研究計画(2012年度)
Ⅰ 今年度の目標
5年間の活動計画を見据えつつ、研究活動の土台構築となる以下のような事業を実施する。
(1) 第2年目の本年度は、「イスラーム近代」「民衆」「ネットワーク」という三つの鍵概念が具体的な地域のなかで展開される実態の解明をめざす。中東・北アフリカ、中央アジア、東南アジアの歴史的な発展過程と現状において、上記の三つの課題の相互連関性を明らかにするため、比較を目的とした研究会(5月開催を予定)および、総合化を目的とした研究会(2013 年3月)を開催する。
(2) 各研究課題に沿った個別の研究会開催や海外調査などの研究活動を推進する。今年度は初年度の成果をふまえた研究活動を行う。
(3) 上智大学拠点の刊行物であるSIAS Working Paper Seriesを始めとして、『上智アジア学』(上智大学アジア文化研究所)やIAS英文研究叢書シリーズ(New Horizons in Islamic Studies)などへの研究成果の発表や刊行準備を行う。
(4) 上智大学カイロ研究センターとサン・ジョセフ大学との連携を継続・強化することに加えて、2011年に上智大学と研究協力が締結されたJICA(国際協力機構)とも連携しつつ、上智大学拠点の国際的なネットワークのさらなる拡充を目指す。
Ⅱ 活動内容
1.活動の基本方針
本年度は、初年度の研究成果をふまえつつ、「イスラーム近代」「民衆」「ネットワーク」という三つの鍵概念が、歴史と現状のなかで現れる実態の分析をめざす。第一に、2011年のいわゆる「アラブの春」をへたイスラーム運動がめざす方向、権力および民衆との関わりなどを西アフリカ、ヨーロッパから東南アジアまでのイスラーム運動組織の分析を通じて明らかにする。エジプトの「自由公正党」、チュニジアの「ナフダ党」、モロッコの「公正発展党」、パレスティナの「ハマース」、インドネシアの「開発統一党」などがその対象である。第二に、東南アジア・ムスリムと近代に関して、特に教育、出版活動、国際認識、イスラーム運動に焦点を当て、東アジア、南アジアとの比較を視野に入れつつ国際共同研究を実施する。その一環として、東南アジア・キターブ・コレクションを本格的に公開して利用を促進するとともに、キターブ収集と目録改訂作業を継続する。第三に、スーフィズム・聖者信仰複合に関する研究の基礎作業として、研究の国際交流強化を推進し、CNRSの同一分野の研究者との連携による国際ワークショップ開催を今年度より年1回として開始する。加えて、これまでの研究蓄積の成果刊行を進める。
2.研究会活動
地域と時代の比較を目的とした研究会を5月に、総合化を目的とした研究会を3月に開催するほか、個別の研究課題に沿った研究会を5月(2回)、7月(2回)、9月(2回)、12月(2回)、1月(1回)に開催する。9月に開催される2回の研究会はいずれも研究合宿として実施される。なお、とくにスーフィズム・聖者信仰複合をテーマとする研究会(5月、7月、12月)はいずれも京都大学拠点との連携研究会として実施する。加えて、1月に東南アジア・ムスリムと近代に関する研究会を開催する。
3.東南アジア・キターブ・コレクション・カタログ改訂
インドネシアの研究協力者(オマン・ファトゥラフマン氏、エルファン・ヌルタワブ氏)の協力を得て、収集済みのキターブ(カイロ、バンジャルマシン収集分)、および、2012年度収集予定のキターブ(パタニ、バンコク収集分)のデータ入力、校閲を行う。また、刊行済みのカタログ初版のデータに追加情報を補足し、改訂の準備作業を行う。
4.国際ワークショップ
5月、6月、10月、2月、および開催日程未定の5回の国際ワークショップを開催する。6月と2月の国際ワークショップは、京都大学拠点との連携で開催し、イスラームの近代と民衆のネットワークをテーマとする。発表者は主として上智大学および京都大学の大学院学生、若手研究者として、研究分担者とCNRSからの招聘者等をディスカッサントに据える。それぞれの成果はプロシーディングスとして発表する。5月にマイケル・フィーナー氏(6月まで京都大学にて在外研究中)、ファトゥラフマン氏、ヌルタワブ氏らの参加を得て、「東南アジア・キターブの比較研究」第2回国際ワークショップを開催する。10月には、シンガポールからフィーナー氏を招聘し、同第3回国際ワークショップを開催する。これらの成果は英文ワーキングペーパーとして刊行する。加えて、研究分担者であるアレクサンドル・パパス氏との協力により、CNRSと京都大学拠点との共催により、近代におけるスーフィズムおよび聖者信仰に関する国際ワークショップを実施する(時期未定)。この国際ワークショップはCNRS側からの要望もあり、今後毎年1回開催地を日仏交互に設定しつつ実施する予定である。また、その成果は日英仏語で刊行すべく準備を進める。
5.海外調査
アルジェリア、エジプト、タイ(2回)、イランで海外調査を行う。アルジェリアとエジプトの調査では、イスラーム運動と民衆性のテーマに関わる文献調査や聞き取り調査を行う。タイ(パタニ、バンコクで実施)の調査ではキターブの調査・収集、イスラーム出版活動に関する調査を行う。イラン(テヘラン、ゴム、マシュハド)では聖者廟調査を行う。
6.研究者招聘
アルジェリア(1名)、インドネシア(2名)、シンガポール(1名)、フランス(1名)より5名の研究者を招聘する。アルジェリアからはアルース・ズビール氏を招聘し、アルジェリアのイスラーム運動をテーマとした研究会を開催する。インドネシアからは、5月の国際ワークショップの発表者・ディスカッサントとしてオマン・ファトゥラフマン氏とエルファン・ヌルタワブ氏を招聘する。シンガポールからは、10月の国際ワークショップ発表者として、マイケル・フィーナー氏を招聘する。フランスより日仏間の国際ワークショップの発表者としてアレクサンドル・パパス氏を招聘する。フランスより日仏間の国際ワークショップの発表者としてAlexandre Papas氏を招聘する。当該のワークショップには他に複数名の専門家が来日の予定である。
研究成果の公開
研究活動の成果は、①SIAS Working Paper Series②『上智アジア学』(年刊、上智大学アジア文化研究所発行)③イスラーム地域研究全体の刊行物(IAS英文研究叢書シリーズNew Horizons in Islamic Studies、「イスラームを知る」シリーズなど)④AGLOS e-journal(大学院グローバル・スタディーズ研究科)⑤ウェブサイトでの公開などを通じて発表する。
(1) SIAS Working Paper Seriesとして、今年度は『エジプト、チュニジア、リビア、モロッコの新憲法』(第18号)、『ムスリム同胞団の新資料』(第19号)、『アジアのムスリムと近代:1920-30年代出版物を資料として』(第20号)、『Comparative Study of Southeast Asian Kitabs No.2』(第21号)を刊行する。
(2) 『上智アジア学』は、その編集担当に私市、川島、赤堀があたる年度について、イスラーム地域研究を主題とする特集を組む。
(3) IAS英文研究叢書シリーズNew Horizons in Islamic Studiesの一冊としてSufi Saints and Non-Sufi Saints: Sacredness, Symbolism and Solidarity(赤堀雅幸・東長靖(編))の刊行を行う。
(4) 東南アジア・キターブ・コレクション・カタログ補遺(2013年刊行予定)を始め、『東南アジア・ムスリムと近代(仮題)』、『東南アジア・キターブの比較研究(仮題)』(詳細未定)などの論文集の刊行準備を行う。
(5) イスラーム研究センターのウェブサイトの拡充作業を行う。個別の研究成果をウェブサイト上にも公開し、研究者の利用に供することで、イスラーム地域研究推進拠点としての利便性の向上を図る。具体的には、東南アジア・キターブ・コレクション・カタログをウェブページ上に公開する。また英語のウェブサイトを充実させ国外への研究成果の発信を推進する。
教育計画
上智大学拠点では、若手研究者育成を主眼の一つに据えながら研究活動を推進する。具体的には、まず大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻所属の大学院生を中心に、他の専攻や他大学大学院の学生、またポスドクの若手研究者等を研究協力者に加え、国内外での研究会、ワークショップ、国際会議などでの発表、海外調査などへの参加を促す。加えて、若手研究者自身が主体となって企画運営する研究会活動を奨励・支援する。また、上智大学イスラーム研究センター特別研究員の採用を始め、本拠点の独自予算によるPD、RAなどの増員、他大学からのポスドクの受け入れなどを積極的に行う。そして、京都大学拠点との共催で毎年2回開催する若手研究者国際ワークショップを始めとして、特に大学院生や若手研究者の国際的な発信力を高めるための取り組みを進める。