南仏エクサンプロヴァンスで過ごした日々―フランス社会の断面を垣間見る―

福田 真愛

出典:Wikipedia

私は上智の交換留学制度を利用して、2022年8月から約9か月間、南フランスのAix-en-Provenceにあるエクス・マルセイユ大学に留学していました。

今回は、南仏の小さな都市「エクサンプロヴァンス」での経験をお伝えしたいと思います。

 

〇エクサンプロヴァンスでの日常生活

エクスの中心にある、ミラボー通り。南仏の青く澄んだ空がとても綺麗です。

〇日々「発見」に溢れる学校生活
エクスマルセイユ大学では留学生向けの授業が複数開講され、私もそのうちのいくつかを受講していました。ただ、フランス語を学習する語学授業は各学期で一つしか履修できず、授業時間も週二回×一時間半だったため、少々物足りなかったように感じます。二学期を通して、Français niveau B1とFrançais niveau B2というフランス語の授業をレベル順に履修しました。
基本的に留学生に対する履修制限は設けられていなかったので、語学授業以外は自由に授業を組み合わせることが可能です。ゼミの専攻テーマに沿った講義の履修、地域言語に関心があればプロヴァンス語の授業を履修するなど、選択肢が豊富でした。
また学内には日本語学科もあるため、日本の社会・歴史に関する授業を受けたり、時にはボランティアとして授業に参加したりと、学生との交流を深めることができました。一つ例を挙げると、修士一年生向けの日本語オーラルの授業で、先生のサポートを行いました。毎回の授業で日本人学生が興味のあるテーマを設定、簡単な内容説明をし、それについてフランス人学生は日本語で、日本人学生はフランス語でお互いに議論をしました (テーマ例:『専業主婦に対するイメージ (ネガティヴかポジティヴか)』)。文法や表現で間違えている部分を修正し合うだけではなく、物事に対する視点の違いを知り、学びを深めることができたと思います。
特に興味深かった授業は、フランス現代社会を多角的な視点から学ぶCivilisation française B2-C1という授業です。宗教・ライシテから映画、スポーツに至るまで多くのテーマを扱いましたが、授業での学びが日常生活の出来事と繋がったときは、非常に興味深かったです。
一番印象に残っているのは、年金改革に対するストライキが起こっていた最中の授業でした。授業時間には、プラカードを持った生徒が「年金改革に関して議論をしないか」と勧誘をしに来る場面があり、また学内の至る所で、政府の決定に反対の意を示す横断幕や貼り紙が見られました。この経験を通して、フランスの社会運動の本質が垣間見えたように感じます。
またこの授業では、評価項目の一つとしてネット記事の分析・プレゼンを行いました。プレゼン後には、発表者がそのテーマに関連する質問を用意し、生徒同士で議論をします。「社会運動」をテーマにした回では、各国におけるストライキの有無を話し合いました。国ごとの違いもそうですが、日本ではなぜストをしないのか、どのような歴史背景があるのかなど、自国の社会・文化を客観的に見つめ直す機会になったと思います。

年金改革へのストライキ中には、学内でこのような横断幕や看板がたくさんありました。

〇日本文化を通した交流
 留学に来て初めて知ったことなのですが、フランスは日本に次いで2番目に漫画を読む国と言われています。私自身も、学食やバスの中で熱心に漫画を読むフランス人を多く目にしました。このような文化の浸透は、日常生活だけではなく、フランスで開催される日本文化イベントの多さにも見て取れます。主にマルセイユで行われるお祭りや展示会には多くのフランス人が来場し、私も二つのイベントにボランティアとして参加しました。その中の一つ「Japan expo Sud」では、マルセイユ領事館主催のブースで日本語による会話を担当しました。小さい子から大人まで多くの方と日本語で会話をするなかで、漫画やアニメに限らず、様々な切り口から日本語・日本文化に興味を持っていただけたことが非常に嬉しかったです。
それと同時に、自らの見識の浅さを思い知らされる出来事もありました。会話ブースに足を運んでくれた、日本語と韓国語を学ぶムスリムの女子高生との出会いです。イベントを通して親交を深め、何度か自宅にお邪魔させていただく機会があり、ムスリムの食生活から礼拝に至るまで、彼女から多くのことを学びました。それまで上辺の知識だけでフランス社会を見ていた私にとって、宗教に対する知識を持つこと、そこから相手の立場を理解することがどれだけ重要かを実感させられました。
また、彼女の家族はアルジェリアにルーツがあり、フランスで仕事を得る上での苦労について、彼女の母が「国籍はフランス人なのに、アルジェリア系という理由だけで面接で落とされてしまう」という経験を何度もしてきたと語っていました。「仕事」というたった一つの切り口で見ても、フランスに暮らすムスリムや移民の方々が、どれだけ社会での生きづらさを感じているか痛感する出来事でした。留学を通して、このような複雑な現状を知り、問題意識を持って対話ができたことは、非常に貴重な経験だったと感じています。

友人の家族が振舞ってくれた、アルジェリアの伝統料理「クスクス」

〇終わりに
 約9か月半にわたるエクスでの留学生活は本当にあっという間でしたが、毎日沢山の刺激を受け、濃密な時間を過ごすことができました。なかでも、日本語学科で学ぶ学生との交流は一生忘れることのできない経験です。フランスで生まれ育った学生だけではなく、モロッコなど北アフリカから留学をし、日本語を勉強する生徒もいました。このような、様々な言語や文化が入り混じった環境でフランス語を学び、またお互いに励まし合って日々の生活を送れたことは、今までの学生生活の中でも忘れがたい貴重な経験となりました。留学を通して得た新たな価値観や考え方を大切に、そしてずっと支えてくれた方々、フランスでの沢山の出会いに感謝したいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。