目的
2011年度から行った、学習ストラテジー(外国語を習得するために学習者が用いる大局的な方法)、学習スタイル(各学習者の外国語学習に対する性向)、および専攻分野(自然科学系、社会科学系、人文系)に関する基礎研究を元にして、言語研究の小論文、論文の書き方を作成した。本年度は、使用者にアンケートおよび聞き取り調査を通してニーズ分析を行い、冊子の内容を充実させる。
これまでの研究成果
2011年度から2013年度まで、本学の教育イノベーション・プログラムにより、理論的基盤をまとめ(#1)、さらに外国語学部の学生1,222名を対象に調査を行い、詳細な分析を行った(#2)。2014年度は、外国語学部ドイツ語、フランス語、ポルトガル語、イスパニア語各学科に属する50名の学生の対象言語能力自己評価、履修した外国語科目の成績、外部試験の成績のみならず、他学部に属してはいるが外国語学習にとりわけ関心のある学生合計100名の自己評価と学習方略の関係を調査した(#3、#4)。2016年度は、全学部に視野を広げ、外国語学部のみならず、理工学部、文学部等の学生に調査を行い、自己評価、学習ストラテジー、専門分野の関係を探った(#5)。研究科の成果を生かしながら、2018年度は『論文の書き方』(#6)を発行、2019年はその改訂版『卒論、ゼミ論、レポートのための言語研究論文作成の手引き』(#7)を発行し、言語をテーマとするゼミの履修生に配布し好評を得ている。2020年度はさらにワークシート等を加えて内容を充実させた。2021年度はさらに多くの学生たちの研究に資するため同ワークブックの電子版を作成した。
期待される教育効果
学習者の習得段階を把握することにより指導案および教材を作成の手立てとなる。
概要
2022年4月からの活動はCLILと EMIへの教師の関与に関する質的研究を展開させ、ズームにおいて日本および海外からの講師を招き、講演会およびパネルディスカッションを開き、研究メンバーが積極的に対話をする機会を設けたい。インタビューに関しても内容を正式の許可を得た上で紹介し、報告書にも内容をまとめる。2022年の成果物としてはCLILとEMIへの教師の関与に関する質的研究報告書を作成することである。
2021年度より行っているCLILにおける批判的思考とアプローチの長期的考察に関しては内容学習と言語学習を統合した対話的な学びを目指すCLILのアプローチを用いた上智大学での英語の授業が内容学習の導入時の活動や発展的活動などの各段階においてどのように行われ、教室談話とクリティカルシンキング(批判的思考)にどのように変化をもたらすのかを質的に分析することを目的とする。2022年度は第2回目・3回目のデータ分析を進めるとともに2021年度秋学期に収集するデータ分析に着手する。特にまだ研究の少ない学習者同士のグループディスカッションに焦点をあててデータ分析を進めていく。この分析結果をJACETなどでの学会発表や論文執筆につなげていきたいと考えている。2021年1月に新しいプロジェクトが立ち上げられ、公益財団法人海外子女教育振興財団の矢島美奈氏と逸見研究員が共同で企画、実施した小学生のためのCLILワークショップの授業音声データを収集した。2022年度には、8回のクラスから得たデータを分析する。 教師と生徒、およびペアやグループで作業する生徒とのインタラクションで批判的思考を使ったタスクの中の談話を分析する。
概要
理論言語学は、過去半世紀の間に著しい発展を遂げてきたが、その注目すべき成果の一つは、人間言語の普遍性と多様性とを、適正な方法論に基づいて正面から問うことができる理論的基盤を確立したことである。言語に普遍性が存在することは、言語が生物学的な種としてのヒトの特性として獲得・使用可能なものであるという事実からの必然的帰結であるが、その一方で、現実の言語には広範な多様性が存在する。言語の普遍的特性は何であろうか。また、言語の多様性の根源は何であろうか。
以上の問題意識から出発し、この共同研究では2012年度から2021年度にかけて、主にドイツ語・英語・日本語・トンガ語の実証的な比較、対照研究に基づきながら、「統辞法の原始演算」「否定と経済性との関係」「生物言語学のメカニズムの因果性」をはじめとする様々なトピックの扱いを通じて言語の普遍性・多様性の実相の一端を明らかにしてきた。さらには、「空間移動表現」「放出動詞」といったトピックを手がかりに、統辞論とレキシコンとの密接な関係にも着目し、語彙特性が様々な文法現象にどのように関与しているのかという点についても詳細な検討を加えてきた。こうした多彩な実証的成果を踏まえ、2022年度も、言語の普遍性・多様性や統辞論とレキシコンのインターフェイスをめぐる諸問題について、引き続き理論的な考察を深めていく予定である。
本共同研究の背景、目的および進捗状況
話し手の数が相対的に少ない少数言語は、近代化の過程で衰退・消滅が進むと考えられてきた。実際、世界各地で少数言語の消滅が進んでいることが報告されている。一方、少数言語の維持・復興・再活性化をめざす動きも多くみられる。従来、言語取り替えに対して少数言語の保持をめざす運動や政策の調査は、言語維持・取り替え研究という枠組みで行われることが多かった。そこにおいては、言語共同体内での母語話者の再生産が、言語維持・復興のために中核的な重要性をもつことが前提とされてきた。
しかし、現実には、特定地域における話者の共同体を維持することが困難な場合が少なくなく、また、その共同体自体の多様な(多言語的・多文化的)性格が次第に認識されるようになった結果、母語話者による継承を補完する、あるいは乗り越える新たな方法が模索されてきた。本研究では、近年注目されている、そのような動きに焦点をあてて、言語をこえた比較を行う。異なるタイプの少数言語を比較することで、少数言語復興の枠組みにとどまらない言語の社会的なあり方自体について、新しい知見を得ることをめざす。
具体的には、家庭外の教育機関などで少数言語を身につけた「新話者」といわれる話者タイプの存在、地域共同体での使用・継承をこえた「ポスト・ヴァナキュラー」と呼ばれる言語使用のあり方、非話者を含む地域の資源として少数言語をとらえる試みなどを、言語習得・教育および使用、アイデンティティ、イデオロギーの各観点から比較検討する。主に、いずれも特徴的な独自の動向がみられるヨーロッパの少数言語であるケルノウ(コーンウォール)語、ソルブ語、バスク語、フランコプロヴァンス語および日本のアイヌ語をとりあげ、南米など他地域の少数言語の状況をも参照する。2021年度は、それぞれの地域について相互に現状や課題を提示した。それに基づいて2022年度は、共通する点や相違を探っていくことになる。
概要
第二言語習得研究は欧米語では盛んだが、日本語に関しては、特に学習者の認知的なメカニズムの側面から習得を探る実証研究はそれほど多くない。第二言語習得は外的要因(学習環境、教授法)と内的要因(学習者の特性)、言語形式の特性(発達段階、難易度)などが複合的に絡み合う複雑なプロセスである。その根底には学習者の内的な認知的メカニズム、さらには脳内メカニズムが存在する。これらの複雑な関係を一つ一つ解き明かしていく必要がある。
前年度に引き続き、現在の社会状況においては、来日する留学生の減少や対面でのデータ収集の難しさといった問題があり、新たなデータ収集の機会はあまり見込めない。よって、2022年度も、過去に収集したデータの未分析の部分を見直したりコーパスを活用したり、次なるデータ収集の実験材料の準備などに充てる予定である。昨年度にデータ分析を始めた課題をさらに論文執筆につなげていきたい。
1) 国立国語研究所が構築した大規模な日本語学習者コーパス(I-JAS)を用い、学習者の発話を抽出する。特にヴォイスを含めたナラティブの発達過程に着目する。言語処理可能性理論による普遍の発達段階が日本語にも適用されているが、さらにデータの統計分析を行い、発達モデルをより強固なものにすることを目ざす。
2) モンゴル語話者の言語適性と学習成果のデータを用いて、特に音韻的短期記憶(非単語再生テスト)と学習成果との関連を分析する。音韻的短期記憶は特に学習初期の語彙や文法の発達に影響があると考えられるので、学習者の8か月間の熟達度の変化との関係を調べる。
3) 上級学習者の動機づけと言語能力の自己評価の量的データ及び学習歴に関するインタービューによる質的データを統合し, 動機づけを形成する要因を調べる。また、学習条件の違いによる習得へのインパクトを調べるために、実験材料の検討と、実験作成を目ざす。
概要
本研究は,2021年度の研究課題「音声学および語学教育におけるオンラインリソース活用に関する研究」の継続である。各種クラウド環境および対面環境を併用する音声教育システムの開発と基礎研究を行うことを目的とする.
COVID-19の収束がなかなか見通せない一方で,教育・研究におけるリモート環境の運用において様々な経験が蓄積され,リモート環境のメリットとデメリットについても多くの議論がある。特に,リモートと対面のハイブリッド環境における実践は今も試行錯誤が続いている。例えば,教室内にいる対面の参加者がそれぞれマイクとスピーカーをオンにしていれば,すぐにハウリングノイズが響き渡ることは頻繁にあり,なかなか克服できない。これは複数のマイクを集中的にコントロールするミキサーやスピーカーシステムを導入することで,より頑健なハイブリッド環境を構築することが可能である。また,音声学に関わる実験においては,密閉状態にあって十分な換気が難しい防音室に長時間参加者を留まらせる課題は行いにくい。これには,あらかじめマイクを参加者の元に送っておいて,リモート環境で接続を行いながら細かな教示を与え,録音を行うことが考えられる。さらに,知覚実験の場合は有料の実験プラットフォームが複数登場してきており,参加者のリクルートを含めた組織的な運用が可能になってきている。
このような現状に鑑み,音響機材をさらに充実させると共に,有料の実験プラットフォームを試用することを含め,様々なノウハウを蓄積することが必要である。2022年度はそのための機材・用品・オンラインソフトウェア等の購入費用を重点的に申請する。
情報技術の発達によりコーパス言語学が様々な分野で大きく発展しており、中でも談話分析や文法研究に大きく貢献している。本研究は、現代フランス語のディスコースマーカーを対象にし、コーパス研究によりその理解を深めることを目的とする。
コーパスとしては、主にATILF(Analyse et Traitement Informatique de la Langue Française)が開発しているFrantextとELRA(European Language Resources Association)が提供しているLe Monde紙のコーパスを使用している。Frantextは数世紀にわたる様々なジャンルの作品で構成されるコーパスである一方、Le Monde紙のコーパスは現代における標準的な書き言葉による均質なコーパスである。性格の異なる2種類のコーパスを活用することで、大規模コーパスの計量的調査を中心に様々なアプローチで研究対象を検討することが可能となる。
このような調査手法を用いることで期待できる研究成果は主に、ネイティブチェックによってマーカー同士の置換可能性を測るといった従来の手法では明らかにすることが難しいマーカーの統語論的、談話論的な生起環境、共起する形式といった、使用傾向を明らかにし、それぞれの本質を浮き彫りにすることである。
2019~2021年度においては、上記のコーパスを使用したディスコースマーカーの研究を行う中で、既にその成果の一部を発表するに至っている。その結果に基づいて、2022年度はさらにLe Monde紙のコーパスを拡張し、データ収集とその分析を深めていく予定である。
概要
批判的思考力はいくつかの英語教授法において培われるべき能力として認められている。特に大学レベルで実施されているEnglish for Academic Purposes(EAP)やContent and Language Integrated Learning (CLIL)においてその能力は重要視されている。しかしながら、批判的思考力の定義は広く、また多くの副次的能力(subskills)が存在するため(Paul & Elder, 2014)、第二言語として英語を学習する学生の批判的思考力を測定することは困難である。
本研究は、第二言語として英語を学習する学生が書いたライティングの評価において、批判的思考力のどの副次的能力が重要であるかを明らかにするために2021年度に開始された。一年目には、大学生がCLILの授業において提出した10本の論証エッセイを6人の批判的思考力の専門家が読み、学生の批判的思考力を評価した。その際、エッセイのどの部分が評価に影響を与えたのかを同専門家に話してもらい(思考発話法を導入)、個人インタビューも実施した。
二年目である2022年度には、さらに4人の専門家からデータを収集し、思考発話法およびインタビューから得たデータの分析を実施する。分析後には論文の執筆を行い、出版を目指す(次年度以降)。予算は評価を依頼する大学教員や研究者への謝金として、またデータの書き起こしに使用される予定である(作業は英文テープ起こしサービス会社、Criptonに依頼する予定)。