成果公開

講演

上智大学イスラーム地域研究所・京都大学イスラーム地域研究センター主催連続講演会
今日のスーフィズム:神秘主義の諸相を知る
(Sophia Open Research Weeks 2021企画)

第1回 11月19日(金)~29日(月) イディリス・ダニシマズ(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科客員准教授) 「神への愛のために被造物を助ける:スーフィズムにおける社会扶助の理念と実践」質問と回答

Q01: 現代スーフィズムが公共の場へ進出するためのひとつの手法、ないし在り方として大変興味深く拝聴しました。質問なのですが、THによる他国での奉仕や支援活動は、同様の活動を行う在地の他のイスラーム的な団体(タリーカ等)や他宗教の団体からはどのように見られているのでしょうか。地域や国によって状況は異なるかと思いますので、例として一国あるいは一地域を挙げてご教示いただけますと幸いです。

A: ご質問ありがとうございます。THの支援活動が比較的に集中しているアフリカを中心お答えいたします。アフリカと言っても、地域や国によって差がありますので、一枚岩ではありません。タンザニアのように、大いに歓迎される地域もあれば、その他の一部の地域では、否定的な態度も見られます。否定的な見方の原因は、同様の活動を行う在地の他の団体の態度によるものではなく、2016年に、トルコで起こったクーデター未遂事件への関与の疑いで始められた、THの母体運動の「ギュレン・奉仕運動」に対するパージ・キャンペーンの影響だと言えます。ギュレン・奉仕運動は、最初から、クーデターへの関与を否定してきましたが、トルコの現政権は、クーデター関与疑惑を理由に、同運動の国内の施設や事業の閉鎖を命じました。また、現政権は、国外の事業についても閉鎖キャンペーンを行っており、それを、外交を通じて、現地政府にプレッシャーをかけて、直接閉鎖させるか、トルコ政府に譲り渡せるかの形で行っています。その結果、例えば、チャドのような、ムスリム人口の多い地域では、同運動の学校が閉鎖され、TH活動も事実難しくなっています。しかし、まだ、現政権のその要請に応じない、タンザニアのような地域もあります。そのような地域では、THの支援活動が問題なく行われています。[回答者:講演担当者、イディリス・ダニシマズ]


Q02: スーフィズムの教えを背景にもつTHという団体の幅広い活動を知ることができましたが、THが援助する相手はイスラーム教徒だけなのでしょうか。それとも、宗教には関係なく援助するのでしょうか。東北大震災のときは宗教に関係なく援助したのだと思いますが、他の例ではどうなのでしょうか。

A: ご質問ありがとうございます。そうですね、実は、似たような疑問は講演者ももっており、すでに、THのオランダのディレクターにも、タンザニアの支部の現地スタッフにも訊いていました。彼らから得た情報に基づいて答えますと、宗教と関係なく活動が行われていると言えます。確かに、THのコアー・メンバーがイスラーム教徒であり、ラマダーンや犠牲祭のキャンペーンも目立ちますので、ムスリムによるムスリムへの支援ではないかと思われるかもしれませんが、TH自体が、欧米において設立されているという背景の影響もあって、ボランティアや寄付者の間に少なからず、非ムスリムの方が含まれているようです。同じく、被支援者の間にも、非ムスリムが多く含まれています。従って、宗教の違いを見ず、支援を必要としている人々に、平等に支援が行われている言えます。[回答者:講演担当者、イディリス・ダニシマズ]


Q03: 専門家ではないので、ちょっとむずかしかったですが、たくさんのことを学びました。この内容を日本語で講演できる先生はすごいと思いました。一点、基本的なことかもしれませんが、近代になってイスラームの改革が叫ばれたとき、なぜスーフィズムが非イスラーム的として非難されたのかがよくわかりませんでした。教えていただけると幸いです。

A: ご質問ありがとうございます。また、お褒めことばをいただき、光栄です。
 ご質問を、どのような批判があって、スーフィズムが非イスラーム的なものだとされたかと言い換えて、お答えいたします。主な批判点としては、音楽とダンスを伴うズィクルのほか、スーフィー教団の長等の過去の特別な人物が埋葬されている墓廟の訪問、墓廟を対象とする様々なイベントの開催や埋葬されている「聖者」を通しての神への願いかけ等の一連の行いが挙げられます。そのような儀式等は、イスラームの啓典クルアーンと預言者ムハンマドの言行録(ハディース)に見られないビドア(逸脱)であるとされました。スーフィズムへの批判の度合いも様々です。批判者の中に、18世紀半ばのアラビア半島に生きたアブドゥル・ワッハーブ(1792年没)の思想に共鳴するワッハーブ主義のように、スーフィズムを全面的に否定する傾向もあれば、19世紀に活躍したアフガーニー(1897年没)やムハンマド・アブドゥフ(1905年没)のように、過剰な部分のみが排除されるすべきだと主張した潮流もありました。そのように、批判のレベルが異なっても、彼らの思想の共通の点は、当時のイスラーム社会の改革であり、スーフィズムがその改革の妨げだと見做されたということです。[回答者:講演担当者、イディリス・ダニシマズ]



  • NIHU現代中東地域研究上智大学拠点(2016-2021)
  • 上智大学・早稲田大学共同研究 アジア・アフリカにおける諸宗教の関係の歴史と現状
  • 上智大学 イスラーム地域研究(2015)
  • 公募研究SOIAS(2008-2012)
  • ジャウィ文書研究会アーカイブ

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