本調査は、⑴水域管理における湿地保全の役割の日本国内のケーススタディを知ること、⑵ラムサール条約の国内実施状況の調査として円山川における湿地再生事業について現地視察 および関係者ヒアリングを行うこと、⑶基礎事実の把握(ラムサール登録湿地保全地域に対して関係者がどのように連携を行っているのか、登録前後で変化があったかヒアリングすることによりラムサール条約に対する意識、実施に向けてのありかたの把握を目的として、円山川の基礎情報の収集を中心に行った。
ヒアリング対象者として、環境省(竹野自然保護官)、豊岡市コウノトリ共生課、NPOコウノトリ湿地ネット(ハチゴロウ)、戸島営農組合(登録湿地区内においてコウノトリはぐくむ農法を実践)、川中建築(円山川下流域のヨシを活用したペレットの開発)の方々に話を伺った。
また田結地区、ハチゴロウの年増湿地、加陽湿地を含む加陽水辺公園などを訪問し、条約登録地および拡張地域の現地視察を行った。
本調査においては、特にCEPA(Communication, Education and Public Awareness)の実践(レクリエーションやEco-DRR対応)はされており、ラムサール条約における賢明な利用は促進されているといえるが、ラムサール条約に対する誤解やCEPAのAwarenessに関わる実践が不十分であることがわかった。
2018年10月18日にラムサール条約第13回締約国会議において、円山川の既存登録湿地が拡張され、一部流域が追加登録された。本調査では、拡張地域も含め、前年度の調査では不十分であった円山川流域における「河川管理」に関わる現地状況を把握することを目的として、河川管理に関わる利害関係者へのヒアリングを行った。
行政では、国土交通省豊岡河川国道事務所、 豊岡市コウノトリ共生課、環境省(竹野自然保護官)にヒアリングを行った。国際環境法の観点からは、ラムサール条約指定基準と管理について、指定基準の「該当性維持」のための認識の欠如していること、ラムサール条約第3条2項上に規定されている「生態学的特徴の変化」の有無について、データ収集の頻度と内容が十分ではないことがわかった。
国内環境法の観点からは、鳥獣保護区の指定や保護区での具体的施策についてヒアリングを行った。前者については、保護区計画書に魚類は想定されていないことや2017年度の拡張変更による一体的な保護管理に関する具体的な対応がないことが明らかになった。後者については、耕作放棄水田における被害の扱い方などについて課題があった。
民間では、地元のNGO円山川菜の花の会、円山川漁業協同組合、河谷営農組合、中谷営農組合、百合地営農組合に話を伺った。具体的には、ラムサール条約に登録されることへの不安や期待、環境教育などの実施状況、保護区となったことへの心配事、現状困っていることなどについてヒアリングを行った。菜の花の会ではごみ問題への対応が課題であり、下流城の城崎温泉協会などとの連携などが課題であることがわかった。また漁業組合においては、CEPAの失敗や害鳥駆除が難しい現状や登録湿地の拡張地域に存する農業組合においてもCEPA(特に「A」Awareness)の実施が不足していることが明らかになった。