移動祝祭日であるパリでの留学生活

齋藤実桜

私は上智の交換留学制度を利用して、2022年9月から1年間、パリの6区に位置するパリ・カトリック学院に留学しています。

私がパリを留学先に決めた理由は、何世紀にも渡って人々を魅了するパリの魅力はどこにあるのかを自分の目で確認したいと思ったからです。パリが人々を魅了してきたという証拠は様々な場面で垣間見ることができます。例えば、本ブログのタイトルの中で用いた『移動祝祭日』という言葉は小説家であるヘミングウェイがパリで暮らした日々を回想して書いた本のタイトルです。ヘミングウェイは『もし幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、その後の人生をどこですごそうとも、パリはついてくる。パリは移動祝祭日だからだ。』と語っています。他にも、本屋さんでファッション雑誌やグルメ雑誌でパリが特集されているのを見かけることは多々あります。そんなパリでの留学生活が具体的にどのようなものなのか、お話ししていきたいと思います。

留学前の準備

留学にあたっての困難は留学前から始まりました。まず、パリ・カトリック学院からの合格通知が送られてくるのが遅く、ビザの申請がギリギリになってしまいました。合格通知の送信を急かすことはできないので、合格通知が届いたらすぐにビザを申請できるよう、全ての書類を早めに用意する必要がありました。また、パリは住居を決めることがとても大変です。街が小さいことに加え、留学生も多いため、大学近くの物件はすぐに入居されてしまいます。自分の条件が叶う物件を見つけるのにはかなり苦労しました。なるべく早い段階からLodgisやジモモ、OVNIといったサイトを活用しながら物件を探すことをおすすめします。

学校生活

パリ・カトリック学院は、決してインターナショナルな環境ではありません。留学生も多くなく、留学生のほとんどがERASMUSという留学制度を利用した欧州からの留学生です。アジアからの留学生は私を含めた上智からの留学生が4人と、東洋大学からの留学生1人だけです。留学生同士は初日のオリエンテーションを通して仲良くなりやすいですが、正規生は学年全員がほぼ同じ授業をとっているということもあり、自分で積極的に話しかけない限り友達になるのはかなり難しいです。しかし、こちらが話しかけると丁寧に話を聞いてくれたり、ノートを見せてくれたりと優しい人ばかりです。また、Tandemという留学生と正規生をマッチングしてくれるサービスがあるので、このサービスを活用すると友達を作りやすいと思います。そして、留学生同士での会話は英語になることが多いので、フランス語を伸ばすだけではなく、英語を伸ばす機会にも恵まれます。

 授業は、正規生と全く同じ授業を受けています。そのため、時には資料などは配られず、2時間丸続けで教授が話すだけの授業についていく必要があり、とても大変でした。隣の席になった生徒にノートを見せてもらうなど周りの人に助けてもらうことでなんとか授業についていくことができました。テストについても、留学生であることを考慮してくれるかは教授によって異なりました。

私は文学部美術史学科所属なので、1学期目はゴシックアートやギリシア史、イギリス美術についての授業を受講しました。2学期目の現在は、日本と韓国の古代美術と現代美術にフォーカスした授業、ルネサンス時代についての授業、18世紀・19世紀の美術についての授業、インドの歴史と美術についての授業を受けています。特に日本と韓国の美術についての授業は、周りのヨーロッパ人学生の日本に対する印象を間近で知ることができるのでとても興味深いです。この授業を通して、日本に関心のある上智大学に留学したいという学生と出会うこともできました。そして、留学生に対してのみ、土曜日に大学付属の語学学校開講のフランス語の授業が無料で受けられるので、1学期目は毎週土曜日にフランス語の授業を受けていました。加えて、授業によってはすべて英語で行なわれるものもあるため、初めから全部フランス語は厳しいと思う場合には、いくつか英語の授業を選択することもできます。私は、初めの学期では5つの授業を履修しましたが、そのうちの2つの授業を英語で履修しました。

日常生活

パリは「花の都」と呼ばれるイメージとは対照的な部分を併せ持っている街です。物価が高い、人が冷たい、街にゴミが多く汚い、臭いということはパリの持つネガティブな部分としてよく挙げられています。完全に否定はできませんが、他方でパリは良いところや魅力をたくさんもつ都市であり、留学先をパリにしてよかったと実感しています。

例えば、経済面では学生には優しい一面もあります。その例の一つとして、Imagine Rがあります。Imagine Rとは1年間有効の学生定期で、期間中は公共交通機関が乗り放題になります。二つ目に、フランスのビザを取得したことでEU市民権も同時に得られるので、大半の美術館や教会、宮殿に無料で入ることができます。そのため、パリで退屈するということはほとんどないと思います。私もなるべく多くの美術館に足を運べるよう、時間がある日はよく美術館に足を運んでいます。また、美術史学科に所属していることで、授業で習った作品をすぐに美術館に観に行くことができたり、同じ学科に所属している友人と美術館に足を運ぶと、美術について説明をしてくれたりするため、美術に対してより理解を深めることができ、美術館に行くのがとても楽しいです。さらに、美術史においてフランスと日本は関わりが深く、美術館に行くと、日本文化を取り入れた作品を見かけることがあります。そのような時は、一緒に行った友人に日本のことを質問されるため、私自身も友人に日本についての説明をすることもあります。パリで暮らす人々の日本に対する関心は美術面だけでなく、食という面においても非常に高いです。オペラ座近隣には日本食レストランが立ち並び、日本食品を売っているスーパーもあります。また、NATURALIAなどのオーガニックショップには豆腐や醤油、葛湯などが売っています。そのため、パリでは手に日本食を買うことができます。

パリのMusée du quai Branly – Jacques Chirac で開催されたKIMONO展覧会に

友人と訪れた際の写真。

パリが退屈しない理由はもう1つあります。それは、パリ市内の地区ごとに雰囲気が異なる点です。パリはセーヌ川を境界線に左岸と右岸に分かれており、左岸は大学が多く、高級住宅地もあるため、落ち着いた雰囲気があります。右岸にはルーブル美術館やチュイルリー公園、凱旋門など誰もが想像するパリを象徴する建物が位置しながらも、右岸の北部は移民層が多く多様な人種が共存している場所となっています。北部は治安が悪いとも言われていますが、昼間に訪れるとパリの中心地とは異なる文化を体感でき、時折足を運ぶと刺激的でとても楽しいです。

パリ郊外Saint-Denisの屋内マルシェの様子

・終わりに

留学の後半戦がスタートしました。パリに来てから現在までは、様々な手続きに追われたり、学校の勉強をしたり、美術館に足を運んだりと目まぐるしい日々を過ごしていたことで、時間が経つのがあっという間でした。パリは日本からの直行便もあり、留学をしなくても日本から訪れやすい場所です。しかし、パリに住むことでしか見えない景色はたくさんあり、自分がいつパリを訪れるかによっても見える景色が違ってくる場所でもあります。20代の今という時をパリで過ごしたからこそみえた景色が、留学を終え、次に私がパリを訪れる際にはどう見えるのかが今から楽しみでもあります。

留学生活は残り3ヶ月半というところまで来てしまいましたが、残りの時間を大切に、より多くのことを吸収していけたらと思います。最後まで読んでくださって、ありがとうございました。