高い国際性を持つ都市 ジュネーブでの留学生活

山田真愛

私は、交換留学制度を使って2022年9月より10か月間スイスのジュネーブ大学に留学していました。

私がジュネーブを留学先に選んだのは、①多言語社会での生活、②国連機関があり、国際都市であること、③国連機関の役割やそこで働いている人の話を聞くことの出来る授業(International Geneva)があることに、魅力に感じていたからです。

留学を振り返ると、ジュネーブはフランス語習得・言語的、文化的多様性・国際関係を学ぶという点においてぴったりな都市だったと思います。以下、ジュネーブの魅力を、自然と人と国際性という観点から、私の経験を踏まえてお話します。

写真① Jet d’EauとLac Léman

  • 街の魅力
    • 豊かな自然のある中での暮らし

 山の緑と湖の青が綺麗で、毎日同じ景色を見ているものの何回も写真を撮りたくなる程でした。ジュネーブは、レマン湖に接しており、街のシンボルの噴水であるJet d’Eauがあります。水資源の豊富さと水質管理の厳しさから、ジュネーブでは水道水を安心して飲むことが出来ます。町の至る所に給水場や噴水があり、そこで水を汲むことも出来ます。水道水はミネラルウォーターと同じくらいの美味しさです。多くの人がマイボトルを持ち歩き、水を汲んでいました。また、地下水脈を守るために、地下鉄の開発のために地下を深く掘らないという話も地元の方から聞きました。自然と隣り合ったサステナブルな生活をしているジュネーブの人々に私は感銘を受けました。

  • 人の温かさ

ジュネーブでは、日常生活の中で、地元の人の繋がりや助け合いの精神が頻繁に感じられます。ジュネーブでの移動手段は主にバスとトラムですが、その中で、年配や子連れの乗客がいると、人々はすぐに席を譲っていました。譲らない人がいたら怒られさえしてるのを見たことがあります。また、私がスーツケースを沢山持って移動していた時も、バスでドアを開けて待ってくれる人、荷物を手伝ってくれる人がいました。多くの人が他者に無関心な印象のあった東京に住んでいる私にとって、このようなジュネーブの助け合いの精神は日本に持ち帰りたい文化でした。

  • ローカルな繋がりと国際性

国際性という魅力に関して、ローカルな側面も併せて紹介します。ジュネーブに住んでいると、国際連合のある区域以外は田舎だと感じます。しかし、日本の田舎と違い、街に活気がありました。例えば、12月にはL‘Escaladeというイベントがあります。これは、1602年にジュネーブがサヴォイア公国による侵攻からの自衛に成功したという記念日です。L’Escaladeはフランス語でよじ登るという意味ですが、サヴォイア公国の兵隊が塀をよじ登り侵略しようとしたところを、塀の上からの攻撃で阻止したというエピソードがあります。この撃退を祝うために、中世の兵士の恰好をして旧市街を練り歩くパレードや子供向けのマラソン大会等様々なイベントが繰り広げられます。イベントへの参加だけではなく、運営のボランティア等を通じて、子供達や高校生から年配の方までと幅広い世代の地元の方と交流しながらイベントに関わることが出来ます。また、町全体で人権weekと称した、スイスにおける移民・貧困等に関するドキュメンタリーを映画館で上映するイベントや、6月の間、LGBTQ+の権利について啓発を促す様々なイベントが開催されるPride Monthにちなんだパレードやコンサートがありました。このように、町全体で人権やジェンダーに関するイベントを盛り上げることで、当事者だけではなく、多くの人が関心を持つ機会、関心を持つ人がより知見を広げやすい環境がありました。国際性×ローカルが組み合わさっていることがジュネーブをより魅力的な都市にしていると思われます。

写真② L‘Escaladeのパレード

 国際性という部分にフォーカスすると、ジュネーブには様々な国の出身者がいます。また、ほとんどのスイス人は、父母のどちらかがスイス以外の出身者です。言語に関しても、公用語のフランス語だけではなく、英語・スペイン語・ドイツ語が街中で聞こえてきます。(英語とフランス語が多いですが)生活している人の言語レベルは多様でした。スイス国籍の人でも、フランス語はC1(英検1級相当)だけど英語はB2(英検準一級相当)等、語学のレベルは人それぞれです。それゆえ、単一言語国家にありがちな完璧な言語能力を求めるというプレッシャーを、ジュネーブでは全く感じませんでした。また、アクセントに関しても、どの国のアクセントもその人の個性だとする寛容さがありました。そのため、言語学習者として気負うことなく発話することが出来ました。

その一方で、マルチリンガルの方も多い印象です。スイスの公用語は、フランス語・ドイツ語・イタリア語・ロマンシュ語です。ジュネーブの高校生であれば、英語とドイツ語の学習が必須となっています。そのため、スイスの高校を出ていれば基本的にフランス語・ドイツ語・英語を知っている人が多いです。友人の多くが、多言語スピーカーであったため、彼らと話す時に言語の運用の仕方を観察することに面白みを感じました。個人差はありますが、スイスの方々は、方言(ドイツ語に関しては州ごとに異なる方言がある)の知識を含め、語彙を豊富に持ち、話す言語の切り替えが巧みです。このような多言語の運用の仕方を実際に見たことは、外国人であっても努力次第で彼らのような言語運用が可能になるかもしれないと、私自身の言語学習に刺激とモチベーションを与えてくれました。

  1. 授業

さて、印象的な授業を二つ紹介します。一つ目は、le français du quotidienという語学学校開講の授業です。この授業では、日常生活で使うくだけた表現のフランス語やスイスフランス語(Suisse Romande)を学ぶことが出来ます。スイスフランス語は、日常的に使う単語が標準フランス語と異なっています。例えば、スイスではフランスと数字の数え方が異なり、70 (soixante-dix)は、septante, 80(quatre-vingt)は、huitanteと言います。また、携帯電話(téléphone portable)は、Natelです。授業では標準フランス語とスイスフランス語の両方を使うことができますが、私は、スイスフランス語を話したかったので、プレゼンで数字をスイス式で話しました。

二つ目は、宗教とグローバルガバナンスの授業です。授業では、グループを組んで45分間のプレゼンテーションをしました。私のグループは、国連人権宣言の文言の解釈と「人権」の定義の歴史的変容について分析しました。1か月前からテーマが与えられ、先生と週末にディスカッションしながらプレゼンの方向性を決めます。この授業が、最もフランス語と格闘した授業でした。グループの友人との助け合いや教授に指導を受けながら、発表を終えることが出来ました。語学の授業ではなく、通常授業でプレゼンテーションが単位取得要件にある授業を、語学学習者にはお勧めします。読む・書く・聞く・話すという四技能でフランス語をフル活用しながら、他の学生と共に、通常の講義よりも能動的に深く学ぶことが出来るからです。

3.模擬国連

模擬国連への参加は、私の留学生活のハイライトでした。2月に開催されたGIMUN(Geneva International Model United Nations)のAnnual Conferenceという模擬国連の大会に参加しました。世界各国から派遣された大学生と一緒に約1週間、ILOの会議室でディベートをしました。私は、国連安全保障理事会でフランス大使として参加しました。ディスカッションのテーマは、常任理事国に新な国を追加した場合の拒否権の扱いについてと北極圏海域の資源利用の取り決めに関してです。フランスは常任理事国ですが、比較的拒否権の拡大に寛容な立場でした。参加国が同意した上で決議案を書くために、フランスの外交政策のスタンスだからこそ打ち出せる妥協案を提案しました。それは、六番目の拒否権を持つ新常任理事国の加盟を認めるものの、その国は二年ごとのローテーションにすることで、現常任理事国五か国に権限を残せるようにするという案です。私達は、最初の国として、アフリカ大陸を代表する南アフリカを選出しました。このことにより、常任理事国五か国の影響を強く受けていた国連安全保障理事会の政策決定が、アフリカのプレゼンスの高まりにより、従来よりも多くの国の意見を反映させることが出来るようになりました。このような改革を実現させる上で、様々な利害の対立を考慮し、妥協案を重ねました。そして、最終的に、決議案を可決することが出来ました。この会議を通じて、外交とは国力ではなく人が動かすものだと気づきました。また、国益と国際益の両方を考慮して話し合いを進める国際交渉の醍醐味を味わうことが出来ました。今後も国際関係論を深く学びたいと思っています。

写真③ ILO Director-General, Gilbert Houngbo氏を囲んだ会議参加者

  • Amnesty International

私は、サークル活動として、Amnesty Internationalのdiscriminationのグループで半年間活動していました。毎週のミーティングに加え、イベント企画と運営を行いました。障害を持っている方が、町中や大学内で適切な支援と生きやすさを確保するという目的のもとで活動していました。ハンディキャップを持つ方もメンバーにおり、想像上ではない実際の意見を基に、改善策を考えることが出来たのは貴重な経験でした。イベントでは、公園にAmnestyのスタンドを広げて、町中の人にクイズを出したり、インタビューをしたりしました。何より驚いたことは、Amnestyに関りのない一般の人でも、人権問題に関する基本的な知識と意見をしっかり持っていたことです。国際問題・ローカルな問題を自分事に捉え、日々意識しているジュネーブの人々の意識の高さは、ジュネーブという都市の特徴です。

  • 終わりに

ジュネーブは、フランス語習得に加え、国際的な取り組みの中心地いう環境であることから、実践も伴った国際関係を学びたい学生にとっては、最適な学習環境です。市民レベルで、ジェンダー・国籍など様々な分野で寛容なジュネーブに身を置くことで、日本社会が取り入れるべき考え方や仕組みも見えてきます。是非、留学先としてジュネーブを検討してみるのはいかがでしょうか?