得られない。結果、「ペラペラ」になると言っても、決まり文句程度の日常英会話ぐらいしか身につかず、限定的な「ペラペラ」となってしまいがちである。このような状況は、まだ英語運用能力がそれほど身についてない初心者が比較的短期的なプログラム(数週間から1年程度)に参加した場合によく起こる現象である。つまり、一般的に信じられているような、「留学すれば必ず英語が上手くなる」というのは必ずしも本当ではないのです。 留学経験を最大限に活かすためには、それなりの準備が必要であり、理想的には少なくとも中級程度の英語運用能力を既に獲得している必要があるというのがDeKeyserの主張です。ここで大事なのは、英語運用能力という言葉で、それは単なる文法を「知っている」という静的な知識のことではなく、それをスピードは多少遅くとも少しは使えるという実践的な能力です。そういった能力が留学最初の時点からあると、それをフル活用して留学経験で面する様々な日常生活での英語使用場面だけでなく、より高度な学校/大学での英語使用場面でも役立たせることができるのです。それでこそ、留学環境を「心地よくチャレンジングな環境」とすることが可能になるのです。 このあとの議論もまだまだ細かくあるのですが、今日のゼミの授業ではこういった話について学生同士の議論を交えて話を進めていきました。後半のディスカッションでは、「では、日本にいる時にどういった準備をすればいいのか」、「英語教師は生徒のためにどういったことをしてあげればいいのか」といった、学習方法、教育方法へと話が進んでいきました。そこで特に印象に残ったのが、一人の生徒が確信を持って言った次の言葉です。「英語学科で最初は守られつつもチャレンジングな環境で自分自身を充分鍛えてから留学すればいいのではないでしょうか。私はそのおかげで充実した留学経験ができました。」少し英語学科の宣伝じみた話になってきてしまい恐縮ですが、上智英語学科では毎年多くの学生が留学します。私の知る限り、1年間弱という比較的短い留学期間でも、確かに皆さんかなり英語の力をつけて日本に帰ってきます。気持ち的にも、自信を深め、留学前よりも堂々と臆することなく英語を駆使して自分の意見を言ったり、また何十ページもの英語論文を書いたりするようになります。これもDeKeyserの言う、留学前準備の賜物と言えるのではないでしょうか。 長くなりましたが、ちなみに、これらのディスカッション・講義は全て英語で行われたということも付け加えておきます。I hope you will join us and share with us your ideas in the near future!! Best wishes, Sean Izumi
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