"People in the Wind"

2012年11月12日(月)

 29年前、僕は現在自分の職場である上智大学外国語学部英語学科の2年生だった。ちょうど今日、11月12日は今年と同じように月曜日だった。1時限目の必修科目マーガレット・チェイス先生の「英文学」で、僕たちのグループはアメリカの劇作家ウィリアム・インジの "People in the Wind" という1幕劇をホフマンホール4階の大きな会議室で上演した。マリリン・モンローが主演した『バス停留所』という映画の基になった小品だ。
 舞台はアメリカ中西部のバス停留所。長距離バスのお客たちが長旅の途中でバスを降りてしばし休憩する小さな食堂のような所だ。バスが到着し、乗客たちが入って来る。 酒に溺れて失職したアルコール中毒の元大学教授、姪を訪ねて行く途中の年老いた姉妹、ハリウッドで映画女優になることを夢見るナイト・クラブの歌手、そして彼女に付きまとうカウ・ボーイ。そこにその食堂をを経営する中年女性とアルバイトの女の子、更にバスの運転手が加わって、劇は静かに進行する。会話や酔っ払いの戯言からそれぞれの人生がチラリ、チラリと垣間見られる、という渋い内容だ。僕は初対面の女の子に言い寄って結婚を迫る無骨なカウ・ボーイの役だった。30年近く前のことだけれど、とても懐かしい。
 日にちや曜日まで覚えているのは、特別な思いでがあるからだ。実は僕はこの劇の上演がきっかけで、同じグループにいたクラスメートの女の子と仲良くなって付き合うようになり、やがて結婚したのだ。先日、11月1日は結婚25周年だった。
 いま、僕自身も学生たちに劇を上演させる授業を行っている。まだ、いまのところ結婚したカップルは出ていない。でも、そのうちに出るのではないかと楽しみにしている。