学生と行った故郷ビルバオ

アインゲル・アロツ (Aingeru Aroz)

¡Hola! こんにちは!

イスパニア語学科教員のアロツ・アインゲルです。

今年2023年の2月・3月にスペイン・ビルバオにあるデウスト大学へ上智大学の学生と一緒に行く機会があったので、今回の記事ではその経験について書きたいと思います。

イスパニア語学科の学生は3年次から中南米やスペインの様々な大学へ6ヶ月(1学期)もしくは1年留学することができますが、2年生から参加することができる、もう少し短い「留学」、つまり1ヶ月の「海外短期研修」というプログラムも開催されています(一定のイスパニア語のレベルがあれば1年生も参加可能です)。

現在イスパニア語学科生は春学期(夏休みに)にコロンビアの首都ボゴタにある教皇立ハベリアナ大学、そして秋学期に(春休みに)上記のデウスト大学という2つの海外短期研修に参加し、現地でイスパニア語およびイスパニア語圏の社会文化などについて学ぶことができます。

コロンビアのハベリアナ大学の短期研修は数年前から実施されており、学生の間で長く人気を集めてきましたが、デウスト大学の研修は昨年度の2021年度に初めて開催された、比較的に新しいプログラムです。また、2021年度はコロナ禍の影響でスペインへ行くことがまだ難しく、研修をオンラインで開くことになったため、プログラムを現地で初めて実施できたのは、2022年度の秋学期の終わり頃、つまり今年2023年の2月・3月でした。

初めて渡航という形で開催するということで、今回だけは学科の教員の一人が学生の引率を担当することになりましたが、学生とともにスペインへ行くチャンスに恵まれたのは、何とビルバオ出身であり、そしてデウスト大学を母校としている私アロツでした。

11名の学生はビルバオで4週間を過ごし、現地のホストファミリーと暮らしながら、月曜日から金曜日までデウスト大学でイスパニア語とスペイン文化・バスク文化の授業を受けました。「現地人」でもある私にとって、徐々にイスパニア語力を伸ばしていき、また、ビルバオでの生活に少しずつ慣れていく学生たちの姿を見るのはとても興味深く、なおかつ嬉しいことでした。

デウスト大学の真ん前にあるグッゲンハイム美術館

今回のブログ記事のために、何人かの参加者から、研修に参加することによって、一番勉強になったこと、そして一番印象に残ったことを尋ねてみたので、以下学生の言葉を引用しながら、いくつかのポイントをまとめてみたいと思います(学生の希望にしたがい、氏名は公開しません)。また、何枚かの素敵な写真ももらったので、読者にビルバオがどのような場所か少しでもイメージがしていただけるよう、写真も掲載したいと思います。

〈一番勉強になったこと〉

この点について聞いてみると、多くの学生はイスパニア語学習やコミュニケーションに関する興味深い発見・洞察を述べてくれました。

「勉強になったことは、現地だからこそ学べるスペイン語です。デウスト大学の教授は、実際に使われているスペイン語を教えてくださいます。バル文化が栄えているため、バルに関する言葉をたくさん教えてもらいました。」

ホットチョコレートとチュロス

「勉強になったのは、うまく言えなくても伝えようとすることの重要性です。ビルバオでは、誰も私に流暢で間違いのないスペイン語を話すことを求めてはいませんでした。わかる単語をどうにか駆使して積極的に発言することは、アウトプットができるだけでなく、相手や相手の話に関心を示すという意味でも重要でした。何も言わないことは単に無関心と思われ、失礼にあたります。この滞在を通して、会話に割り込む度胸と実践的な会話での瞬発力が得られたと思います。」

「短期研修で勉強になったことは、何事も挑戦してみるということです。最初は不安でしたが、週末は地下鉄やバスに乗って遠出をしたり、お祭りのパレードも見に行って自分の目で見てみることを大事にしました。また、ビルバオはバルが多く、そこでも様々な人とお話しました。ある時、教えてもらったスペイン語のスラングが授業で出てきた時はとても驚きました。日常と授業が繋がった時は、感動しました。」

世界遺産に登録されている運搬橋「ビスカヤ橋」

 

「上智の授業で習ったことのなかったディベートの表現がとても参考になりました。実際のディベートもとても楽しかったです!また以前から勉強していたバスク語の新たな表現を学んで、使う機会を得ることができました。」

学生の経験を読むと、言語を学ぶためには文法や単語を覚えるだけではなく、日常会話に馴染むことやそれぞれの社会に特有のコミュニケーションの形式を身につけることも必要であることが分かるでしょう。また、四つ目(一番下)の引用の学生はイスパニア語のみならず、イスパニア語とともにバスクの公用語となっているバスク語の勉強にも挑戦していることも興味深いと思います。

実際、ビルバオはバスク自治州という地域にあるのですが、バスク自治州ではイスパニア語や周りの他の言語と直接に関係がないバスク語という言語が話されており、また、固有のバスク文化やアイデンティティーが存在しています。次の学生にとって、もっとも勉強になったことはまさしくバスクでの文化的多様性だったそうです。

「一番勉強になったことは、日本は民族や言語等アイデンティティに関する問題が取り上げられづらいけどスペインのように自治州によって言語や文化まで異なる地域は頻繁に取り上げられていて、場所によっては少数言語しか使われていないところもあるということです!」

〈一番印象に残ったこと〉

学生にとって一番印象に残ったことに関しては、バスクの言語と文化の多様性との出会い、そして学生が日々慣れている首都圏でのライフスタイルとの違いが目立ちます。バスクのような多言語社会で住むことについて、ある参加者は次のように述べています。

「印象に残っているのは、言語に関することです。バスク語圏にあるビルバオの看板は、スペイン語のほかにバスク語が併記してありました。また、街ではお店を出る時や別れの挨拶に”agur”と言っていました。バスク語が日常で使われていることや複数の言語が共存しているということが素敵でした。」

一方、学生は日本での自身の暮らしとビルバオでの生活の間の違いについて、いくつかの興味深い点も挙げています。

「印象的なことは、時間にとらわれ過ぎていないことです。もちろんビルバオに住んでいる人々は時間に正確で、電車も定刻に出発しますが、流れている時間がゆっくりでした。現地の大学生の多くがアルバイトをしておらず、勉強するときは思いっきり勉強をして、遊ぶ時はディスコで思いっきり遊ぶというメリハリのある生活をしていました。」

冬の終わり頃のビルバオの夕日

バスク海岸の絶景の一つ、ガステルガチェ

「一番印象に残ったことは、ビルバオの人々の地域愛でした。自分たちの文化に誇りを持ち、地域の中で学んで働いて遊んで、それぞれの人生をビルバオという街で思いっきり楽しんでいました。朝ゆっくり支度をして景色を楽しみながら学校まで歩く時間は、毎日混んでいる電車に何時間も揺られてへとへとになりながら通っている日本での自分とはかけ離れていました。お昼休みに家に帰って家族と食事をしたり友達と昼でも夜でもバルに行って楽しんだりしているビルバオ人の”豊かさ”を羨ましく思いました。」

私も日本で生活している外国人として、言語や文化の違いについて考える機会が多くあり、常に新しいことを学んでいる気がしますが、今回の海外研修に引率担当教員として参加することにより、学生が毎日そのような異文化経験、そして多言語生活に遭遇し、そしてその出会いから学習していくことを見ることは素晴らしい経験になりました。

ビルバオの夜景