研究計画(2011-16年)

 上智大学研究拠点としての、各年度の研究計画は、右記のリンクよりご覧ください。

 概要のテーマで述べた研究活動について、具体的な成果を挙げ、拠点形成を推進するため、以下の方法をとる。研究会、セミナー、国際ワークショップなどの個別の活動は、拠点全体の研究テーマに沿って統一性を維持しつつ行う。毎年、得られた成果の検証を行い、とりくむべき課題の軌道修正を図っていく。
 初年度には、まず従来の研究成果を整理することにより、近代、イスラームの民衆性、ネットワークの三つの概念の共通枠組みの確立をめざす。
 そのうえで、三つの具体的な研究活動の課題を設定し、これらについて実態の解明を目指す。その際、上智大学拠点の特徴を生かしつつ、アフリカから中東、東南アジアに広がっているカトリックの研究者・研究機関のネットワーク、たとえばサン・ジョセフ大学(ベイルート)や上智大学カイロ研究センターなどと連携し、活動を国際的ネットワークの中につなげていく努力を行う。

 具体的な研究課題の第一は、イスラーム運動における民衆性とネットワーク形成の実態解明である。初年度は、基礎作業として西アフリカ、ヨーロッパから東南アジアまでのイスラーム運動組織のリストの作成、出版物、著書の調査・収集などを行う。次年度以降は、主要なイスラーム運動組織の資料(綱領など)、イデオローグの著作などの翻訳・分析、それらの民衆への広がり方、知識と運動のネットワークの実態などを研究調査する。最終年は、西アフリカ、ヨーロッパから東南アジアまでのイスラーム運動組織が、ネットワークによって、民衆の中に浸透している実態を総合的に整理する。

 研究課題の第二は、東南アジア・ムスリム社会における近代性の諸問題の検討である。本研究では、東洋文庫拠点と連携して、前述のキターブ・コレクションの拡充作業を継続しながら、東南アジア・ムスリム自身による主体的な知的・社会的営為に焦点を当て、近現代東南アジア各地の様々なイスラーム知識人が、近代性とどのように出会い、それをどのように理解したか、そして、それをどのようにイスラームの中に位置づけ、どのような言葉や論理を用いて、どのように一般民衆に伝えようとしたかを、彼らの著作物や活動にもとづいて検証する。また、これらの著作物や活動の比較を通じて、東南アジア域内各地、および、中東・南アジアなど域外の思想や運動とのつながりを検討し、それを通じて、近代東南アジアのイスラーム思想や運動のネットワークの実態を解明する。

 研究課題の第三は、スーフィズム・タリーカ・聖者信仰・預言者一族崇敬の四つの現象の複合(これをスーフィズム・聖者信仰複合と呼ぶ)と近代との関わりの理論的再検討である。本研究では、スーフィズム・聖者信仰複合に関する地道な調査・分析を継続する傍ら、学際的・国際的交流の推進に力点を置く。とくに近代において新たな大衆層がイスラーム世界の各地で形成される過程において、伝統的に民衆ネットワークの要の一つを成していたタリーカが、積極的な役割を果たしえたのか否かの検証を中心的な課題とする。 最終年には、以上の三つの研究課題について、文化・思想・文明としてのイスラームが、「近代」「民衆」「ネットワーク」という三つの要素を通じて、いかなる展開をとげ、いかなる現状にあるか、そしていかなる未来的展望を提示しているのか、ということを具体的な研究成果としてまとめる。そのことによって、知的成果の意義を一般社会にわかりやすい形で提示する。