2024年5月12日(日)、上智大学四谷キャンパスで、「CÉCITOUR TOKYO(セシツアートウキョウ)」が開催された。CÉCITOURは、フランス語で「目が見えない」を意味する「セシテ Cécité」に由来する、フランス発の視覚障害者スポーツ啓発イベントである。フランスのハンディスポーツ連盟により2023年からスタートし、フランスの主要5都市(アンジェ、シティハイム、リヨン、クレルモン・フェラン、マルセイユ)を巡回したのち、初めて日本の地で、本学と本学課外活動団体Go Beyondが主催する「CÉCITOUR TOKYO」として実施された。
―開催の経緯―
本イベントの開催に至ったきっかけは、2つある。1つ目は、私が所属するGo Beyondの活動である。Go Beyondは、東京2020オリンピック・パラリンピックをきっかけに誰もが輝ける社会の実現を目指している団体だ。
発足の経緯を説明すると、はじめに、2016年本学で、学内横断的教職協働プロジェクトとして、ソフィア オリンピック・パラリンピック プロジェクト(以下SOPP)」が始動した。本プロジェクトの目的は、オリンピック・パラリンピックを共生社会の象徴的イベントとして捉え、本学の教育精神「他者のために、他者とともに(For Others, With Others)」をもって、多様性を認め、誰もが個性や能力を発揮できるような社会の実現を展望する機会を提供することだった。このSOPPの活動の一環として、2018年2月、平昌冬季パラリンピック調査に参加した本学学生2名が、同年6月にGo Beyondを立ち上げた。Go Beyond発足から今日まで、全国各地の小中学校で共生社会の実施、地方自治体と連携したパラスポーツの体験会、学内の学生に向けたパラスポーツイベント等、多岐にわたる活動を続けてきた。2023年度、私は、副代表に就任し、5期目を迎えたGo Beyondを運営した。
そんななか、昨年、フランスのソフィア会(上智大学・聖母大学卒業生の同窓会組織)のメンバーでフランス語学科卒の新藤祥子ローランドさんを通して、CÉCITOURの発起人であり、フランスのハンディスポーツ連盟ブラインドサッカーディレクターのシャルリ・シモ氏と接触することができた。昨年3月には、シモ氏が本学へ来校し、互いの活動を紹介し合う機会があり、そこで、初めてCÉCITOURについて意見を交わした。シモ氏は、ブラインドサッカーのフランス代表チームに帯同し、パラスポーツの現場で活躍されている傍ら、彼一人で、フランス国内で、CÉCITOURをはじめとする、市民レベルで障害者スポーツの啓発や多様性理解を促す事業運営にも注力されてきた。私たちGo Beyondは、彼の精力的な活動に感化され、シモ氏とのコラボレーション企画の実施を検討した。そして、この会合以降、フランス在住の新藤さんと、本学副学長で文学部フランス文学科教員の永井敦子先生からご支援をいただき、昨年12月頃、CÉCITOUR TOKYOプロジェクトが本格始動した。
2つ目の経緯として、個人的な経験を述べさせてもらうが、大学2年生のとき、フランスのリール大学に交換留学をしたことだった。フランスで半年間生活をして印象に残っているのが、人々の間で、「心のバリアフリー」が浸透していることだった。「心のバリアフリー」とは、人々が社会に平等に参加できるよう(社会参加への障壁をなくすよう)、すべての人の個性や価値観を認め合い、支え合うことである。異なるバックグラウンドを持つ人々が集まるフランス人では、人々の間に助け合う精神が芽生えているように感じた。
実体験にはなるが、たとえば、日本から重たいスーツケースを2個抱え、寮の階段を登ろうとしていたところ、たまたま前を通りかかった現地の学生が、4階の部屋まで運ぶのを手伝ってくれた。ほかにも、建物に出入りする際は、後ろの人のためにドアを押さえておく、電車やバスのなかでは、たとえ幼い子供であっても、彼らはお年寄りに席を譲る等、日本では見られない光景に驚きを隠せなかった。と同時に、日本で心のバリアフリーが実践されていない事実に寂しさを感じた。
帰国後、先述の通り、CÉCITOUR TOKYOプロジェクトが始動したところで、私は、本プロジェクトで、自身が留学中に感じたフランスで浸透する心のバリアフリーを具現化し、日本の人々に心のバリアフリーの重要性を訴えたいと考えた。そこで、私は、本プロジェクトの学生運営責任者として、フランスハンディスポーツ連盟、東京都、公益財団法人日本パラスポーツ協会パラリンピック委員会、在日フランス大使館、その他有名企業団体へ直接足を運び協力を仰いだ。
―CÉCITOUR TOKYOの目的と当日の様子-
CÉCITOUR TOKYOの目的は4つ。視覚障害者のスポーツ実践の啓発、関係者ネットワークの構築、市民の理解を深めるという既存の目的に加え、東京からパリへオリンピック・パラリンピックの経験を発信することを目指した。
イベント当日は強風のため、屋外プログラムを変更し、すべての企画を本学の6号館(ソフィアタワー)と体育場の中で行った。視覚障害者をサポートする技術の体験、ブラインドサッカーをはじめとするブラインドスポーツの体験、東京2020で活躍した選手の様子がわかる写真の展示や、フランス文化発信ブース、全盲ドラマーによるドラム生演奏、企業によるワークショップや体験授業等、盛りだくさんなイベントとなった。フランス文化発信ブースでは、本学課外活動団体のフランス語倶楽部(通称フラクラ)によるチーズパーティー、Institut françaisによるフランス留学や語学学習に関する相談窓口、本学教員と学生による「フランス推しスポット」紹介、本学海外協定校の紹介が行われた。
6号館101教室では、シモ氏、日本パラリンピック委員会委員長の河合純一氏、日本ブラインドサッカー協会理事長の塩嶋史郎氏をお招きし、私が司会となり、トークショーを行った。
日仏それぞれの視点から、「CÉCITOURを通して目指したい社会」や「視覚障害者支援における自国の課題」について議論を交わした。シモ氏は、「私は障害をハンディキャップとしてではなく、一つの”違い”と捉えている。すべての人が自分の居場所を見つけ、anormalとnormalで分けられない”a”が取れるような社会を目指していきたい」と、未来への期待を語った。
―感想―
フランスで浸透する心のバリアフリーを具現化すること、誰にとっても参加しやすいイベントを運営することは、非常に難しかった。しかしイベント当日は約1000人が来場し、参加者および出展団体にとって、新たな交流の機会や情報交換の場となる様子を目にした。特に、来場された視覚障害者の方からは「障害者と健常者が共に手を取り合う社会を形成していくための機会として、意義のある時間を過ごせた」「視覚障害者に対する理解や認知向上の場となりうれしい」などの声が上がった。本イベントが、人々を繋ぐ場になったことを実感し、大変嬉しく思う。しかしながら、「真の共生社会」を実現するためには、私を含め、皆さんの心のバリアフリーの実践が必要不可欠だと思う。
最後にはなるが、大学4年間を振り返ると、本学には、学生の主体的なアクションを支援してくれる体制が整っていることを実感する。実際、私が留学先に悩んでいた時に、親身になってくれたのは親ではなく、学科の先生方であった。また、今回のCÉCITOURは、永井副学長をはじめ、フランス語学科の先生方、本学サステナビリティ推進本部の職員等、総勢約50名の学内関係者に協力いただいた。大学が、学生の想いに共感し、全力でサポートしてくれる環境があるのは、上智大学だけであろう。だからこそ、私は、大学4年間で、仲間とともに夢を追いかけ、思うような自己実現ができた。後輩の皆さんも、上智大学で、夢を追いかけてみませんか?
―インフォメーションー
CÉCITOUR TOKYO 公式HP
CÉCITOUR TOKYOに関する記事:https://www.sophia.ac.jp/jpn/article/news/topics/cecitour2024/
https://news.ntv.co.jp/category/society/0f7beb951e12420f83f8d2e5f60bc37f
https://www.asahi.com/articles/ASS5B339BS5BOXIE01KM.html
Go Beyond 公式HP
CÉCITOURに関する情報: https://www.handisport.org/cecitour/
―参考文献―
東京都福祉局, 『心のバリアフリーって (2024年8月参照)