2022年3月から5月の約3か月間にわたり、上智大学は第1回大学対抗ハーグ討論大会に参加しました。キャプテンの吉田 芽依、米盛有咲、平山優萌の3名のフランス語学科の学生チームがこの大会に出場しました。参加者にこの経験を振り返ってもらいます。
討論大会の最終結果。Foundation Corax. より
この討論大会の趣旨と進行過程を教えて下さい。
吉田 : フランス語学習者、またはフランス語母語話者により構成される、32チームが世界中から集まります。各チームのメンバー数は2〜3人です。試合の流れとしては、対戦1週間前に議題が発表され、本番当日に審査員がくじを引き、賛成、もしくは反対の立場を各チームに割り振ります。それから、各チームのメンバーが、導入、議論、反論、結論の役割ごとに、交互に議論を展開します。1試合を通じてチームごと、合計10分ほど話すことになります。
平山: 参加チームの半分はフランス語が母語で、私たちを含めたもう半分はそうでないチームでした。第二リーグの時点で、フランス語が母語でないチームは私たちを含めて4組のみとなりました。ベスト8まで進出して最後に戦った相手はセネガルのチームで、日本の大学でいう3、4年生にあたる学生でした。
米盛: 大会の全体像としては、まずランダムに振り分けられた1チームあたり4大学の中で総当たり戦を行ったあと、上位2大学が本戦に進む、という二段階にわけて行われました。実は予選中の初戦では直前に相手大学が棄権する、というアクシデントもありましたがこれも含めて全部で4回試合を行いました。回を重ねるごとにチームとしても個人としても自信もついてきて、予選グループの中では結果として首位に立つこともできました。
1つのチームとして、どのように試合に取り組みましたか?
吉田 : 他の2人が東京にいて、留学中の私はパリにいる、という状況だったので、大会の全過程を通して、Zoomのミーティングを使ってオンラインで話し合っていました。また、時差の関係もあり、3人揃って話せる機会が少なく、限られた時間でスピーディーに話を進める工夫が必要でした。具体的には、初めに3人で議題の大筋を確認、自分が担当する部分の細かい内容については各自で取り組み、本番前のミーティングで、最終調整と本番形式での通し練習をしていました。ミーティングかできない期間も、それぞれの進捗度合いや気づいたことなど、毎日のようにメッセージで送り合っていました。また私はチームのキャプテンだったため、なるべく積極的にチームを動かしていこうと心がけ、議題発表後に各自の情報収集や議論作成の手掛かりになるようその議題についての概要やポイントのまとめを作成したり、役割分担を決めたりしていました。
平山: 出題されたテーマが非常に専門的だったので、ディベートをするにあたってはたくさん調べものをしました。「すべての電子機器をユニバーサル充電器対応(ひとつの充電器で充電できる共通仕様)にすべきか」「中東のテロ組織には世界中からメンバーが集まって来るが、その子供たちは(両親と離れて)もとの国に帰るべきか」「輸入物に炭素税をかけるべきか」といったテーマで戦ってきて、最終戦は「国際法によって良好な国際関係は築けるか否か」というものでした。どれも現状すらよく分からず、私たちがもとから持っていた知識では全く歯が立たないテーマだったため、情報収集は入念に行いました。
米盛: 2人が言っている通り、シチュエーション的にも特殊でしたし、私自身、他国の大学生に比べて自分たちに専門知識が欠如しているのを自覚することもしばしばありました。しかしフランスにいて時差も大きかったはずなのに語学面でもモチベーション面でも引っ張ってくれた吉田さんや、情報収集をしてくれた平山さん、専門的な知識を必要とする回では特別にコーチングをしてくださった小島真智子先生やServerin先生、そして何より私たち3人に常に寄り添い、真摯に指導してくださったMonfort先生のおかげでこの大会を有意義なものにすることができたと思います。
大会に対してどのような予想を立てていましたか? 大会を終えてどのように感じましたか?
吉田:第一リーグを勝ち抜いて、敗者が脱落する第二リーグまで進めるとは思ってもいませんでした。他の大会参加国、欧米などは特に、幼い頃から教育システム上、学校の授業内での生徒の発言機会を重視していることもあり、他のチームの学生は自分たちよりも幾分も議論に対する習熟度が高く、長けているように映りました。私はと言うとこれまで討論の形で自分の意見を表明する機会はなかったため、悪戦苦闘もありましたが新鮮な経験でした。最終戦ではチーム全体としてかなり良い議論を展開できたと自負していたため、結果については驚きと悔いが残りました。一方で、出せるだけの力を発揮できたことには達成感を感じています。また、努力を怠らずここまでチームが勝ち進んだことを誇りに思います。
平山 :吉田さんも言っていたようにディベート経験が少ないですし、またフランス語も母語ではないため、ディベート技術や語学力の面でこのチームの実力は高いとは言えなかったと思います。それでも、審判の皆さんには健闘を褒めて頂くことができました。この大会に出場したおかげで、私たち3人ともかなり成長できたのではないかと思います。良いディベートをするのに大事なことは、語学力よりも、相手チームへのリスペクトやテーマについて学ぶ意欲なのだということが分かりました。実際、最終戦では、フランス語学科の先生でありその分野の専門家でもある小島先生に助けて頂き、国際関係の現状についてたくさん勉強しました。勝つことはできませんでしたが、頑張って学んだおかげで本番も健闘できたのだと思っています。
米盛: 学科のフロアに別の用事で別の教授のところを訪れていたところに、偶然Monfort先生と会い、廊下で世間話をしていたらとりあえず参加するだけしてみようとなったあの日のことが懐かしいです。また私が2人にやれるだけやってみようと声をかけたこの大会への参加が、まさかここまでの結果になったことも本当に予想外ですが満足しています。一方で、各回で準備をしていく中で自分の力不足に気付かされ苦しんだこともあります。他国の大学生との知識差・実力差もひしひしと感じました。どうしても”ロジカルに主張する”という経験が乏しい中で相手チームや審査員の方々を納得させる、というハードルの高さが最終戦直前まで根強く私たちの中にあったと思います。最終戦では何度も議論を重ね、お互い改善点を指摘し、そのおかげで勝ち筋も少し見えていただけにこのような結果になってしまったことは悔しくもありましたが、それでも私たち3人と、最後まで付き合ってくれた3ヶ月は私の大学生活の中で非常に学びのあるものだったと胸を張って言えます。
Foundation Corax. より : https://www.youtube.com/watch?v=c-YXoDOz90A
大会への参加を通してどのようなことを学びましたか?
吉田:好奇心を持って探求することの楽しさです。現代は、デジタル技術の発展により、自身で自分が触れる情報を選ぶことができる時代です。そうすると、自分に直接関係がない事柄についてはつい無視してしまいがちです。私が実際にそうでした。この大会では、一見私たちの日常生活に直接関わることはない議題が扱われ、その議題について自分たち自身で情報を収集し、議論を展開させる過程が求められました。この過程で、環境や平和、そして地球上の他の誰かの死活問題などについて集中的に状況を掘り下げ、データを読み解くことで、これらの事象、問題が決して私たちにとって無関係なものではないことを強く感じました。
平山:複数の視点からものごとを見る面白さです。今回、大会のルールとして賛成と反対どちらの立場で討論するかは当日まで分からなかったため、ひとつのテーマに対して両方の立場からの意見を用意する必要がありました。論理をきちんと組み立てていくことで、私個人の考えとは逆の立場の意見でも、納得できるものに仕上がったのが印象的でした。多様な考えをただ受け入れるだけでなく、その背景を理解したうえで自分の考えもきちんと伝えてお互いに理解し合うというのは、現代においてとても重要なスキルであると思います。ディベートそのものや海外の学生との交流を通じて、それを体験できる大会でした。
米盛:学び続けることの重要性と、一つの物事をさまざまな視点・アクターから読み解くこと習慣をつけることと…って2人が言っていますね。となると、私にとってはロジカルに物事を考えることが、この大会を通して得られたものだと思います。調べたり、勉強したり、それこそ専門知識のある教授方にお話を聞いたりして、ディベートで主張する際の「タネ」を集めることは実はシンプルです。難しかったのはこの集めた「タネ」を、初めてこの話を聞く人にとってもわかりやすく、明確で、かつ納得できる主張に仕上げることでした。論理が飛躍しすぎていないか、信憑性のある出典元からのエビデンスか、先入観無くフラットに物事を捉えられているか、そういったことにも気を配りながら社会問題に触れ、自分の中で情報を整理し、自分の意見をアウトプットして、他国の大学生と議論する。これは普通の大学生活ではできなかった貴重な体験だったと思います。この場を借りて、このような大会に参加する機会をくださった学科の先生方、個別に授業をしてくださった先生、最後まで私たちと一緒になって戦ってくれたMonfort先生、そして私の突発的な誘いに乗ってくれた2人の友人に感謝したいです。本当にありがとうございました。