屋内2割:屋外8割、フランス語で学ぶ留学

後藤一也

「フランス語を学ぶ」から「フランス語で学ぶ」ようになりたい。そう考えて私は4年前上智大学に入学し、それを実践するために1年前フランスへ向かいました。

私の留学先はフランスの首都パリ7区にあるパリ政治学院(通称シアンスポ)。前大統領フランソワ・オランドや現大統領エマニュエル・マクロンも青春時代を過ごした官僚養成学校です。

パリ政治学院メインキャンパスの外観写真

パリ政治学院メインキャンパスの外観写真

ここで私は2学期間を過ごしました。学部生としての留学なので専門は広く「政治」でしたが、留学前から興味のあった都市政策の講義をメインに履修していました。

 と言っても、私の留学生活の中心はパリ7区の官僚養成学校ではなく、そこから数キロ離れた16区の高級住宅街、もしくはパリ北東部の団地群、ときには住民が50人にも満たないスペインの田舎町。ほとんどの時間は屋外にいました。

 この投稿では私の留学先であるパリ政治学院の履修システムや私が留学期間中に取り組んだことの一部を紹介しながら、「留学」という大きな単語の中にある一つの形を伝えていきます。読み終わった後に「こういう留学スタイルもありなのか」と思ってもらえると嬉しいです。

授業選択数は自由

 今後、履修制度が変更される可能性はありますが、2016-2017年度のパリ政治学院は履修する授業数は自由。個人の意思に委ねられていました。もちろん上限はありますが、他の留学先大学のように最低履修授業数は決まっていません。

 そんな履修制度を活かし、私が前期後期ともに履修した授業数はそれぞれ週2時間の授業を3コマずつです。全ての授業で個人プレゼンや複数回のテストはありましたが、周りの学生と比べると余裕がありました。

 授業数をほどほどに抑え、私がしていたこと。それがフィールドワークであり、留学生活のほとんどの時間は留学前から興味を持っていた「都市空間における貧富の差による居住地の分離」や、「貧困地区の再開発」の事例をこの目で見るために街に繰り出していました。これが私の留学生活のメインとなった活動です。

 パリでの活動

 「都市に存在するもの全てには政治的意図がある」。都市政策の講義で教授が繰り返し強調していた言葉です。私が暮らした街、パリは世界中から年間数千万人を呼び込む華やかな観光都市でありながら、多くの貧困者を抱える街です。街中には華やかなブランド通りもあれば、日中であっても一人では近づけないような場所もあります。2017年のパリはそういう都市なのです。

 そんな光りと影のコントラストの激しい街パリだからこそ、異なる背景を持つ者に合わせて都市も変貌していきます。

 例えばパリ市内で多く見ることのできる「排除アート」はその最たる例です。次の写真をみてください。1枚目は学校近くの建物、2枚目は地下鉄のプラットフォームです。

トゲ状の装飾

トゲ状の装飾


地下鉄駅のホーム

地下鉄駅のプラットフォーム

何も背景知識がないフラットな状態でこの都市景観を見ると写真に写っているものはただのデザインに過ぎませんが、都市空間からSDF(ホームレス)が排除されつつある背景を知ると、彼らが座れない、横になれないような障害物をそれと知られぬように設置している意図が見えてきます。

 特に1枚目に写るトゲ状の装飾とその奥に座るホームレスとの構図はまさしくこの排除アートを象徴していると言えるでしょう。

 こうした一見、見過ごしてしまう都会の何とない景色の中にも政治的な意図が仕組まれている。私の教授はこうしたことを授業内で唱え、授業課題として実際の街に繰り出すことを強く推奨していたので、私の都市を見る目もこの一年でより敏感になりました。

 そして思うのは——これは私が専攻した都市政策の分野には特に言えることですが——学習において重要なのは、講義や資料を通して知識を身につける「練習」と現地を訪れる「実践」との絶え間ない往復運動なのでしょう。

 書を読み、町へ出る。結局はこの繰り返しだと思います。

 ヨーロッパの都市での活動

この留学を最大限活かした学習は何だろうと考えた結果、大小問わず、東西問わず、できる限り多くの都市を訪れ、そのパターンを増やすことと結論づけたので、留学中盤からは週末を利用し、フランスの地方都市、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパの都市を訪れるようになりました。小さい農村も含めれば訪問した都市コミュニティーの数は100を超えます。

ウクライナ西部のゴーストタウン、プリピャチ

ウクライナ西部のゴーストタウン、プリピャチ

意欲的に訪れたのは自身の関心分野とも繋がりのある港湾都市、城塞都市。それぞれ港湾都市の再開発、城塞都市の土地利用と都市の拡大について今まで資料やインターネットで見てきたものの実例に出会えたのは大きな収穫です。

スペイン西部の臨海都市、ビーゴ

スペイン西部の臨海都市、ビーゴ


スペイン北部の城塞都市、パンプローナ

スペイン北部の城塞都市、パンプローナ

スペイン巡礼

 そして留学終盤の一カ月を利用して、スペインへ巡礼の旅に出ました。巡礼の旅とはキリスト教の聖地に数えられるスペイン北西部ガリシア州のサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指すもので、キリスト教版「お遍路の旅」と考えてもらえればイメージしやすいと思います。

スペイン巡礼路

スペイン巡礼路

目的地を目指すいくつかの巡礼路の中で、私が選択したのはフランス南西部のサン・ジャン・ピエ・ド・ポーを起点とする約800kmのルート。通称「フランス人の道」と呼ばれており、その名の通り多くのフランス人が参加していたためフランス語を話す機会としてはこれ以上ない環境でした。英語話者も同時に多いので両言語のブラッシュアップにつながります。

巡礼者向けの宿は宿泊料が一泊あたり5-10ユーロほどで物価も低いスペインの地方を歩くので留学終盤、フランス語力を向上させるためにこの巡礼旅に挑戦してみるのも面白いと思います。

 この巡礼路では何百もの村、町を訪れ、そこに泊まることができるので、個人的には語学面だけでなく、都市政策・都市社会学の観点でも実り多い経験となりました。

 留学を終えて

 以上、10カ月に及ぶ留学期間のうち、振り返ると8割は屋外にいたのが私の留学生活だったと思い、このようなタイトルの投稿を書きました。フランス語を勉強するのはもちろんですが、フランス語学科を私が志望した理由の一つでもある、フランス語での学習を実践できたのは非常に大きな前進と言えるでしょう。

 現在留学を検討中の方は、一つの例として頭の片隅にでも置いていてくれると嬉しいです。