研究計画(2010年度)

<拠点全体としての取り組み>
 本年度、上智大学拠点では第一期5年間の最終年度として、研究成果の整理・公開を主眼としつつ、以下の研究課題に取り組む。
 1.拠点3グループは、その研究成果を、SIAS Working Paper Seriesとして刊行し、また英文学術研究書の刊行準備を進める。
 2.7月にバルセロナで開催予定の第3回中東研究世界大会にグループ1とグループ3がそれぞれ部会を組む。これは、拠点全体の研究成果の発表、およびイスラーム地域研究活動の国際的ネットワークづくりを意図したものである。その準備のための研究会を随時開催する。なおグループ3の部会にはグループ2の研究分担者も発表者として参加する。
 3.12月の京都国際会議に、拠点3グループがそれぞれ部会を組む。京都国際会議では、5年間の研究活動の総括を行うと同時に、「イスラーム地域研究」第二期を見据えながら、今後の研究のさらなる拡大・発展の方向性についても議論する。 
 4.エジプトのカイロに開設(2008年11月1日)した上智大学カイロ研究センターとの連携を継続し、上智大学拠点の国際的な活動の拡大を目指す。

<研究グループ1>
Ⅰ 今年度の目標
 本年は、これまでの研究成果を踏まえたうえで、イスラーム主義、民衆運動、社会運動の関係性についての研究を推進し、その総括を行う。そのために、「イスラーム運動の現状と展望」というテーマのもとに、国内外の研究者を交えての研究会、および京都国際会議の準備を兼ねた同じテーマの国際ワークショップを開催する。ハサン・バンナー著作集の読書会は翻訳を完了し、出版準備に取り掛かる。また、エジプトから研究者を招聘して若手研究者や大学院生向けのアラビア語によるイスラーム・セミナーを開催する。
Ⅱ 活動内容
 1.研究会活動
 研究会を5月、9月、10月、1月に開催する。9月の研究会は研究合宿にする予定である。また、10月の研究会は、京都国際会議の準備を兼ねた国際ワークショップにする。ハサン・バンナーの著作集の原典講読会を合宿形式で行う。なお、研究会開催に当たっては、適宜、京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)ユニット3と連携する。その成果は「イスラーム原典叢書」シリーズとして本年度中にその刊行準備に取り掛かる。またエジプト人研究者を招聘してセミナーを開催する。
 2.第3回中東研究世界大会への参加
 2010年7月にバルセロナで開催される国際会議において「Muslim West in its Unity and Variety」というテーマで部会を組む。
 3.京都国際会議への参加
 2010年12月にイスラーム地域研究全体として京都で開催される国際会議において「イスラーム運動の現状と課題」というテーマで部会を組む。
 4.海外調査
 アルジェリアにおいて、イスラーム主義運動の調査を実施する。また研究分担者であるZoubir AROUS 教授(アルジェ大学)と京都国際会議の打ち合わせを行う。
 5.研究者招聘
 エジプトよりMuhammad Sabri教授を招聘し、アラビア語によるイスラーム・セミナーを開催する。
 6.その他
 ワーキングペーパー・シリーズ第7号として『アブドゥルカリームの反乱に関する基礎資料集』を刊行する。

<研究グループ2>
Ⅰ 今年度の目標
 昨年度までに収集したキターブの整理・目録作成作業を継続するともに、ジャウィ資料を含む現地語資料にもとづく政治思想、政治運動の研究、東南アジア・イスラーム研究の再検討とジャウィ文書研究の位置づけを中心として、精力的に研究活動を展開する。
Ⅱ 活動内容
 1.研究会活動
 6月に東洋文庫拠点と連携して、東南アジアのキターブ目録に関する研究会を開催する。12月の京都国際会議に前後して、東南アジアのイスラーム・ワークショップを開催する。
 2.京都国際会議への参加
 12月に京都で開催される国際会議に参加し、東洋文庫拠点と連携して「東南アジアのキターブの比較研究に向けて」と題するセッションを開催する。
 3.海外調査
 インドネシア、マレーシアにおいてキターブおよびその他のイスラーム文献、および、それらの出版状況や使用状況に関する調査を行なう。
 4.研究者招聘
 海外研究協力者(オマン・ファトラフマン氏、エルファン・ヌルタワブ氏)を招聘し、キターブ目録に関する研究会を行なうと共に、目録刊行に向けての打ち合わせを行なう。
 5.成果公開
 (1)これまでに収集したキターブの内、第一次収集分約1600点を対象とし、A Preliminary Catalogue of the Southeast Asian Kitab Collection of Sophia Universityと題する目録を編纂し、ワーキング・ペーパーとして刊行する(12月刊行予定)。
 (2)2007年度に開催した国際シンポジウム「バンサとウンマ:東南アジア・イスラーム地域における人間集団分類概念の比較研究」の成果にもとづき、Bangsa and Umma: Development of People-Grouping Concepts in Islamized Southeast Asiaと題する英文学術書を京都大学出版会より発行する(山本博之、アンソニー・ミルナー、川島緑、新井和広編、2011年2月刊行予定)。
 (3)ジャウィ文書研究会、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究「マレー世界の地方文化」の活動成果にもとづき「ジャウィ定期刊行物巻頭言」(仮題)を刊行する(新井和広編)。
 (4)京都国際会議のセッション「東南アジアのキターブの比較研究に向けて」、および、その前後に開催する東南アジアのイスラームに関するワークショップにもとづくワーキング・ペーパーを刊行する。

<研究グループ3>
Ⅰ 今年度の目標
 これまでの研究会およびワークショップの成果を生かし、KIASユニット4との連携をさらに深めつつ、スーフィズム・聖者信仰・タリーカ・サイイド/シャリーフについての共同研究を推進し、この5年間の成果をとりまとめて区切りをつける。
 今年度はとくに次の3点に研究努力を傾注する。
 1.複数の国際会議でこの5年間の研究成果を発表する。
 2.研究成果を整理し、各種の媒体によって発信する。
 3.本グループの研究に協力者として参加している大学院学生等の研究を支援する。
Ⅱ 活動内容
 1.研究会活動
 京都大学イスラーム地域研究センター・ユニット4(KIAS4)との共催で、3回の研究会(5月、11月、2011年1月)、1回の研究合宿(6月)を開催する。研究会のうち1回は、第3回中東研究世界大会での部会発表の準備に充てる。また若手中心の国際ワークショップを2回(6月、2011年2月)開催する。
 2.研究者招聘
 7月にバルセロナで開催予定の第3回中東研究世界大会で3名、12月にイスラーム地域研究全体として京都で開催予定の国際会議に2名を招聘する。招聘には一部外部資金も活用する。
 3.国際会議
 7月にバルセロナで開催予定の第3回中東研究世界大会で、2部会を構成し、Sufis and Saints Facing the Government and the Publicと題して発表を行う。
 12月にイスラーム地域研究全体として京都で開催予定の会議に1部会を構成し、Emerging Approaches to the Phenomena around Sufism and Saint Venerationと題して発表を行う。
 6月に京都、2011年2月に東京で若手中心の発表者により国際ワークショップを開催し、専門家を招いてコメントを仰ぎ、また議論する。
 4.成果公開
 グループ3の研究成果はSIAS Working Paper Seriesで発表するほか、IAS英文研究叢書シリーズにおいてスーフィズムと聖者に関する論集の刊行準備を完了する。
 5.その他
 2007~2008年度に構築を行ったメーリングリストとウェブサイトを運用する。

<研究成果の公開>
 研究グループ個々がその活動の成果として発表する論文、論集等の他に、各グループはその研究成果を適宜SIAS Working Paper Seriesに発表する。『上智アジア学』(年刊、上智大学アジア文化研究所発行)の編集担当に私市、川島、赤堀があたる年度について、イスラーム地域研究を主題とする特集を組む。またイスラーム地域研究の「イスラームを知る」シリーズ叢書(山川出版社)で、グループ1から『原理主義の終焉か―ポスト・イスラーム主義論』(私市正年)、グループ2から『マイノリティと国民国家―フィリピンのムスリム』(川島緑)を刊行する。
 さらに、グループ3ではIAS英文研究叢書シリーズとしてSufi Saints and Non-Sufi Saints: Sacredness, Symbolism and Solidarity(赤堀雅幸・東長靖(編))の刊行準備を行う。グループ2では2007年度に開催した国際シンポジウム「バンサとウンマ:東南アジア・イスラーム地域における人間集団分類概念の比較研究」の成果にもとづき、Bangsa and Umma: Development of People-Grouping Concepts in Islamized Southeast Asiaと題する英文学術書を京都大学出版会より発行する。
 イスラーム地域研究全体のウェブサイトの拡充作業を引き続き行う。各グループはその研究成果をウェブサイト上にも公開し、国内外の研究者の利用に供することで、イスラーム地域研究推進拠点としての利便性の向上を図る。