私の交換留学先はフランス北部、ベルギーとの国境に程近い、Lille(リール)という街にあるリールカトリック大学 (Université Catholique de Lille)です。リールは日本人の中では知名度はなかなかに低いと思われます。フランスの玄関口である空港の名前になっているシャルルドゴール将軍、四ツ谷の駅にある某有名ブーランジュリーはここで誕生しました。ルーヴルに次ぐ規模だといわれる美術館もリールにあります。昔は炭鉱で栄えた都市であり、パリ―リール間のTGV(1時間ほど)の車窓からはその名残であるボタ山が見えます。
リールカトリック大学は、フランスでも最大規模の私立の総合大学であり、世界各国から多くの留学生を受け入れています。カトリック大学とは言いつつも、キャンパスではスカーフを巻いている生徒もいれば学寮内にはイスラエルから来た人もいる、非常に多種多様な人間が混在する大学だという印象です。所属学部はFaculté des lettres et sciences humaines(人文科学部)で、日本でいう文系科目をほぼ網羅しています。留学生は学科や学年関係なく自由に授業を履修できるので、私も芸術の授業から社会学、学部1年からマスターまで、この特権を利用して様々な講義を受講しました。もちろん、現地の学生や先生方に助けてもらいながらですが…。少人数での授業が多いので、ありがたいことに気にかけて頂きやすいです。
やや(だいぶ?)遡るのですが、まず、この大学を選んだ経緯を紹介したいと思います。入学前から留学にはずっと行きたかったのですが、いざ実際に希望を出すとなると、どの大学にするかなかなか決められませんでした。初めに、絞り込みの条件として主に①総合大学②旅行のしやすい立地③そこそこ都会④フランス国内でパリ以外を挙げました。これでいくつかあぶりだせましたが、さらに希望順位をつけねばなりません。そこで、先輩方の留学レポートはもちろんですが、それに加えて全ての大学のホームページ、シラバスを見比べました。興味のある授業があるかどうかを知るにはシラバスは欠かせないのは当たり前。が、さらにポイントとなるのは、ホームページをフランス語ではなく英語版でも見ること、そして英仏語以外でどのくらいの言語でページが翻訳されているか確認することです。その情報量の多さから留学生受け入れの対応の充実度を測れるのではないかと考えました。
読み通り、サイト内で外国語でも情報の充実していたリールカトリック大学の留学生サポートは提携先の中でも「群を抜いて」良かったです!(多少の贔屓目はご容赦願いたい。)そして、たかが1年、されど1年ですので住む都市も重要です。しかし当時の私はパリ以外の都市の知識がほぼ皆無でした。リールと聞いても釣り道具を連想していたレベルです。そこで某ガイドブック(「地球の歩き方」)のフランス編を購入し、提携先が掲載されているページを見比べ、地図上で大学が大体どの辺りにあるかをマークしました。以上から、パリやブリュッセル、ロンドンまでのアクセスが良い「北の玄関口」であり、北フランスの中心地リール、そして総合大学であり日本ではなかなか見られないユニークな講義も開講され自由度も高そうなリールカトリック大学を第一希望にしました。そこからはこの大学まっしぐらに突き進み、出国前はGoogle map を開いては未知の都市に思いを馳せる日々が続いておりました。
次に、こちらでの生活についてです。フランスの街並みといえば、パリのように白い建物が多いイメージがあるのではないでしょうか。ここリールは同じフランドルであるベルギーの文化をかなり受けているからか、レンガ造りの茶色い街並みです。旧市街は特に石畳×レンガでヨーロッパ感がムンムンです。歩いていて飽きないので、あえて横道に逸れてみたりなどして、たまに本気で迷子になっています。しかしそれもまた楽しいのです。
食べ物もどちらかといえばベルギー寄りでして、お酒といえばワインよりも専らビール、名物の一つにベルギーでよく食されるムールフリット(ムール貝の酒蒸しポテト添え)があります。9月の初めの週末にはBraderieといって、ヨーロッパ最大の蚤の市が開かれます。この時ばかりはパリよりも人がいるそうです。ここではムールフリットを食べるのが定番で、店はムールの殻で山を作ってどれほど客が来たか競っています。この光景もBraderie名物だそう。
そしてそして何よりも魅力的なのはLillois(リールに住む人)達です。先輩方からも伺っていたのですが、リールの人々は本当に優しい。悪名高きフランスの行政機関の職員さんですらも皆親切です。うまく言葉が出てこないときでもじっと耳を傾けてくれます。自分が想像していたより親切な人ばかりなので、初期の頃は何か裏があるのでは、集団グルなのかと、逆に人間不信になりました彼ら自身もこの県民性(?)を誇りに思っているようで、「私は北の人間だ!」と書かれたリールオリジナルのシールをもらった時に、「これは『私たちは親切な人間です』という意味なんだよ」と教えてもらいました。リールの駅に到着して5分も経たない、巨大なスーツケースを引きずった外国人に「どうだい、素敵な街だろう、リールは」と聞いてしまうタクシーのおじさまがいるくらい魅力的なところです。
出国前は、毎晩のようにバーに行ったりソワレに行ったり友達100人作る妄想を広げておりましたが、私の性格ではそのような生活とは程遠く、学校にいるか寮にいるか、昼の街を散歩(徘徊)するかの非常に健全な日々を過ごしております。
しかし、こんな生活を送っていても、数は少ないですがこの先も連絡を取るであろう友人たちを得ることが出来ました。「類は友を呼ぶ」「同じ穴のむじな」とはよく言ったもので、国籍こそは違えど、無理せず付き合える、似たようなペースの人と仲良くなるものです。芸術の授業で知り合ったフランス人の友人に映画館に連れて行ってもらったり、韓国から来た留学生とブリュッセルに日帰りで遊びに行ったりしました。
勉学に関しては、先に少し挙げましたが、もう少し具体的に述べると、映画や絵画、舞踊等の芸術、コミュニケーション学やツーリズム、交通機関等の社会学の講義をこの1年で受講しました。大枠で捉えると、全てフランスの文化に関する講義だといえます。日本人としての視点とフランス人自身によるフランス文化の解説を比較することで、日本での授業だけでは得られなかった思考回路が少なからず培われたように感じます。そして何より異邦人として現地の人間を観察できるのは留学の醍醐味です。日本で何らかの媒体を通して情報を知るのと、現地で肌で感じるのとではまるで違います。そしてその国民の声を即、生で聞くことが出来るのは大変貴重です。ややデリケートな話題も外国人という立場を利用すれば聞きやすくなります。
「机」上でなく「肌」上で、フランス若しくはフランス語圏を学び、感じてみませんか?