研究計画(2009年度)

<拠点全体としての取り組み>
 本年度、上智大学拠点では第一期5年間の総括を見据えつつ、以下の研究課題に取り組む。
 1.前期(4月~9月)は、拠点3グループの共通課題である「民衆運動・民衆文化」というテーマで研究成果を社会還元すべく、新宿・朝日カルチャーセンターとの共同事業として社会文化講座「イスラームの民衆運動」を開催する(合計12回)。
 2.グループ3が中心となってSayyid/Sharif国際研究集会を開催(9月予定)するが、これを「イスラームにおける民衆性」の問題の中核課題として位置付け、現代イスラーム運動(グループ1の研究課題)、および東南アジアの民衆イスラーム(グループ2の研究課題)の研究と有機的な関係を構築する。
 3.12月のカイロ国際会議に、グループ1が中心となって参加し、「サラフィズムとナショナリズム」のセッションを組む。これは、拠点全体の企画としての位置づけをし、その準備のためのワークショップの開催(10月を予定)を進めるとともに、カイロ会議にはグループ2、3の分担者も出席する。
 4.エジプトのカイロに開設(2008年11月1日)した上智大学カイロ研究センターとの連携を図りつつ、上智大学拠点の活動を国際化していく。

<研究グループ1>
Ⅰ 今年度の目標
 これまでの3年間の研究を踏まえ、本年はとくにサラフィズムとナショナリズムの関係についての研究を推進することをめざす。そのために、この分野の専門家を招いての研究会を開催する。ハサン・バンナー著作集の読書会は翻訳出版を目指し、合宿形式で集中的に行う。カイロ会議の準備をかねてアルジェリアのイスラームとナショナリズムに関するアラビア語史料の読書会を開催する。これらの活動には若手の研究者や大学院生たちの参加を積極的に促し、共同の研究活動の場を構築する。
Ⅱ 活動内容
 1.社会文化講座の担当
 4月~6月まで、新宿・朝日カルチャーセンターとの共同事業として社会文化講座「イスラームの民衆運動」に参加し、分担者・協力者が4回の講座を担当する。
 2.研究会活動
 サラフィズムとナショナリズムの研究会を5月、7月、9月、10月、1月に開催する。9月の研究会は研究合宿にする予定である。また、10月の会議は、外国から講師を招き国際セミナーにする。ハサン・バンナーの著作集の原典講読会を合宿形式で行う。なお、研究会開催に当たっては、適宜、京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)ユニット3と連携する。その成果は「原典翻訳書シリーズ」としての刊行を計画している。またアルジェリアにおけるイスラームとナショナリズムに関するアラビア語史料の読書会を開催する。
 3.カイロ国際会議への参加
 2009年12月カイロで開催される国際会議において「サラフィズムとナショナリズム」というテーマでセッションを組む。
 4.海外調査
 パキスタン、インドネシア、シリアにおいて、イスラーム主義運動の調査を実施する。調査は資料調査とインタビュー調査の両面から実施する。
 5.研究者招聘
 イギリスよりJames McDoughall教授を招聘し、サラフィズムとナショナリズムというテーマでワークショップを開催する。
 6.その他
 ワーキングペーパー・シリーズ第5号として『現代エジプトにおけるイスラームとコプト関係基礎資料集』(翻訳と注)を刊行する。

<研究グループ2>
Ⅰ 今年度の目標
 昨年度に引き続き、(1)キターブの収集・目録作成・研究、(2)ジャウィ資料を含む現地語資料にもとづく政治思想、政治運動の研究、(3)東南アジア・イスラーム研究の再検討とジャウィ文書研究の位置づけ、を3つの柱として精力的に研究活動を展開する。
Ⅱ 活動内容
 新宿・朝日カルチャーセンターとの共同事業として社会文化講座「イスラームの民衆運動」に参加し、分担者・協力者等が4回の講座を担当する
 1.研究会活動
 東南アジアのイスラーム研究の成果と課題に関する研究会を開催し、ジャウィ文書研究の意義と課題を再確認する。東洋文庫拠点と連携して、東南アジアのキターブ目録に関する研究会を開催する。
 2.カイロ国際会議への参加
 2009年12月にカイロで開催される国際会議において、東南アジアと中東のつながりに関するテーマでポスターセッションに参加する。
 3.海外調査
 インドネシア、マレーシアでキターブの収集とキターブの出版・流通に関する調査を行なう。海外研究協力者(オマン・ファトラフマン氏)をカイロに派遣し、カイロで発行されている東南アジアのウラマーが執筆したキターブを収集する。マレーシアでも、現地在住の研究協力者を通じて、イスラーム文献を収集する。
 4.研究者招聘
 東南アジア・イスラームの専門家を招聘し、東南アジアのキターブに関するワークショップを開催する。
 5.成果公開
 一昨年度開催した国際シンポジウム「バンサとウンマ:東南アジア・イスラーム地域における人間集団分類概念の比較研究」の成果にもとづく英文学術研究書の編集・刊行を進める。
 英文キターブ目録〔部分〕草稿を作成し、関係者に配布する。
 6.その他
 昨年度に引き続き、東洋文庫拠点との連携プロジェクトとして、これまでに収集したキターブの目録作成を行なう。この活動には、昨年度に引き続き、オマン・ファトラフマン氏、エルファン・ヌルタワブ氏に引き続き協力してもらう。

<研究グループ3>
Ⅰ 今年度の目標
 一昨年度から継続してきた研究会およびワークショップの成果を生かし、KIASユニット4との連携をさらに深めつつ、スーフィズム・聖者信仰・タリーカ・サイイド/シャリーフについての共同研究を推進する。また、2008年度にカイロに上智大学が設置した上智大学カイロ研究センターについて、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻の教育活動と連携しつつ、活用を図る。
 今年度はとくに次の3点に研究努力を傾注する。
 1.国内外の研究者と積極的に連絡を取り、より広範で機能的な研究ネットワークの再構築を実践し、そのなかで共同研究主題のさらなる明確化を図る。
 2.これまでの研究成果を整理し、各種の媒体(IAS英文叢書、SIAS Working Paper Series、ウェブサイト、メールマガジンなど)によって発信する。
 3.修士論文や博士論文などで、本グループの研究に関わる主題を扱った大学院学生、若手研究者をグループの活動に参加せしめ、積極的に国際会議に参加せしめるなどして、共同研究の裾野を広げる。
Ⅱ 活動内容
 1.研究会活動
 京都大学イスラーム地域研究センター・ユニット4(KIAS4)との共催で、6月と2010年2月に研究会を、7月に研究合宿(上智軽井沢セミナーハウス利用)を開催する。
 文部科学省「人文学及び社会科学における共同研究拠点の整備の推進事業」によって採択された上智拠点公募研究「イスラーム社会の世俗化と世俗主義」と協力して、現代の民衆イスラームの様態に関する研究会を5月と10月に開催する。
 2.海外調査
 KIAS4との共催で、8月にイランにおいてスーフィズム・聖者信仰複合を主題とする共同調査(期間2週間程度、参加者SIASから3名、KIASから2名)を実施する。
 3.研究者招聘
 11月にフランス国立科学研究機構(CNRS)よりラシーダ・シフ博士(ロンドン在住)を招聘し、現代エジプトのタリーカに関するセミナーを開催する。【予算(概算)では、テルアビブとロンドンから各1名となっています】
 4.国際会議
 9月に研究分担者である森本一夫が中心となって組織するSayyid/Sharif国際研究集会について、東京大学東洋文化研究所、京都大学KIAS 4、早稲田大学中心拠点グループ1、上智大学アジア文化研究所と協力しつつ、主催母体の一つとしての役割を積極的に果たす。具体的には、テルアビブ大学より発表者の一人であるマイケル・ウィンター博士を招聘するほか、研究集会のポスター作製などを行う。
 12月にイスラーム地域研究全体としてカイロで開催予定の会議に、若手研究協力者の積極的な参加を呼びかけるとともに、グループ1が中心となって拠点が開催する部会「サラフィズムとナショナリズム」に参加する。
 2010年6月にバルセロナで開催予定の第3回中東研究世界大会で、KIAS4との共催により部会を組織すべく、構成や発表内容などの詳細を決定し、事前のワークショップを、通常の研究会活動とは別に開催する。
 5.成果公開
 グループ3の研究成果はSIAS Working Paper Seriesで発表するほか、IAS英文研究叢書シリーズにおいてスーフィズムと聖者に関する論集を刊行する。
 朝日カルチャーセンターとの共同事業として拠点が開催する社会文化講座「イスラームの民衆運動」において、民衆イスラームを主題として4回の講演を担当する。
 6.その他
 2007~2008年度に構築を行ったメーリングリストとウェブサイトの本格的運用を開始し、また英語版を作成する。英文メールマガジンを発行し、海外の研究者との連携を図る。

<研究成果の公開>
 研究グループ個々がその活動の成果として発表する論文、論集等の他に、拠点全体としては新宿・朝日カルチャーセンターとの共同事業として社会文化講座「イスラームの民衆運動」を開催する(合計12回)。『上智アジア学』(年刊、上智大学アジア文化研究所発行)の編集担当に私市、川島、赤堀があたる年度について、イスラーム地域研究を主題とする特集を組む。今年度は川島が担当。加えて、研究所の刊行するモノグラフ・シリーズの一環としてイスラーム地域研究関連をサブシリーズとして継続的に刊行する。なお2008年度は、「イマーム・シャーフィイーの「聖者」イメージの形成と変容」茂木明石(3グループ協力者)を刊行した。
 さらに、新イスラーム地域研究叢書、New Horizons in Islamic StudiesからSufi Saints and Non-Sufi Saints: Sacredness, Symbolism and Solidarityを、赤堀雅幸・東長靖(編)で刊行する。東南アジア・イスラーム研究ハンドブック(仮称)1冊(川島担当)を刊行することによって、全体としては日英語での専門的な論集と教育効果の高い著作のバランスの取れた成果公開を実施する。
 イスラーム地域研究全体のウェブサイトを充実させる。その際、アジア文化研究所、アジア文化副専攻(外国語学部アジア文化研究室)、大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻のウェブサイトを横断的につないで、本拠点のウェブサイトを構築する。