RFIを聴いたことがありますか

福崎裕子

 RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)はフランスの国営ラジオ放送局の一つです。フランスと世界に向け、24時間放送を行っている一般ラジオ局です。日本でもインターネットのRFIサイトからライブで聞く事ができますし、番組をPodcastしたり、MP3ファイルでダウンロードしたりすることもできます。

 このラジオの中心は、毎時ごとに10分間、毎時半に3分間放送されるニュースです。そのほとんどが国際ニュースで、フランス国内のニュースは5分の1以下でしょう。30分ごとに新しいニュースが流される訳ですから、情報が早く、パリ経由で世界の最新の状況を知ることができます。もちろん、今日のトップ・ニュースはガザ地区からのイスラエル軍撤退でした。

RFI page d'accueil

[RFIのサイト( http://www.rfi.fr/)トップページ]

 ニュース以外の時間にも、ほとんど無駄がありません。他の国営ラジオ局同様にテレビの購入の際に支払う視聴料を主な財源として運営されているために、コマーシャルはほとんどありませんし、パーソナリティのおしゃべりで音楽や歌を長く聞かせるような番組もありません。「世界を考える人に問う」というキャッチコピーの『イデ(思想)』という番組では、毎週、知識人が新著について2部合計約50分語りますし、『アンテルナショナル(国際)』では、世界のトップレベルの政治家が、ジャーナリストの質問に答えます。この二つは週一度の番組ですが、主として自然科学を取り扱う『オトゥール・ドゥ・ラ・ケスティオン(疑問をめぐって)』、文化情報番組『ヴ・マン・ディレ・デ・ヌヴェル(きっと面白いから)』、環境問題についての『セ・パ・ドュ・ヴァン(むなしい約束ではない)』、様々な世界の問題をルポする『グラン・ルポルタージュ』など、ウィークデイに毎日放送されている番組も、多様で充実した内容のものです。「フランスの文化普及」という局の使命にふさわしい、しっかりと考えて作られた番組ばかりです。

 このラジオのもう一つの大きな特徴は、もともとフランスの植民地向けのラジオとして開設された局であるために、フランスだけではなくフランス語圏のラジオとなっていることです。これほどアフリカなまりのフランス語が聞けるラジオは他にはないでしょう。アフリカむけの放送は別にあるのですが、私が聞いている世界向けの放送の中でも、特に西アフリカ、ブラック・アフリカは身近に感じられます。しばしば定時ニュースの中でもアフリカの動向が取り上げられることが多く、他のフランスのラジオ局のニュースをたまに聞くと、フランスとせいぜいヨーロッパの話題に限られているようで、もの足りなく思うほどです。実際に、「アフリカ出身の人が運転するパリのタクシーでは、必ずRFIがかかっている。このラジオでしかアフリカのニュースが聞けないから。」とパリの友人が教えてくれました。また割合としてはそれほど多くはありませんが、ケベックなまりのフランス語を聞く事もあります。

 最近、コンゴ民主共和国の難民キャンプで暮らす、中央アフリカ共和国の戦闘を逃れて来た人々が、教育も娯楽も不足している子供達のために「RFIクラブ」を結成、RFIの番組を利用した活動を行なうと共に、コンゴ民主共和国内の他のいくつかの「RFIクラブ」と交流をしているというニュースを聞き、心温まる思いがしました。RFIを通じたネットワークが確かに存在するとわかったからですが、いつかはその末端にフランス語学科の学生にも加わってもらえたら、という夢をいだきました。

 実際に、フランス語学習者のための「やさしいフランス語ニュース」や、フランス在住の外国系の人にインタビューをする番組があることなど、このラジオは、フランス語を話す外国人も対象としていることをあきらかに打ち出しています。RFIのホームページにはフランス語学習のページがあり、オンラインでできる練習問題や外国語としてのフランス語教育の情報が提供されていますので、フランス語の学習者は積極的に利用すべきだと思います。

 実は、私はフランスではこのラジオを聞いた事がなく、RFIに出会ったのは長いフランス滞在を終えて帰国し、日仏学院で教えはじめたばかりの1992年頃でした。キャン・システムという有線放送が、「一日中フランス語で放送しているラジオ局を配信する」と学院に営業に来たのです。テレビの衛星放送もまださほど普及しておらず、インターネットも存在しなかった時代ですから、私はすぐに飛びつき、それ以来RFIを聞き続け、RFIが私にとっては最大の情報源、そして時には通訳や聴解の授業の教材源となったのです。

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[アンステチュ・フランセ東京(旧東京日仏学院)のラボ教室、ストリート・アーティストPsyckozeによる壁画の前で]

 朝起きた時と、帰宅した時にはまず有線放送のスィッチを入れ、集中して仕事や読書をする時間以外は、いつも家ではRFIが流れているという生活を送ってきました。そんな私にとって衝撃的なことが起きたのはちょうど一年前、6月のことでした。ある朝、いつものようにスィッチを入れるとクラシック音楽が流れてきたのです。今までもストライキのために、放送がなくなり音楽がかかり続けることがあったので、最初は「またストだろうか」と思っていましたが、いぶかしく思いキャン・システムに電話で確かめたところ、「配信をやめた」とのことでした。確かにインターネットで聞ける時代に、有線放送でRFIを聞いていた人は東京でもごく少なかったに違いありません。けれども、その少し前にアフリカ開発会議の通訳準備のために選んでアフリカなまりのフランス語を聞いて耳を慣らし、RFIのありがたみを普段にも増して痛感したところでしたから、余計に大きな衝撃でした。

 有線放送で聞けなくなってから、パソコンからブルートゥースでスピーカーに送ったり、iPadをスピーカーにつないだり、色々と工夫しましたが、手軽にスィッチ一つでRFIが流れていた環境を再現することはできません。以前は少し長く家を離れているとRFIが聞きたくて禁断症状が起きるほどでしたから、「神様が依存状態から脱却するようにと取りはからってくださったのだ」と思ってあきらめることにしました。インターネットやPodcastで、選別的な聞き方をするようになってよかったのかもしれません。それでも、一日中RFIが流れていて、いつもフランスとアフリカを近くに感じて暮らしていた日々がなつかしく、今でも時々寂しく感じることがあります。