申請プロジェクトの目的
『卒論、ゼミ論、レポートのための言語研究論文作成ワークブック』(第4版)を昨年度出版した。あわせて学生と教員に聞き取り調査によりニーズを特定し改訂を行った。本年度は近年のAIの発達と学生の使用状況を鑑み、さらに充実した内容の第5版を出版することを目的とする。あわせて電子書籍も出版する。
本プロジェクト申請に至ったこれまでの調査の成果
2011年度から2013年度まで、本学の教育イノベーション・プログラムにより、理論的基盤をまとめ(#1)、さらに外国語学部の学生1,222名を対象に調査を行い、詳細な分析を行った(#2)。2014年度は、外国語学部ドイツ語、フランス語、ポルトガル語、イスパニア語各学科に属する50名の学生の対象言語能力自己評価、履修した外国語科目の成績、外部試験の成績のみならず、他学部に属してはいるが外国語学習にとりわけ関心のある学生合計100名の自己評価と学習方略の関係を調査した(#3、#4)。2016年度は、全学部に視野を広げ、外国語学部のみならず、理工学部、文学部等の学生に調査を行い、自己評価、学習ストラテジー、専門分野の関係を探った(#5)。研究科の成果を生かしながら、2018年度は『論文の書き方』(#6)を発行、2019年はその改訂版『卒論、ゼミ論、レポートのための言語研究論文作成の手引き』(#7)を発行し、言語をテーマとするゼミの履修生に配布し好評を得ている。2020年度はさらにワークシート等を加えて内容を充実させた。2021年度はさらに多くの学生たちの研究に資するため同ワークブックの電子版を作成した。2022年度は第2版の改訂版を、2023年度は第3版を作成出版した。
期待される教育成果
主旨
理論言語学は、過去半世紀の間に著しい発展を遂げてきたが、その注目すべき成果の一つは、人間言語の普遍性と多様性とを、適正な方法論に基づいて正面から問うことができる理論的基盤を確立したことである。言語に普遍性が存在することは、言語が生物学的な種としてのヒトの特性として獲得・使用可能なものであるという事実からの必然的帰結であるが、その一方で、現実の言語には広範な多様性が存在する。言語の普遍的特性は何であろうか。また、言語の多様性の根源は何であろうか。
以上の問題意識から出発し、この共同研究では2012年度から2023年度にかけて、主にドイツ語・英語・日本語・トンガ語の実証的な比較、対照研究に基づきながら、「統辞法の原始演算」「否定と経済性との関係」「生物言語学のメカニズムの因果性」をはじめとする様々なトピックの扱いを通じて言語の普遍性・多様性の実相の一端を明らかにしてきた。さらには、「空間移動表現」「放出動詞」といったトピックを手がかりに、統辞論とレキシコンとの密接な関係にも着目し、語彙特性が様々な文法現象にどのように関与しているのかという点についても詳細な検討を加えてきた。こうした多彩な実証的成果を踏まえ、2024年度も、言語の普遍性・多様性や統辞論とレキシコンのインターフェイスをめぐる諸問題について、引き続き理論的な考察を深めていく予定である。
本共同研究の背景、目的および進捗状況
話し手の数が相対的に少ない少数言語は、近代化の過程で衰退・消滅が進むと考えられてきた。実際、世界各地で少数言語の消滅が進んでいることが報告されている。一方、少数言語の維持・復興・再活性化をめざす動きも多くみられる。従来、言語取り替えに対して少数言語の保持をめざす運動や政策の調査は、言語維持・取り替え研究という枠組みで行われることが多かった。そこにおいては、言語共同体内での母語話者の再生産が、言語維持・復興のために中核的な重要性をもつことが前提とされてきた。
しかし、現実には、特定地域における話者の共同体を維持することが困難な場合が少なくなく、また、その共同体自体の多様な(多言語的・多文化的)性格が次第に認識されるようになった結果、母語話者による継承を補完する、あるいは乗り越える新たな方法が模索されてきた。本研究では、近年注目されている、そのような動きに焦点をあてて、言語をこえた比較を行う。異なるタイプの少数言語を比較することで、少数言語復興の枠組みにとどまらない言語の社会的なあり方自体について、新しい知見を得ることをめざす。
具体的には、家庭外の教育機関などで少数言語を身につけた「新話者」といわれる話者タイプの存在、地域共同体での使用・継承をこえた「ポスト・ヴァナキュラー」と呼ばれる言語使用のあり方、非話者を含む地域の資源として少数言語をとらえる試みなどを、言語習得・教育および使用、アイデンティティ、イデオロギーの各観点から比較検討する。主に、いずれも特徴的な独自の動向がみられるヨーロッパの少数言語であるケルノウ(コーンウォール)語、ソルブ語、バスク語、フランコプロヴァンス語および日本のアイヌ語をとりあげ、南米など他地域の少数言語の状況をも参照する。2024年度は、引き続き、共通する点や相違を探っていく。
主旨
情報技術の発達によりコーパス言語学が様々な分野で大きく発展しており、中でも談話分析や文法研究に大きく貢献している。本研究は、現代フランス語のディスコースマーカーを対象にし、コーパス研究によりその理解を深めることを目的とする。
コーパスとしては、主にATILF(Analyse et Traitement Informatique de la Langue Française)が開発しているFrantextとELRA(European Language Resources Association)が提供しているLe Monde紙のコーパスを使用している。Frantextは数世紀にわたる様々なジャンルの作品で構成されるコーパスである一方、Le Monde紙のコーパスは現代における標準的な書き言葉による均質なコーパスである。性格の異なる2種類のコーパスを活用することで、大規模コーパスの計量的調査を中心に様々なアプローチで研究対象を検討することが可能となる。
このような調査手法を用いることで期待できる研究成果は主に、ネイティブチェックによってマーカー同士の置換可能性を測るといった従来の手法では明らかにすることが難しいマーカーの統語論的、談話論的な生起環境、共起する形式といった、使用傾向を明らかにし、それぞれの本質を浮き彫りにすることである。
2019~2023年度においては、上記のコーパスを使用したディスコースマーカーの研究を行う中で、既にその成果の一部を発表するに至っている。その結果に基づいて、2024年度はさらにLe Monde紙のコーパスを拡張し、データ収集とその分析を深めていく予定である。
概要
批判的思考力は英語教育を含む現代の教育現場において培われるべき能力の一つとして認められている。特に内容言語統合型学習 (CLIL) において、その能力は言語運用能力、科目の知識と共に重要視されている。本共同研究では、大学レベルでのCLILに焦点を当て、以下の二つの研究課題を扱う。
一つ目の研究課題では、CLILにおけるライティング課題から学生の批判的思考を測定するためのルーブリックの開発を目指す。研究代表者は、2023年度に論証エッセイから批判的思考力を測るルーブリックを開発し、スコア分析を通して妥当性と信頼性を検証した。2024年度には、そのルーブリックを発展させ、CLILで課される他のタイプのライティング課題で批判的思考力を測定するルーブリックを開発する。具体的には、開発したルーブリックを3人の大学英語教員に使用してもらい、日本人大学生が書いたライティングの評価を依頼し、スコア分析を行い、妥当性と信頼性を検証する。
二つ目の研究課題では、CLILの授業における教育活動が学生の批判的思考にどのような影響をもたらすかを明らかにする。上智大学で実践されているCLILの授業において、学生同士のインターアクションによって批判的思考がどのように発展していくのかを質的に分析する。今年度は2024年8月に開催されるAILA (International Association of Applied Linguistics)での発表に向けて、インターアクションでのポライトネスと批判的思考に焦点を当てた分析を進める。その過程で、教室談話分析の専門家であるChristiane Dalton-Puffer教授とAna Llinares教授からデータ分析に関するアドバイスを受け、まだ研究の少ない学習者同士のグループディスカッションに焦点をあててさらにデータ分析を進めていく。また、これまでの研究を踏まえて次の研究計画を作成しデータ収集を行う。