2025年度 所内共同研究プロジェクト

 

比較統辞論の理論的・実証的研究

      • 高橋亮介 (SOLIFIC正所員、上智大学外国語学部ドイツ語学科教授)
      • 福井直樹 (SOLIFIC正所員、上智大学言語科学研究科言語学専攻教授)
      • 大塚裕子 (SOLIFIC正所員、上智大学外国語学部英語学科教授)
      • 加藤孝臣 (SOLIFIC正所員、上智大学言語科学研究科言語学専攻准教授)

主旨

理論言語学は、過去半世紀の間に著しい発展を遂げてきたが、その注目すべき成果の一つは、人間言語の普遍性と多様性とを、適正な方法論に基づいて正面から問うことができる理論的基盤を確立したことである。言語に普遍性が存在することは、言語が生物学的な種としてのヒトの特性として獲得・使用可能なものであるという事実からの必然的帰結であるが、その一方で、現実の言語には広範な多様性が存在する。言語の普遍的特性は何であろうか。また、言語の多様性の根源は何であろうか。

以上の問題意識から出発し、この共同研究では2012年度から2024年度にかけて、主にドイツ語・英語・日本語・トンガ語の実証的な比較、対照研究に基づきながら、「統辞法の原始演算」「否定と経済性との関係」「生物言語学のメカニズムの因果性」をはじめとする様々なトピックの扱いを通じて言語の普遍性・多様性の実相の一端を明らかにしてきた。さらには、「空間移動表現」「放出動詞」といったトピックを手がかりに、統辞論とレキシコンとの密接な関係にも着目し、語彙特性が様々な文法現象にどのように関与しているのかという点についても詳細な検討を加えてきた。こうした多彩な実証的成果を踏まえ、2024年度も、言語の普遍性・多様性や統辞論とレキシコンのインターフェイスをめぐる諸問題について、引き続き理論的な考察を深めていく予定である。

  • 復興・再活性化における少数言語変容の比較研究

        • 木村護郎クリストフ(SOLIFIC正所員、上智大学外国語学部ドイツ語学科教授)
        • アインゲル・アロツ(SOLIFIC正所員、外国語学部イスパニア語学科准教授)
        • 藤田護(SOLIFIC共同研究所員、慶応大学環境情報学部講師)
        • 佐野彩(SOLIFIC共同研究所員)

    本共同研究の背景、目的および進捗状況

    理論言語学は、過去半世紀の間に著しい発展を遂げてきたが、その注目すべき成果の一つは、人間言語の普遍性と多様性とを、適正な方法論に基づいて正面から問うことができる理論的基盤を確立したことである。言語に普遍性が存在することは、言語が生物学的な種としてのヒトの特性として獲得・使用可能なものであるという事実からの必然的帰結であるが、その一方で、現実の言語には広範な多様性が存在する。言語の普遍的特性は何であろうか。また、言語の多様性の根源は何であろうか。

    以上の問題意識から出発し、この共同研究では2012年度から2024年度にかけて、主にドイツ語・英語・日本語・トンガ語の実証的な比較、対照研究に基づきながら、「統辞法の原始演算」「否定と経済性との関係」「生物言語学のメカニズムの因果性」をはじめとする様々なトピックの扱いを通じて言語の普遍性・多様性の実相の一端を明らかにしてきた。さらには、「空間移動表現」「放出動詞」といったトピックを手がかりに、統辞論とレキシコンとの密接な関係にも着目し、語彙特性が様々な文法現象にどのように関与しているのかという点についても詳細な検討を加えてきた。こうした多彩な実証的成果を踏まえ、2024年度も、言語の普遍性・多様性や統辞論とレキシコンのインターフェイスをめぐる諸問題について、引き続き理論的な考察を深めていく予定である。

     

    音声学および語学教育におけるリモート環境活用に関する研究

              • 北原真冬(SOLIFIC所員,外国語学部英語学科教授)
              • 小松雅彦(SOLIFIC客員所員,神奈川大学外国語学部准教授)
              • Le Nguyen Van Anh(SOLIFIC共同研究所員,the University of Danang, Vietnam,講師)
                  主旨

    本研究は,2024年度の研究課題「音声学および語学教育におけるリモート環境活用に関する研究」の継続である。引き続き各種クラウド環境および対面環境を併用する音声教育システムと実験システムの開発と基礎研究を行うことを目的とする.

    COVID-19以降,教育・研究におけるリモート環境の運用において様々な経験が蓄積され,リモート環境のメリットとデメリットについても多くの議論がある.授業や学会等においてはほぼCOVID以前の状況に戻ったとは言え,特に,海外を含む遠隔地との共同研究等においてはリモート環境が一般化したメリットを大いに活かしていくべきである.また,音声産出および知覚実験においてもCOVID以降,実験プラットフォームをリモート対応にした様々なサービスが一般化してきた.Gorilla.sc,E-prime GOやPsychoPy + Pavloviaという枠組みを用いることでリモートでの実験は可能である.しかし,海外においても国内と同等の条件で実験を行うとなれば,まだまだハードルは高く,参加者の募集,謝礼の支払い,データのやり取りなどにおいては現地の協力者がいなければクリアできない点は多い.

    2025年度は引き続き,アジア圏における英語学習者の発音についての研究の基礎として,リモート環境における実践的な問題解決のためにベトナム,ダナン大学講師のDr. Le Nguyen Van Anh氏とともに国際的な協力体制における研究推進の取り組みを行う.また,機材・用品・オンラインソフトウェア等の購入費用も重点的に申請する.

     

    フランス語のディスコースマーカーのコーパス研究

          • テュシェ・シモン(SOLIFIC正所員、上智大学外国語学部フランス語学科教授)

          主旨

          情報技術の発達によりコーパス言語学が様々な分野で大きく発展しており、中でも談話分析や文法研究に大きく貢献している。本研究は、現代フランス語のディスコースマーカーを対象にし、コーパス研究によりその理解を深めることを目的とする。

          コーパスとしては、主にATILF(Analyse et Traitement Informatique de la Langue Française)が開発しているFrantextとELRA(European Language Resources Association)が提供しているLe Monde紙のコーパスを使用している。Frantextは数世紀にわたる様々なジャンルの作品で構成されるコーパスである一方、Le Monde紙のコーパスは現代における標準的な書き言葉による均質なコーパスである。性格の異なる2種類のコーパスを活用することで、大規模コーパスの計量的調査を中心に様々なアプローチで研究対象を検討することが可能となる。

          このような調査手法を用いることで期待できる研究成果は主に、ネイティブチェックによってマーカー同士の置換可能性を測るといった従来の手法では明らかにすることが難しいマーカーの統語論的、談話論的な生起環境、共起する形式といった、使用傾向を明らかにし、それぞれの本質を浮き彫りにすることである。

          2019~2024年度においては、上記のコーパスを使用したディスコースマーカーの研究を行う中で、既にその成果の一部を発表するに至っている。その結果に基づいて、2025年度はデータ収集とその分析を深めていく予定である。

           

          CLILにおける批判的思考:

          ライティングルーブリックの開発と対話における批判的思考の質的分析

          • 佐藤敬典(SOLIFIC正所員、上智大学言語教育研究センター准教授)
          • 深澤英美(SOLIFIC準所員、上智大学言語教育研究センター 講師)
          • 相川弘子(SOLIFIC共同研究所員)

          概要

          批判的思考力は英語教育を含む現代の教育現場において培われるべき能力の一つとして認められている。特に内容言語統合型学習 (CLIL) において、その能力は言語運用能力、科目の知識と共に重要視されている。本共同研究では、大学レベルでのCLILに焦点を当て、以下の二つの研究課題を扱う。

          一つ目の研究課題では、CLILにおけるライティング課題を通じて学生の批判的思考を測定するためのルーブリックの改善を目指す。研究代表者は、2023年度に論証エッセイを用いた批判的思考力の測定ルーブリックを開発し、スコア分析を通じてその妥当性と信頼性を検証した。2024年度には、2021年度から収集・分析してきた研究データ(批判的思考の専門家11名が評価に使用した判断基準)を基に、批判的思考を構成する重要な下位能力やスキルを特定した。2025年度には、これらの専門家から得たデータを活用し、開発したルーブリックのさらなる改善を図る。具体的には、改善版ルーブリックを大学英語教員に使用してもらい、日本人大学生が執筆した論証エッセイを評価してもらう。その後、スコア分析を実施し、妥当性と信頼性を再度検証する予定である。

          二つ目のテーマは、CLILの授業における教育活動が学生の批判的思考に与える影響を分析するもので、2024年度に行った研究の継続である。上智大学で実践されているCLILの授業において、学生同士のインターアクションによって批判的思考がどのように発展するのかを質的に分析する。2025年度はブックチャプターの執筆を継続するとともに2024年度に収集したデータ分析および次の研究計画に取り組む。