私は2017年8月から、一般留学で南フランスのモンペリエに来ています。パリからTGVで3時間半、飛行機で1時間半のモンペリエはエロ―県(Hérault)の県庁所在地で、フランス第8の都市とされ、さらに学生都市でもあります。ルイ王朝を称えたペイルー凱旋門や、 18世紀のオペラ座など豊かな歴史遺産に恵まれる一方で、弦楽器製作などの工芸技術は世界レベルを誇り、別称“弦楽器の都”とも言われています。また、地中海沿いに位置することから、年間を通して温暖な気候です。モンペリエに到着した初日、胸を弾ませながら早速散歩に出かけましたが、そこで私を待ち受けていたのは想像以上に強く照り付ける太陽と東京とは異なるカラッとした暑さ。南仏の洗礼でした。弱脱水症状になりながら、10ヶ月間の滞在に不安を覚え、放浪したのを今でも覚えています。
前置きが少し長くなりましたが、ここでは、私が通っている語学学校、留学の強い味方、フランス語“で”話すこと、この3点について述べたいと思います。
語学学校IEFE
私 は一般留学で、モンペリエ第三大学に付属する語学学校(Institut universitaire d’enseignement du français langue étrangère通称IEFE)に通っています。A1からC2までレベル分けされており、各クラス20人弱の授業形態です。読解・筆記・聴解・口頭表現・発音・文法、加えて2コマの選択必修。週16時間 の授業です。ここに通う学生の多くはDELF-B2を取得した後、学部に通うことが多く、私のようにフランス語修得目的でくる人は少数のようです。また、 IEFEは学期ごとに、近郊の街へのエクスカーションを提供しています。古代ローマの要塞都市カルカッソンヌ、ガール水道橋で知られるアヴィニョンなど、 行き先のラインナップも豊富です。
留学の強い味方
大学の敷地内は、当然フランス人学生であふれていますが、私たち留学生向けの授業が行われる建物は一か所にまとまっているため、彼らとの直接的な交流は特に設けられていません。私たちが大学で接触のあるフランス人は、先生と学事の方くらいです。
今後留学を考えている学生(特に語学学校に行く予定の人)に、ここで声を大にして伝えたいことは、「こちらから行動を起こさなければ現地の人との交流機会はほとんど無い」ということです。今述べたように、ただ学校に通うだけでは、留学生であるクラスメイトとしか知り合えません。(もちろん様々な国籍の学生と交 流することも魅力的ではありますが) しかしせっかく12時間もかけて遥々フランスまで赴いたのだから、フランス人と交流したいと感じるものです。それに現地の人と知り合えば、自分が困った時 にもきっと頼れる存在になるでしょう。
道行くフランス人に手当たり次第話しかけるのも、もちろん知り合うためのきっかけ の一つです。(私の場合、国内旅行の行く先々で、現地の方に“Vous avez du feu?”と声を掛け近づき、その地域のことを聞き出すよう試みています。) けれども、突然知らない人に話しかけるのは、やはり少し困難です。しかし、日本語学科のフランス人学生や、日本にフィーチャーしたアソシエーションのメンバーなら、そのハードルは少し下がると言えるでしょう。というのも彼らは日本に対して少なからず興味を持っているため、私たちのことをしっかり受け入れてくれます。実際、私は友人の紹介でアソシエーションに入り、フランス人相手に日本語を教えています。先生対生徒という関係とは言っても、生徒は皆年上で、 むしろ私に対してとてもよく面倒をみてくれます。
また、意外と盲点かもしれませんが、純和喫茶に通うのも一つの手段かもしれません。モンペリエ中心地付近にBento Caféなる喫茶店があるのですが、以前興味本位に入店したら、フランス人のグループがオーナーの日本の方と一緒に独学で日本語の勉強に励んでいるところ に遭遇しました。思い切って話に介入してみると、まだ拙いフランス語でしか話せない私を快く歓迎してくれました。その後も頻繁に彼らと会うようになり、今ではすっかり良き飲み友達になりました。アソシエーションでできた友人、喫茶店で偶然できた友人、いずれも私が日常で困難に直面したときに力になってくれる留学生活に欠かせない人達です。
留学の強い味方、それは日本に興味を持つ現地人だと私は考えます。確かに最初、声を掛けるのはかなり勇気がいることです。皮肉にも、内向性に秀でる日本人にとっては、初対面の人、それも外国語話者に話しかけるとなると、もはやSランクミッションかも知れません。何事も新しいことを始めるには、膨大なエネルギーを要します。しかし、そのエネルギーは留学に限らずその後の人生における推進力になりま す。決して浪費にはならないはずです。わずか1年足らずの留学生活、有意義に過ごすためにも、こういった難題ミッションに取り組んでみてはいかがでしょうか。
フランス語”で”話す
さて、突然ですが、皆さんがフランス語学科に入り、留学する理由は何ですか?フランス革命を研究したいから…芸術に興味があるから…オシャレだから(!?)……それぞれ理由があると思いますが、多くの人にとっては「フランス語を話せるようになるため」、これが主な理由ではないでしょうか。私も渡仏直後までそう考えていましたが、それでは足りないと次第に実感するようになりました。”Bonjour!” “Merci!”などは 皆さんも渡仏して数週間もいれば自然と出るようになるでしょう。しかし、挨拶や感謝を一言言うだけなら、ただその言語の言葉を発することに慣れただけで、 フランス語”を”話しているに留まります。
「フランス語”を”話す、ではなく、フランス語”で”話す。」言語の本質はやはり後者だと私は考えます。言語・言葉とは、自分の意思や考えなどを表現する手段に過ぎず、他者にそれらを伝えて初めて意味を持ちます。漠然とフランス語”を”話すことが目標になって、いざフランス語”で”何かを語ろうとすると息詰まる。オーラルのテストでよく見かける光景ではありませんか。
某有名予備校の講師が以前CMで言いました。「英語なんて言葉なんだ。」フランス語も然りです。フランス語とて、我々にとっては外国語であっても一言語、すなわち言葉であり、暗号などではありません。解読して満足 するだけではまだまだです。フランス語で自分の意見を表現して相手に伝える。外国語学部生としては、せめてこの領域に到達したいものです。そのためにはフランス語学習はもちろん、それに加えて”考える力”を要します。人間は考える葦と言われていますが(L’homme est un roseau pensant.: Blaise Pascal)、これはまた別の話になります。
留学ブログから少々逸脱してしまいましたが、「フランス語“を”話す、から、フランス語”で”話す、に」。もし読者の中に留学を控えている方がいらっしゃったら、海外滞在中にこのことを思い出していただきたいと思います。
終わりに
日本を発ってすぐは、不安なことばかり考えてしまい日本が恋しくもなるでしょう。しかし”住めば都”という言葉が言うように、そんな心持ちも時間が経てば忘れます。皆さんの第二の都はどの国のどの街でしょうか。Bonne chance!
2018年3月16日