Cameroun   1.カメルーン(都市)

小山 祐実
首都ヤウンデの風景。 文末に写真集を掲載しますので、そちらもご覧ください。

首都ヤウンデの風景。
文末に写真集を掲載します。そちらもご覧ください。

 周りを見るとアフリカ系の客でいっぱいだ。聞きなれない言葉が飛び交い、リズムを奏でるような、にぎやかな話しぶりが心地よく耳に飛び込んで抜けていく。音に揺られるままうとうと舟をこいでいると、彼、彼女らは体格がいいからか、その性格ゆえか、私が座席に確保していたはずのテリトリーを侵されていることがしばしばある。少しだけ微笑ましい。

 2018年8月5日、カメルーン行きの飛行機に乗った。経由地は韓国、エチオピア、ガボンの 三つで丸々24時間の旅程だ。今回私がカメルーンに行くことになったのは、本校のプログラムやボランティアのためではない。アフリカゼミの先生が他大学の アフリカ研究所に所属しており、そのプロジェクトに同行させてもらえることになったのだ。アフリカに行きたくてたまらなかった私にとって、観光でも研修でもない森でのサバイバル経験は夢のような機会だった。

ある日のできごと、首都ヤウンデにて

 都市の一番印象は商人のマインド、人々が直接関わりあう社会。それでいてデジタルとアナログが入り混じる社会。日本ではあまり見ることのない職人達の姿に人間のエネルギーを感じた。街中では活気があふれ、喧嘩も冗談も全力だ。

  低く神聖な声に全身を包まれ、異空間へと吸い込まれそうになって、時計を見ると午前5時。毎朝恒例のイスラム教徒によるお祈りだ。首都ヤウンデにはムスリムの地区があり、車で20分以上も離れたこのホテルまで祈りの時を告げる声が聞こえてくる。最初は何事かと跳ね起きて、迷惑極まりないと思っていた。ヤウンデの朝は早い。 このお祈りが合図なのか、町中のマーケットも目を覚まし威勢のいい声が飛び交う。私は二度寝をして8時に朝食に向かうと、もうひと段落ついたかのように ゆったりとした空気が流れる。ホテルの朝食はクロワッサンやパンオショコラの形をしたブリオッシュとカフェとフルーツが置いてある。フランスの植民地であったために、ホテル、道路、携帯会社、大手チェーンは少なくとも外見は見事にフランスの影響を受けている。多くの人がフランス語を話し、フランスの番組を 見て、RFIラジオを聞き、フランスにあこがれ、パンもどきを食べる。改めて宗主国の存在感を思い知った。

 朝の通勤通学渋滞が始まる。ある地点から歩道に人がずらりと並び車が一台ずつ止まっては行くのを繰り返している。私は勝手に「タク競り」と呼んでいるのだが、お客は相乗りタクシーに乗るため値段と行き先を口々に言い合い、タクシーの取り合いをする。運転手の希望に合致すれば口笛を吹くかジェスチャーで乗れと言われる。もし私がそうしてタクシーに乗ろうとしたら日が暮れそうだ。タクシー運転手の耳の良さとマグロを狙う人々を見ているだけで満足だ。

 最近若者の間で流行っている遊びがあるそうで、現地の知り合いの大学生たちに教えてもらった。彼らは美術学校に通い、自分たちで作品を作り展示会に出品もしている。ベティ族出身で体も大きく顔立ちがシュッとして男前だ。一緒に話していてもフランス語なのによくわからない。それもそのはず、フラン ス語と英語と自民族のことばとさらにイタリア語(芸術の街)を混ぜた文章で話すという高度な遊びをしているからだ。私にとっては全然面白くないが、彼らの言語能力の高さはいつか重要な強みになるのかもしれない。

 「にはぁぉん!にはぁぉん!」ん?男の子たちが何か言っている。あ、日本って言いたいのね。「にはぁぉん!シノワ」ああ、你好だったのか…街中にいるとついつい反応してしまうこの掛け声。まさか日本なんて言葉は知らないだろうと思いつつ振り返りそうになる。野菜売りのおばさんと値段交渉していると「バミレケー、バミレケー」とケチ(カメルーンのバミレケ族がケチと言われている)呼ばわりされる。もちろん本気で言っているのではない。商人の掟として冗談関係が基本、怒ったほうが負けみたいなところがあるらしい。服飾や芸術品の職人たちは緩く穏やかでとにかく明るい印象があるが、裏では同業者間でいろいろな力関係があるのかもしれないと想像する。

 夜は研究者の方々と連れ立ってレストランへ。待ってました、今夜は贅沢に中華火鍋!カラフルなエクステをしたカメルーン女性が中華屋にいるのは見慣れない 光景だが、テーブルにはIHヒーターが内蔵され、タブレット注文式になっている。なんてハイテクなんだ。料理を選ぼうとすると店員さんがずっとそばについ て、普通に紙でメモを取っている。タブレットの意味あるのか…アツアツの火鍋とビールを頂く。アフリカでは禁酒生活だと思っていたのに、こんなうれしいサプライズがあるなんて。このようなハイテクなレストランをきっとアフリカ中に作ってしまう中国には驚かされる。蟻に匹敵するくらい世界中に生息しているのではないか。カメルーンでは宗主国や外国企業によるデジタルといろんな地域から集まった民族によるアナログが混在している。本当は時間をかけて全体的にデ ジタル化していくものだが、いろんな段階をスキップしている状態にある。田舎ではインフラさえ整備されていないのにほとんどの人がスマホを持ち、娯楽、仕 事、水道光熱費支払い、ネットバンキング、電子マネー決済のために使っている。一体この国はどのように変わっていくのだろう。とりあえず今は森に行くため にビールの飲み納めをしておこう。             (『2カメルーン(森)』に続く)

写真集
(首都には景観の撮影規制があり、また窃盗被害防止のために市場の様子を写真に収められなかった。)

バミレケ族を風刺したオブジェ

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大学生エリゼと(こっそり)軍事訓練施設の前にて

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美大生の作品

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服飾職人のお店

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道端でパイナップルを売る女性たち

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