ケベック留学を通して考えたこと

玉田 瞳

 私はカナダのケベック州ケベックシティにあるラバル大学に留学しています。

 最初に、ケベックについて少し紹介させてください。ケベック州はカナダの中で唯一フランス語圏の州です。私が留学している街は、ケベック州最大の都市モントリオールから長距離バスで3時間ほど離れたところにあります。州と区別するため日本語ではケベックシティと表現されますが、本来は「ケベック州ケベック」が正しい名前のようです。ここに住んでいる人たちは基本的に穏やかで優しい人が多いように感じられます。よくフランス人は議論が好きだなどと言われることがありますが、それに対しケベックの人々は対立するのが苦手、妥協点を探すのが得意だという風に言われているのを何度か耳にしました。また、冬がとても寒いこともケベックの特徴の一つとして挙げられます。一番寒い時期には気温がマイナス20度を下回ることもあり、ケベックに住む人々は厳しい寒さを乗り越え、冬を楽しく過ごすための知恵をたくさん持っています。そして、同じケベック州の中でも、モントリオールとケベックシティで違いを感じることもあります。モントリオールを歩いていると英語とフランス語が半分ずつくらい聞こえてきますが、ケベックシティで聞こえてくるのはフランス語がほとんどです。さらに、ケベックで話されているフランス語がフランスのフランス語と少し違うことは有名ですが、ケベックと一言に言っても、モントリオールとケベックシティで話されているフランス語の発音もまた少し異なっていたりします。

キャンパス内の地下通路。大学のすべての施設が地下通路でつながっており、冬はここを通って移動します。

キャンパス内の地下通路。大学のすべての施設が地下通路でつながっており、冬はここを通って移動します。

 そんなケベックでの学校生活はとても充実しています。語学の授業では、ケベック特有の表現を学べる機会も多く、留学生向けのイベントもたくさん開かれています。私は神学部に受け入れてもらっているので、語学の授業をメインにしつつ、宗教社会学の授業も受講しています。私が受けている授業は、受講者が私を含め6人しかおらず、ゲストスピーカーを呼んだり、旧市街の教会に実際に出向いてみたりと、まるでゼミのような実践的な形式で授業が進められています。ケベックで生まれ育ってきたクラスメイト達に比べてケベック社会に対する知識が劣っているのは当然ですし、フランス語の面で苦しい思いをすることも多いですが、先生やクラスメイトに支えられてとても濃い時間を過ごすことができていると感じています。現在は、ケベックの宗教教育の歴史についてフィールドワークをするべく準備をしています。ケベックで暮らす人たちの経験をじかに知ることができる貴重な機会になることでしょう。

冬のケベックでは、木の枝までもが凍ります。東京では見ることのできない景色です。

冬のケベックでは、木の枝までもが凍ります。東京では見ることのできない景色です。

  さて、ケベック留学が始まって半年が過ぎ、田舎の穏やかな空気と人々に囲まれて生活しているうちに、なんだか無駄な力が抜けたような、物事をいい意味でゆるくとらえられるようになったような気がしています。もともと私はどちらかというと思い詰める性格で、考えすぎてうまくいかないこともよくあるのですが、ここで生活するうちに、とにかく頑張らなければと力むことより、むしろありのままの自分でいること、背のびしないことのほうが大事なのかも知れないと思うようになりました。それは、これといった一つの大きな出来事を通してではなく、学校の課題や友達の何気ない一言など、日常のささいなことを少しずつ経て気づいたことです。ところで、私がケベックを留学先に選んだのは、治安のことや勉強できる内容など、細かい理由はたくさんありますが、何よりも、フランス語学科の多くの学生が留学先にヨーロッパを選ぶ中で、みんなと違う経験をしてみたいという思いがあったからです。今思えば、少しでもひとと違うことをやりたいという思いで、正直なところちょっと必死だったのかもしれません。特別な経験を求めてケベックに来ましたが、今の私にとって一番有益なことは、ささいな日常を通して学んだことでした。結局のところ、ケベックにいてもヨーロッパにいても、海外であっても日本であっても、どういう風に日常を過ごしていくかが大切なのではないかと考えています。ケベックでの留学生活も残りわずかになってきましたが、最後まで日々の生活を大切に、楽しく過ごしていきたいと思います。