本事業は、本学が重点課題として取り組んでいる学融合型環境研究の拠点化を図ることを目的とする。具体的には、新しい戦略的な流域ガバナンスの枠組み構築と微生物群集構造を考慮した新しい河川流域環境管理ガイドラインの提案、ならびに学融合型河川流域研究の国際ネットワークを形成することにより、持続可能な開発目標(SDGs)実現に資する国際的な研究と教育拠点の確立を目指す。
人類は、生態系によって提供される多くの資源とプロセスから利益を得ている。このような利益を支えている基盤は水循環、土壌形成、一次生産、栄養塩の循環などである。しかしながら、様々な人間活動によって生物が激減、生態系が崩れるという現象も起きている。UN Millennium Ecosystem Assessment によれば、最も生産性の高い生態系の一つである湿地の劣化は他の生態系システムより深刻化している。世界全体でこの50年間に先進国を中心に70%の湿地が消失した。日本の湿地面積は、明治・大正時代から約60%減少している。しかし、この深刻さに社会はあまり気づいていない。我々はラムサール条約の使命である河川流域における湿地の環境保全と賢明な利用(ワイズユース)、土壌物理環境と微生物構造変化、水管理政策の実施効果分析などの研究を通して、分野を超えた学融合型アプローチで流域環境保全と流域資源の持続的な利用に取り組む重要性を認識し、それを広く社会に発信することを目指す。こうした視点は、国連総会「持続可能な開発に関するサミット」において採択された「持続可能な開発 目標(SDGs)」の達成課題とも合致する。同目標では、貧困、不平等・格差、気候変動のない持続可能な世界にむけて、2030年までに目指すべき17の目標が掲げられた。これは途上国だけでなく、すべての国を対象とする普遍的目標である。河川流域の環境保全はSDGsが掲げた清潔な水と衛生、気候変動への対策、生態系と生物多様性保全、またはグローバル・パートナーシップ活性化の目標と直結する。河川流域の統合管理と湿地の賢明な利用を進めれば、貧困削減の目標にも大きく貢献できる。
具体的研究課題としては、まず、日本、中国及びタイを中心とした東南アジアの学融合型河川流域研究ネットワークの構築を目指して、国際的な研究基盤作りに取り組む。基盤作りを進めながら、日本の太平洋側、日本海側の河川流域、中国北西部の乾燥地域の河川流域、並びに、東南アジアのチャオプラヤ川などの河川流域を対象にし、流域の環境と社会・経済に関する分野横断型現地調査・解析により、流域環境統合管理の視点から具体的な方策を打ち出す。事業の一つ大きな着眼点は人間活動による湿地土壌の微生物群集構造の変化、そして、微生物群集構造変化情報をどのように流域環境管理向上に活かすことができるかという点にあり、微生物という微小で専門性の高いミクロな視点が、河川流域の人間の生活や社会経済活動にも大きな影響を及ぼし得るという点に着目し、河川流域環境研究を学融合的に展開する。
マクロからミクロまで、環境工学から環境行政、湿潤地域から乾燥地域、減災から生態系、経済開発から環境倫理、先進国から開発途上国までを包括的に扱って、次世代環境研究プラットホームを構築していくのは本事業の使命であり、事業メンバーの生き甲斐でもある。