留学先の模索
私は4年次在籍時に、春学期は休学してデンマークに、秋学期は交換留学を利用してフランスのリールに留学しました。
漠然と留学をしたいと考えていた3年次、どんなテーマで留学したいのかを考え、ゼミのテーマでもある女性の社会進出を学べることを軸として留学をしようと決めました。
フランスには行きたいと思っていたのですが、このテーマならば北欧の国も見てみる必要があるのではないかと考え始め、どちらに行こうか迷っていました。そこで、グローバル教育センターの留学カウンセラーの方に相談したところ、「どちらも行くという選択肢もある」とアドバイスをもらいました。
また、春学期に休学し秋学期に交換留学を使う留学ならば、就職活動のタイミングで日本に帰ってくることもできるため、半年ずつで2か国とも行ってみようと決めました。
デンマークでの留学
デンマークでは、国営の生涯学習機関であるフォルケホイスコーレという全寮制の学校で3か月間学びました。フォルケホイスコーレは国民学校と訳され、デンマークでは高校や大学に入学する前に自分の人生について考えたり準備をしたりするために通う、ギャップイヤーのような制度で、留学生を受け入れている学校もあります。17歳以上なら誰でも入学でき、試験などがない特殊な仕組みの学校です。創立者が「生きた言葉=書き言葉でなく話し言葉」を大切にしていたため、座学の科目よりも実践的な科目の方が多いのも特徴です。
フォルケホイスコーレという特殊な形態の学校への興味から、デンマークで学ぶことを決め、Nordfyns hojskokeという福祉・教育をメインで学ぶことのできる学校を選びました。
専攻の福祉・教育の授業では、とにかく「個」を大切にするということが福祉三大分野である教育・医療・介護で徹底されているのだと分かりました。例えば、
・ノーマライゼーションは決められた”ノーマル”にみんなを寄せようとするのではなく、みんながそのままの状態でノーマルと言える状態
・ホリスティックに人を見る
・自信ではなく自尊を高める
キーワードだけ挙げましたが、これだけでもいかに個を大切にしているのかが分かると思いませんか?これがデンマーク社会福祉に共通する哲学となっています。
私はそこから、女性の労働に関しても、「女性」である前に「個」を見るという考えからも実現できているのではないかと考えました。以前は制度を見ることが重要だと思っていたのですが、どのような考え方がベースとなっているのか、その考え方にどれだけ沿って制度ができているのかを知ることの重要性を実感しました。
他にも、3か月の共同生活で周囲の人々とこれまでとは比べ物にならないほど深く関わる経験ができました。24時間常に誰かと一緒にいて、それが3か月続くという生活に最初は慣れるか心配でしたが、ともに食事をし、時間を気にせず話し合い、外で遊び…など、常に人と過ごし、それがまったく苦になりませんでした。むしろ、そのくらい共に過ごしてはじめて人のことが理解できるのだと感じ、福祉の授業で学んだことをそのまま生活で実感することができました。
デンマークという国やフォルケホイスコーレでの生活を存分に楽しみ、もともと良かった国のイメージがさらによくなりました。一方で、例えば薬物使用の問題、介護における老人の孤独の問題など、抱えている問題が多いことも知り、イメージとのギャップはどの国にもあるのだなと感じました。
フランスでの留学
フランスでは、リール大学に1学期間留学し、家族社会学やジェンダーヒストリーなどの授業を受講しました。日本で社会学の授業を受けたことはあったのですが、内容が似ている部分もそうでない部分もあり面白かったです。ジェンダーヒストリーの授業では、フェミニズムの歴史や意義、その時の作品や風刺画についての講義が何週にもわたり、ヨーロッパでの動きについて深く学ぶことができました。
また、同じ授業を受講している生徒に話を聞くと、性別役割分業について日本と異なる点はもちろん、似たような点もいくつか見つけられました。例えば、親世代には女性が家事をすべきという考えが未だ多いこと、その意識により女性の労働力率が高い一方で女性は「育児も家事も」という状態になっていることなどです。また、国際女性デーなど、デモへの参加を頻繁にしている生徒も多くいました。家庭内や個人での活動の話を聞くことができたのも、現地に行って話を聞くことのできる友人ができたからであり、貴重な機会になりました。
現地の生徒と混ざってフランス語で授業を受けることは想像以上に大変で、フランス語のスピード、馴染みのないテスト形式についていくことに必死でしたが、フランス語も専門知識も同時に学べる良い経験になりました。
中心地のリール・フランドル駅
終わりに
デンマークに留学して身に着けたことや感じたことがフランスで学ぶうえでのひとつのベースになり、フランスにも留学をしたことでデンマーク留学を今のように振り返ることができるのだろうなと思います。
留学を通して、滞在した2か国の事情をより深く知りたいと思うと同時に、日本との比較を通して「こうなったらよくなっていくのではないか」とヒントをもらえたような気がします。それが卒業論文や就職活動の軸ともなり、このタイミングで留学に行ったからこそ得ることのできた気づきでした。