卒業生のメランベルジェ愛です。私は、今年の3月に上智大学のフランス語学科を卒業し、4月からは同じ上智大学の大学院で死生学を専攻しています。私はこ の7月、フランス語学科の先生に声をかけていただき、フランス政府が主催しているLabCitoyen(Laboratoire citoyen またはLaboratoire des citoyens「市民の実験室」の縮約)という短期プログラムに参加しました。世界各国の、フランス語を学んでいる学生がパリに招聘され、人権をめぐる 一つのテーマについてディスカッションし、共に学習を深めるという企画です。ここではこのLabCitoyenについて少し紹介したのち、このプログラム の会場となったパリのユースホステルについてお話ししようと思います。
短期プログラムの活動について
LabCitoyenは2013年から始まった試みで、フランス政府公式機関であるInstitut françaisが主催しています。毎年7月に、20歳から26歳の全世界のフランス語を話す若者が選考を受けパリに集まり、意見交換や啓発の機会を持ちます。今年のテーマは「都市の人権」でした。パリもまさに今、移民や環境、貧困、治安といった人権に関わる様々な問題を抱えている都市の一つとなっていま すが、この短期プログラムでは、世界各国の都市の状況を発信しあい、それぞれが抱える問題について意見を出し合う時間が多く設けられました。アフリカや南 米など、名前は聞いたことあっても実際の現地の様子はイメージしたこともない国の現状などを、その国に住んでいる若者から直接聞けるのは、それだけで大変 貴重な経験です。また、私たちの知識を補足するために行われた講義(都市開発に関わる様々な企業や、人権問題を扱うNGOの方などが足を運んでくださいました)や、パリの郊外を見学しに行く課外活動も、私たちにとって大きな刺激になりました。
パリのユースホステル
私たちが今回参加した短期プログラムでは、旅費や食事、宿舎が提供されたのですが、宿泊所として使われたのはYves Robertというユースホステルでした。ユースホステルとは、主に若者に安くて安全な宿泊施設を提供するために作られた世界規模のネットワークで、現在 では日本を始め世界各国に存在しています。だいたい一泊3000〜4000円で利用することができ、一人旅をする若者が交流を楽しめるように、基本的に相 部屋になっていることや、地元の住民が経営や管理に関わっているのが特徴です。
私自身は、このような仕組みがあることを今回プログラムに参加するまで知りませんでした。資金が多くなくても旅行を楽しみ、見聞を広げたいと考える若者にとって最適なシステムだと思います。ただ、私が今回このユースホステルについてお話しようと思った理由はそれだけではありません。ユースホステルの中でも、このYves Robertは単なる宿泊施設という枠を超えて、地域にとって大きな役割を果たしていると感じたからです。
Yves Robertは、パリ北部18区にあります。モンマルトルなどの観光地も近いのですが、一般的にあまり治安が良くないと言われているところです。実際に移 民の住人が多く、日本人がイメージするパリの街並みとは少し違った印象を受けます。(例えば、街で見かける人のほとんどがアフリカ系あるいはアジア系の人ですし、お店もエスニックなレストランや食料品店が多いです。)女の子が一人で歩くには危ない、と言われるほど治安が心配される地区で、そのただ中に Yves Robertは位置しています。観光客が普通足を運ばない地区にあえてこうした施設を設け、外部の人を呼び込むことで、地域のイメージの改善を図っている ようです。また、地元民も利用できる施設にすることで、地域内での交流の場にもなっています。
例えば、施設にはショウウィンドウ付きのお店が入っています。泊まる人はもちろん、一般の人もお買い物することができます。
しかもこんなに可愛い雑貨や家具、本などが売られているのです!
また、テラス付きのバー・レストランが2軒入っています。7月は気候がいいこともあって、テラスは宿泊客や地元のお客さんなどでいっぱいになっていました。
そして、このユースホステルには広い中庭があります。
近くに住む人々が子供連れで多数お散歩をしに来ているのをよく見かけました。様々な人種、世代の人が混ざって暮らしていることを肌で感じられます。
その他にも、図書館や会議室、講義室などがあり、日本の地域センターのような複合施設として多くの人々に利用されています。(私たちが講義を受け、ディスカッションをしたのも、このYves Robertの屋内でした。)
こ のように、その地域に住む人々が老若男女問わず自然に集まれる空間としてもYves Robertは役立っています。もちろん、本来ユースホステルですから、その交流にはフランス中・世界中からの旅人も加わることになります。こうした都市 における一つの試みを、施設を利用しながら実際に見て知ることができるという意味でも、Yves Robertは単なる宿泊施設を超えた存在になっているようです。移民という大きな問題を抱えるパリで、都市の状況を改善、向上させる画期的なアイデアの一つを垣間見ることができました。
終わりに
今 回、フランス語学科のご縁で、このプログラムに参加し、フランス社会の一面を実際に体験できる機会を得ました。実際にYves Robertを利用してみて、こうした取り組みは東京や他の地域でもぜひ実践すべきだと考えるようになりました。ユースホステルなどの施設を交流の場として利用できるように変えていくことは、新たな都市開発の一環になりえるでしょう。また、フランス語を勉強してきたからこそ、フランスで暮らす人々やフラン ス語を話す他国のメンバーたちの生活をより身近に感じ、より深く理解することができたと思います。このような体験は、海外の新しい画期的なアイデアに気づき、自分たちの社会にそれを生かすことを模索するきっかけになります。フランス語を使って他国の人々と交流し、フランスの都市を見学する今回のプログラム の意義もここにあるのだと感じました。語学の習得が、別の社会のいいところを吸収して、自分たちの社会をより良いものにしていくことに大きく役立つのだと いうことを、改めて感じられた旅になりました。
参考リンク
○LabCitoyenについてInstitut françaisのサイト
仏語
英語
○Yves Robertについて仏ユースホステル連盟のサイト
Auberge de jeunesse Yves Robert