2022年3月31日から6月22日までデンマークのフォルケホイスコーレ、International People’s Collegeに大学を休学して留学をしています。フォルケホイスコーレは通常1月~6月の春タームと8月~12月の秋タームがあり、私は春タームの後期から入学しました。
写真① International People’s Collegeの校舎。コモンルーム、ビッグホール、食堂、教室、各部屋が全て一つの校舎に含まれる。学校の敷地内には自然がたくさん。
フォルケホイスコーレとは
さて、フォルケホイスコーレとは、デンマークを中心とした北欧独自の全寮制の学校で、元々国民の民主主義的思考を育むために作られました。17歳以上であればだれでも入学することができ、高校卒業後のギャップイヤーで利用する若者から、キャリアの見直しを目的で来る大人まで、様々なバックグラウンドを持つ人が集います。試験や単位、成績などが一切ないのが大きな特徴です。社会に求められるスキルを学ぶのではなく、自分の興味関心にしたがって学ぶことができるのがフォルケホイスコーレです。後ほど紹介しますが、実際に様々な授業が開講されています。フォルケホイスコーレでの個人を真の自己実現に導く学び、また毎日寝食を共にする共同生活での対話から育まれる民主主義が、多種多様な個性が生かされるデンマーク社会を作るのです。フォルケホイスコーレは元々デンマーク人のための教育機関でしたが、そのうちの何校かがインターナショナル化し、各国から留学生を受け入れています。留学生であってもデンマーク政府が学費の7割を負担してくれているため、比較的安価でありながらもインターナショナルな環境で学ぶことができる特別な留学になりました。
自分と北欧社会を知りたい
私がフォルケホイスコーレへの留学を決めた理由は、2つあります。1つ目は、大学3年になり就職活動をし始めた時に、自分の軸が定まっていないことに気づいたからです。より多くのものに触れて興味の幅を広げ、自分の「好き」を探す必要がありました。2つ目に、毎回幸福度ランキングの上位を占める北欧諸国の社会と教育に興味があったからです。授業時間が短く、宿題もないにもかかわらず高い学力を維持している教育システム、高い投票率からみられる北欧社会の民主主義への意識はどこから来るのかを学ぶために、デンマークのフォルケホイスコーレに留学をすることを決めました。
私の通うInternational People’s College
・120人30か国以上から集まった生徒たちとの共同生活
・コペンハーゲンから電車で40分の港町ヘルシンゲルに位置
・学校内の共通語は英語
・高校卒業後ギャップイヤーを利用してくる18歳~20歳のヨーロッパの生徒が多い
・人種構成は、ヨーロッパ65%、アジア20%、南北アメリカ10%、その他(中東・アフリカなど)5%
・各国や各地域のカルチャーに関するイベントが多数
写真② 生徒が企画したOut door movie night。中庭に用意した巨大スクリーンでLa la landを鑑賞。暗くなり始める22時半ごろからスタート。
政治や文化から対人関係、音楽やアートの授業まで
以下が今学期開講されていた授業です。
Art&craft 2D/3D, Choir, Sustainable gardening, African studies, International relations,politics&diplomacy, Intersectional studies, Environmental studies, People movement&migration, Political philosophyðics, Life & the city, Us&them, , Life skills, Interpersonal conflict resolution, Intercultural communication, Unpacking Asia, Green activist , African drum and dance, Band playing, Exploring Denmark, Meditation, Movie making, Outdoor life, Music revolutions, World cinema, Team building through team sports, Creative writing, Drama, Storytelling for change, DIY(do it yourself), Understanding Europe, Human rights, Peace studies, Development management, Design and architecture, Folk high school studies
このように、ユニークな先生たちが提供する多種多様な授業があり、授業スタイルもさまざまです。中でも私が最も多くを学んだ授業はInterpersonal conflict & resolution です。この授業では他者との関係を良くしていくための思考と技術を学ぶ授業です。毎回2.3人の小さなグループで常に対話を中心にした授業を行います。ペアワークでは、一人がその週に経験した最も心が動かされたことを話し、もう一人が感じとったストーリーテラーの感情を体を使って表現したり、問題解決のプロセスを学んだ後実際にそれを使って学校が抱える問題の解決方法を考えたり、自分たちがこれまでに経験したコンフリクトを短い劇にして表現したりしました。この授業を取り、他者との問題に直面した時、相手の発言や行動の根底にある理由を考えて理解できるまで聞く、それが難しくても受け入れるということが容易になりました。
民主主義の場に直面
フォルケホイスコーレは民主主義を学ぶ学校であると前述しましたが、実際にここに来るまではその意味を深く理解しておらず、授業内で政治について学ぶ機会が多いのだと思っていました。しかし実際には、フォルケホイスコーレでの共同生活を通して民主主義を何度も体験しました。文化や生活習慣の異なる120人での生活ではいくつかの問題が発生しました。その一つが、学期の後半に学校内で起こったセクシュアルハラスメントです。この出来事に関して生徒と先生との反応が異なり、学校の古いセクシュアルコンセントポリシーを変えるために生徒たちで何度も会議を開き、学校長を含めた先生たちとの対話を重ねました。最終的に生徒がコンセントワークショップという必修の臨時講義を企画することになり、全生徒がセクシュアルハラスメントについて学び考える機会が設けられ、学校側もポリシーの改訂に向けてより本格的に動き出しました。これは、私がこれまで受けてきた、決められた授業や規則、既存のシステムに合わせることが求められる学校教育とは全く違うものでした。立場に関わらず個々人の発言や行動が学校のシステムを変える影響力を持ち、更にそれが人の声によって常にアップデートされていくのがフォルケホイスコーレでした。この民主主義を基盤にした学校での経験が、社会やコミュニティに対する自己効用感を育み、社会システムの変革に関しても自分が持っている影響力を信じて行動することを可能にするのだと感じました。
身近に感じたインクルーシブなデンマーク
デンマークに来て早々いくつか驚いたことがありました。国民の英語力が世界トップクラスで高いデンマークですが、どこへ行ってもデンマーク語で話しかけられます。私は、日本で、異なる人種の人と話す時に、つい日本語が伝わらないと判断して英語で話しかけようとしてしまうことがありました。たとえ見た目が異なる相手に対してであっても、デンマーク社会の一員である可能性を考えてデンマーク語で話そうとする現地の人々に感銘を受けました。また、保健医療に関しても福祉が行き届いているのを肌で感じました。コロナワクチン3回目の接種を複雑な手続きを一切踏まずにしてもらうことができました。また、短期の留学生であっても医療費は無料です。
写真③ 学校から徒歩15分ほどのビーチ。晴れの日はみんなビーチに集まります。
立ち止まって感じる・考える
有名大学・有名企業に就職して安定した生活を送る、といった社会によって形作られた成功になんとなく向かってこれまで勉強などに取り組んできた私は、試験も成績もないフォルケホイスコーレで与えられた久しぶりの自由な時間に困惑し、生産的な活動をしていない自分に時に不安になることもありました。ただ、一度社会の目から離れて自由な時間を過ごしてみると、本当に自分を幸せにしてくれるものが見えて来ました。海沿いにランニングに行くこと、ただ中庭の芝生に寝っ転がること、ビーチでのピクニック、楽器を演奏して歌うこと、好きな人たちと時間を共有すること。これは世界中から集まった一人一人が個性的な友達が私を外に連れだし気づかせてくれたことでもあります。高校を卒業したばかりの私よりも少し若い友人たちが、多くのことを経験して楽しみ、自分が本当にやりたいことを探している姿は、当時日本でひたすら大学入学のために勉強をしていた私とは違うものでした。ものすごい勢いで次のステージがやってきて、それに乗り遅れないために必死にならなければいけない日本社会に生きる若者にも、余白のある生活が必要だと感じます。この学校への滞在は6月後半で終わりになりますが、次はデンマークからトルコまで下り7か国をめぐる東欧旅行、1カ月間のworkaway(住み込みのボランティア)をデンマーク国内で経験し、8月からの別のフォルケホイスコーレでよりデンマーク社会について詳しく学ぶ予定です。私は、フォルケホイスコーレ留学を選んで、自分に考える・感じる余白を与えられて良かったと心から感じています。