VOL.8
1981年卒業
武蔵大学
平野千果子さん

フランス(語)を通して世界を見る

現在はどこでどのようなお仕事をなさっていますか。

都内の大学で、歴史やフランス語を教えています。専門はフランスの歴史で、とくに植民地支配の歴史に焦点をあてて研究をしています。近現代が中心ですが、このテーマは、ときに奴隷制の時代にまで遡らなければならないことも多く、広い視野をもつことを心がけています。

 フランスと植民地の歴史について、本を書きました。

フランスと植民地の歴史についてこのような本を書いてきました

フランス史の他のテーマでも、翻訳を出しています。-1

フランス史の他のテーマでも翻訳を出しています

歴史研究をしようと思ったのはいつごろですか、またそれはなぜですか。

研究者としての出発は遅かったです。大学卒業後は会社勤めをしていたのですが、外の世界を見たくなって、しばらくフランスに滞在しました。そのときユネスコで、短期間とはいえ、インターンをする機会を得たのは一つの契機でした。ユネスコのような国際機関は、途上国支援が主要な役目の一つですが、そこで出会った人々や体験した仕事のおかげで、ヨーロッパから外へと大きく目を開かされました。

それで帰国してから、アジアに関係する市民団体などで活動するかたわら、大学院に入って改めて勉強することにしました。そもそもフランスで生活したときに、今日の社会が植民地支配という歴史の刻印を深く受けていることを、折に触れて感じていました。元来の歴史好きもあり、植民地の歴史をテーマにすることは、自然に導かれたものだったと感じています。

フランス語学科で学んでよかったと思うことはなんですか。

フランス語学科に進学したのは、英語以外の言語を通して異なる文化に接したいという気持ちからでしたが、フランスが啓蒙と革命の国であるだけではなく、植民地帝国をもっていたことが、これほど世界にフランス語が広まった大きな原因であることは間違いありません。その結果、まったく異なる文化的背景に育った人たちとも、フランス語という言語を通して意見を交わせることからは、多くを考えさせられます。

今の職場でよく感じることですが、フランス語を第一外国語として選択する学生たちは、フランスに関係するものなら、地理的にも時間的にも縦横無尽に関心をもって、自らを開いていく傾向があるようです。私が何も言わないのに、アフリカにかかわることを卒論のテーマに選ぶ学生もいます。

私自身、そうした世界に広がる可能性の基礎を、フランス語学科の4年間で養ってもらったと思います。

 在学中に一番印象に残っていることはなんですか。

先生方の個性が爆発していたことですね。もちろん授業は厳しく、それなりに緊張感をもって臨んでいましたが、それぞれの先生の個性がはじける授業は、自然に学びの喜びにつながっていたと思います。先生たちとの距離感は近かったですし、それぞれの先生が厳しいなかにのびやかなものをもっておられました。

一緒に学んだ仲間の間にあった、関心の多様性も印象に残りますが、それは先生方の個性がそれぞれに共鳴したものだったのでしょう。外国語学部というと、外国語しか勉強しないところだと考える人もいるようですが、言うまでもなく、それは一面的な見方です。語学を学ぶ先に一人一人が見ているものはさまざまで、お互いに刺激的だったのではないでしょうか。そのような学生生活の基本線は、個性あふれる先生方が束になったフランス語学科という場が作ってくれたのだと、今にして思います。

 最後にメッセージをお願いします。

 いま世界では、急速にグローバル化が進む反面、各地でナショナリズムが高まっています。フランスも例外ではありません。明らかに「多民族社会」となっているフランスでは、折に触れてフランスとは何かが問い直され、「アイデンティティの危機」を声高に唱える政治勢力も力を得ています。そうした主張が正しいというわけではありませんが、従来の概念が大きく揺らいでいるのが、現代という時代だと思います。

それは、外部にいる私たちにとっても重い問いになっています。若い皆さんには、固定観念にとらわれることなく、広い見地から批判的に見る眼を養ってほしいと思います。それは悪い面を見つけて批判する、という意味ではありません。直接語られることを鵜呑みにするのではなく、さまざまな側面に注意しながら、物事から一歩引いて、何が問われているのかを自ら考える姿勢とでも言ったらいいでしょうか。

フランス語は今日でも、世界に通じる重要な手段の一つであり続けています。フランス語という武器を手に、柔軟な思考を心がけていけば、きっと豊かな世界が開かれてくるはずです。「フランス語」を通して見える世界は、広大で多様です。そうした世界を体験する素敵な楽しみを、多くの方に味わってほしいと思います。

 植民地時代、植民地に兵士として行く若者を募集するポスター

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