モントリオールで「多様性」を感じる

中村 健

1.はじめに
 私は交換留学制度を利用して、2022年8月から約9ヶ月間、カナダのモントリオール大学に留学していました。フランス語学科生が選ぶ留学先として、フランスやベルギー、スイスなどのヨーロッパの国々が主に挙げられます。しかし、モントリオールもパリに次いで世界第二位の規模を持つフランス語圏の都市と言われており、留学先として非常に魅力的な街であると私は思います。というのも、モントリオールでは、フランス語の他に英語を中心とする多様な言語が話されており、私は交換留学を通して、その「多様性」を体感することができたからです。ここでは、モントリオールの特徴の一つである「言語や文化の多様性」に焦点を当てて、その魅力を伝えていきます。

モントリオール・ノートルダム大聖堂の内装

モントリオール・ノートルダム大聖堂の内装

2.言語の多様性:バイリンガル社会と「Québécois」の存在
 ケベック州にあるモントリオールは、フランス系の移民が多かった名残でフランス語と英語の2ヶ国語を話すバイリンガルが多く住むカナダ第二の都市です。そのため、街ではフランス語と英語の両方が飛び交っており、至るところで二言語の共存が見られます。例えば飲食店に入ると、最初に「Bonjour! Hi!」と店員さんに挨拶されます。それに対するこちらの返答が「Bonjour!」であればフランス語で、「Hi!」であれば英語で接客されます。また、現地の人々の会話がフランス語から英語、逆に英語からフランス語に切り替わるなど、日常的な会話からも、モントリオールではバイリンガル社会が成立していることがよく分かります。
また、モントリオールで話されているフランス語は「Québécois」と呼ばれ、標準フランス語とは語彙的、表現的、また音声的にも大きく異なります。ここでは、私が現地で学んだ「Québécois」の実例を一部紹介します。

(語彙的な違い) 会計の際、標準フランス語では「L’addition, s’il vous plaît.」と言うところを、「Québécois」では「La facture, s’il vous plaît.」と言います。また別会計をお願いする際は、「Séparé」という形容詞の代わりに、英語の「Split」から来たと言われる「Splité」を使うこともあるそうです。

(表現的な違い) 例えば、とても寒いことを表現したい場合には、「Il fait très froid」よりも「Il fait frette」を主に用います。

(音声的な違い)「Même」を「マイム」、「Fatigué, Fatigant」を「Fatiké, Fatikant」のように発音するなど、標準フランス語と発音の仕方が違うものが多く存在します。

3.苦労と不安、そして魅力
 このように、私たちが大学で学んでいる標準フランス語とは大きく異なる点が存在するため、現地の人々が話していることを理解するには沢山の時間と労力を要しました。また、あまりの違いに、まるで全く新しい言語を学んでいるような感覚になり、「最終的に理解できるようになるのだろうか」と、不安になることもありました。しかし、大学の授業を受けるだけではなく、積極的に現地の人々と言語交換を行うことで徐々に「Québécois」に対する苦手意識を克服していくのと同時に、その面白さに魅力を感じるようになっていきました。いつかスイスやベルギーなどの他の地域で使われているフランス語についても深く学んでみたいと考えています。

4.文化の多様性:コミュニティでの想い出
 留学生活を経験して分かったことなのですが、モントリオールではフランス語と英語だけが使われているわけではありません。実は、スペイン語やイタリア語などを中心とする他の言語もコミュニケーションツールとして広く使われています。私自身、大学生活や言語交換などを通して知り合った移民の方々が主催する様々なコミュニティ(文化交流会、パーティーなど)に参加してきましたが、そこではスペイン語やペルシア語、イタリア語などが主に使われていました。これらのコミュニティに参加することは、自身の知らない言語や文化を知る大きなきっかけとなりました。
特に、イランの「遠慮を美徳としない」文化は、日本とは対照的で非常に印象的でした。私は、出された食事に手をつける際も、席に着く際も、他の人の様子を伺ってから行動することがマナーであると考えていました。しかし、度々その行動を指摘されることがあり、それがイラン出身の人々にとっては逆に失礼にあたる行為であると知った時は、衝撃を受けました。私はこの経験から、自分が当然だと考える価値観がそのまま世界で通用するとは限らないのだと実感できました。そして、異文化など様々な多様性について十分理解した上で、客観性を持ち、自分と相手の違いを意識し、尊重する姿勢の大切さを改めて強く感じました。
コミュニティへの参加でいろいろな国の料理を楽しむことができたことも、私にとって一生の想い出となりました。

イラン出身の友人が振る舞ってくれた料理

5.おわりに
以上で、モントリオールにおける独自の多言語・多文化社会の広がりについて私が経験したことを述べました。約9ヶ月間の短期間の海外留学でしたが、このようなユニークな社会の中で独特な言語の特徴や異文化を知ったことは私にとって大きな学びとなりました。また、大西洋を渡ってフランスからやってきた移民に加え、20世紀後半には様々な理由でやってきた多様な民族が集結しているモントリオールは、フランス語という単一の言語を学ぶだけでなく、異文化コミュニケーションに必要な言語や文化の多様性を理解する上でも価値ある留学先であったと感じています。ぜひ皆さんも、モントリオールに足を運んでみてはいかがでしょうか。

モントリオールの名所「Mont Royal」から撮った街の夜景