サラエボでの生活Life in Sarajevo

人や街並み

サラエボと聞くと、真っ先に負のイメージが浮かぶのではないだろうか。そして事実、その痕跡は街に散見される。だが、そこに暮らす人々や国を取り囲んでいる自然は全く違う様相を示している。サラエボはバルカン半島という土地柄から、様々なものが混ざりあった景色が広がっている。街の中心地を歩けば、日本でもよく見るようなモダンな商業施設があるが、マンションや公共施設の壁には内戦時代の銃弾の跡と思しき凹凸が多く残っている。ふと山の斜面に目をやると、赤い瓦屋根の、いわゆる「ヨーロッパっぽい」民家が立ち並んでいる。旧市街に足を向ければ、石畳と、石造りの建物が目前に広がる。一口に旧市街といっても、街中にはオスマントルコ帝国時代の建物とオーストリアハンガリー帝国時代の建物があり、街を歩くだけで歴史の流れを感じることができる。ちなみに、第一次世界大戦の火種となった、「サラエボ事件」でご存じであろうあの橋も旧市街に行けば見ることができる。そんな旧市街には、キリスト教の教会、イスラームのモスク、ユダヤ教のシナゴーグが、100m四方くらいの空間に詰め込まれている。長い歴史の中で育まれた様々な信仰が入り混じっていることがわかる。このような景色には、サラエボの人々の文化観が表れているのではないだろうか。サラエボでできた知り合いたちとパブで食事をすると、ビールを飲む人もいれば、宗教上の理由からアルコールを取らない人もいる。そんな人はコーヒーを飲みながら、みんなで談笑する。それが当然となっているのがサラエボであり、訪れた人にはとても不思議で、かつ素敵に映るに違いない。お互いの文化や宗教、価値観を理解しつつも、深くは立ち入らずに尊重し合うという文化観が垣間見える。この他者に対する姿勢は、多様性が叫ばれる世の中で我々が学ぶべき態度なのではないだろうか。サラエボの街や人はそんなことを思わせてくれる。

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