Q.現在はどこでどのようなお仕事をなさっていますか?
建設会社で海外のインフラ整備に携わっています。“ものづくり”と呼ぶのがふさわしいかどうかは別としても、日本の技術や精神を生かすことのできる仕事だと思います。技術屋ではないため、担当するのは「アドミ」(Administration)や「ロジ」(Logistics)と呼ばれる裏方のような仕事ですが、“ものづくり”に欠かせない「人」と「物」と「お金」の管理をしながら、地元の人たちを中心とする多国籍チームで、1つのものを造り上げていく楽しさを味わっています。この30年間に、フランス語圏を中心にアフリカやヨーロッパや東南アジアで、ダム、トンネル、道路、空港などの建設に参加してきました。ここ数年は東京にいて、アルジェリアの工事を支援しています。
Q.フランス語学科で学んでよかったと思うことはなんですか?
様々な国で、様々な国籍の人たちと一緒に仕事をする機会を得られたことです。
フランス語は大学で初めて学んだのですが、勉強が進むにつれて「フランス語の文化圏はなんて広いのだろう」と実感しました。たとえば、アフリカには50を超える国がありますが、そのうちの約半分でフランス語が話されています。ちなみに、フランス語を話す人のことを「フランコフォン」(Francophone)と言いますが、アフリカの僻地で「君もフランコフォンなのかね?」と地元の人に問われ、急に丁重に扱われるようになった時など、植民地文化の名残りを複雑に思う一方で、そこに生まれる不思議な連帯感を嬉しく感じたりします。
また、高校までは英語しか知りませんでしたが、2ヵ国語を学んだことで、それぞれの言語や文化の成り立ちをより幅広く、深く理解できたような気がします。その結果、日本語や日本の文化についても認識を新たにすることができました。
Q.在学中に一番印象に残っていることはなんですか?
新しい言語を学ぶことの楽しさと厳しさです。お世話になった先生方の授業は、どれもみな個性的でした。まるで全員参加のパフォーマンスのようだったクロード・ロベルジュ教授の授業は特に印象が強く、楽しさと厳しさがいつも同居していました。信じ難いことですが、ロベルジュ教授の前で立ち往生をしている自分の夢を今もときどき見るくらいです(笑)。
また、『人間の土地』や『星の王子さま』などの著作で知られるサン=テグジュペリについての講義や、幕末から明治にかけての日仏交流史など、その後の自分のライフワーク(ちょっと大袈裟ですが…)になった授業もあります。
Q.なぜ、現在の職場を選んだのですか?
外交官を目指す人、商社パーソンを目指す人、言語学者を目指す人など、周囲の仲間たちと同様に自分にも多くの選択肢があったはずですが、当時から海外でものをつくる仕事に携わりたいという思いがありました。フランス語圏というと、必然的にアフリカが視野に入ってきますが、それも意識した上での選択でした。ワンダーフォーゲル部に入っていて山歩きが好きだったため、体力には自信がありました。建設現場でアルバイトをしていたことも、この仕事に親しみを持つきっかけになりました。フランス語学科から建設会社に進んだ先輩はいなかったので、今思うと変わり種だったのかもしれません。
Q.最後にメッセージをお願いします
日々変わっていく世界の中で、自分とは異なる価値観を持った人たちと関わり、お互いの立場を尊重しながら共存していくことは、これからますます重要になってくると思います。それは、単に外国とのつき合いだけでなく、日本人同士の関係にも言えることでしょう。そんなことを考える時、これまでに一緒に仕事をした人たちの顔が目に浮かびます。今は大変懐かしい友人たちとも、最初から足並みが揃ったわけではありません。プロジェクトには、立場の異なる人たちが様々な形で関わってきますし、同じ職場の仲間であっても、雇う側と雇われる側に分かれて対立することもあります。それでも、お互いがいくつもの物差しを持って、異なる点や共通する点を確認し合い、それぞれの歴史や文化を理解し、双方の利益を目指して同じ方向を見ることができれば、初めはゆっくりでも、しっかりと歩みを進めることができました。外国語や外国の文化を学ぶことは、そうした作業に似ています。外国語学部では、その基礎を学ぶことができると思います。
(アルジェリア)トンネル工事の事務部のスタッフ。人事、労務、経理、総務の他、調達、通関、車両運行、営繕、警備、看護師、調理師といった多彩な職種の混成チームです。
(中央アフリカ共和国)道路工事の労働組合の選挙管理委員会。組合役員の選挙は、郡長や労働基準監督署長などの立ち会いのもとで行われます。