1.はじめに
皆さんは、トゥールーズという街をご存じでしょうか。2023年ラグビーワールドカップの開催地ということで耳にした方も多いかもしれません。
私は上智大学の交換留学制度を利用して、トゥールーズカトリック大学の語学学校に10か月間留学をしていました。この大学には、外国人向けの語学学校が学部の一つとして設けられています。そのため、交換留学の制度を活用しながら語学学校に通うことができました。1クラスの人数が多くない語学学校なので先生方と学生の距離が近く(時期によって変動しますが、私の在籍時は1クラス4~8人程度でした)、学業に関わらず留学生活での悩みの相談に乗ってくださいました。
私がトゥールーズを留学先として選んだ理由は、街の美しさに魅せられたからです。トゥールーズは、“la ville rose”(日本語で、バラ色の街)と呼ばれています。この別名の由来となっているのが、テラコッタ色のレンガを使用した建造物群です。特にお勧めしたいのが、夕方の日が沈むころに訪れること。夕陽に照らされてバラ色に輝く町並みは、感動的な美しさでした。ここでは、この街での経験をもとに、トゥールーズの特徴と、私が留学生活を通して得た学びについてお話していきたいと思います。
2.住民に愛される街、トゥールーズ
実際に過ごしてみて感じたことは、トゥールーズに住む人々が街のことを愛し、誇りに思っているということです。パリ程の大都市ではないけれど、だからこそ人と人の距離が近く、温かい人付き合いを大切にする方々が多いのだと感じました。そんなトゥールーズの特徴を2つ紹介します。
①街のシンボル・キャピトル広場
キャピトル広場は街の中心部に位置します。この広場にあるテラコッタ色の建物は、街の市庁舎です。一般人に向けた解放日に訪れると、中を無料で見学することができます。トゥールーズの歴史や風景を描いた絵画や彫像で埋め尽くされた大広間は必見です。この広場では定期的にイベントが開催され、多くの人の楽しみになっています。例えば、クリスマスシーズンに開催されるクリスマスマーケット。ホットワインやクリスマスグッズなどを販売する屋台が沢山立ち並び、期間中に何度訪れても飽きません。
②ラグビーの街・トゥールーズ
トゥールーズには、本拠地を置くラグビーチームがあります。それは、「スタッド・トゥールーザン」です。1部リーグに所属し、フランス選手権で何度も優勝したことがある強豪で、多くのファンが試合に訪れます。私も試合を見に行ったことがあるのですが、観客の大歓声や花火のパフォーマンスを目の当たりにし、気付けば大興奮で応援していました。
3.語学学校での学び
私が通った語学学校では、フランス語を学ぶだけではなく、その日学ぶテーマについて学生同士で意見交流をする時間が大切にされていました。クラスには出身国や年齢、フランス語を学ぶ背景も異なる学生が集まっていたので、様々な視点からの意見が飛び交っていました。
そのうち最も印象深かったテーマの一つが、女性の人権に関する問題です。かつて、フランスにシモーヌ・ヴェイユという女性政治家がいました。フランスで中絶が禁止されていた時代に、望まぬ妊娠や違法な中絶の実施によって心や体が危険にさらされていた女性たちを救うため、シモーヌらは中絶の合法化に尽力しました。このような歴史も背景にあり、フランスでは女性の権利に関する議論が進んでいると感じました。例えば、フランスでは人工妊娠中絶にかかる費用が国の医療保険によってカバーされています。しかし、このテーマについてクラスでディスカッションを行った際、ある学生の話を聞いて私は非常に驚きました。それは、ポーランドからの留学生の話です。彼女の国では、2021年に中絶が禁止されたということなのです。彼女はこの決定にひどく憤りを覚えており、「この決定は女性の権利の侵害であり、認めることはできない。」と語りました。日本では、中絶が女性たちの心身を守るための一つの手段として認められています。そんな環境で生まれ育った私にとって、その手段が禁止されている国が存在するという事実は衝撃でした。
このように、クラスで様々なテーマについてそれぞれの出身国の事情を発表し合う中で、フランス語力の向上だけではなく、色々な国の現状を知ることができました。この点が、留学先として語学学校を選ぶ醍醐味だと感じています。
4.終わりに
留学生活を通して得たもので一番大きいのは、やはり「人との出会い」だと思います。トゥールーズに住む人々や語学学校の仲間たちと出会い、自分と異なる価値観に触れ、沢山の人の思いを知ることができました。トゥールーズという、人の暖かさが感じられる街で留学生活を過ごしたからこそ、このような出会いに恵まれたのだと思っています。このブログを読んでくださっている方がもし留学に興味をお持ちであれば、「バラ色の街」トゥールーズを留学先の候補地の一つとして考えていただけると幸いです。最後に、私にこのような機会を与え、支えてくださった方々、留学中に関わってくださった全ての方々にこの場を借りてお礼申し上げます。